インターカルチュラル・シティ・プログラム 人権や民主主義などの発展に取り組む欧州評議会が主導し、2008年に始まった。加盟都市の多様性を生かした都市政策を支援し、欧州を中心に136都市が加盟。日本からは浜松市が加わっている。
--インターカルチュラリズムと多文化主義(マルチカルチュラリズム)とはどう違うのですか。
多文化主義では、新たにやってきた人々も市民として同じ権利を持ち、自分の宗教や言語、慣習を保ち続けられます。1980年代まではうまくいっているように見えましたが、それぞれが自分たちの小さなサークルの中にとどまらなければならないという問題が出てきました。
たとえば、親がパキスタン出身であればパキスタン系とみなされます。そして自分たちのグループが、地元にコミュニティーセンター建設を求めるのであれば、行政に「私たちは独自のグループだ」と強調する必要があったのです。しかし「我々は他者とは違う」と強調することは、人々の間に壁を作ることになるだけでなく、一つのアイデンティティーを強制することにもつながります。
世界は複数のアイデンティティーといった、別の方向に向かっています。多文化主義が失敗したのではなく、現代化する必要があるのです。「多文化主義は失敗した」とみなすことについては、英国でも論争があります。少数派の権利保護など多くの成功も収めており、私たちはそれらを捨てるわけではないからです。
--インターカルチュラリズムの特徴はなんでしょうか。
「静的」な多文化主義と違い、「動的」であることです。多文化主義は一つのアイデンティティーの集団に属している限りは権利を与えられます。一方、インターカルチュラリズムは、そこには動きがあると考えています。人生においていくつもの異なるアイデンティティーを持つことは自然なことで、その時々に応じて、別のことを優先させたり、異なったことを信じたりすることがあります。
異なる人々が集まればそこに摩擦が生まれますが、それは自然な作用です。私たちの生活に必要な炎を生むのも摩擦です。多文化主義の問題は、摩擦を恐れ、避けたことにあります。摩擦が起きたら、話し合わなければなりません。特に公共部門やNGOには、こうした状況に対処し、仲裁できる人材が必要です。
--なぜこの考え方を都市政策に適用しようとしたのですか。
(人の移動がグローバルになり)世界がより動的なものになるにつれ、国民国家は試練に直面しています。国民国家とは境界で規定されるものだからです。誰を入れ、誰を入れないかこそが重要なのです。
一方で都市は、交差路で人々が交易することから始まり、多様性によって発展してきました。多様な物があるほど市場が発展し、より多くの人が住むようになるからです。多様性を通じて新たな答えを見つける場所でもあります。より多くの異なる考え方を持つ人がいるほうが、創造的な解決策が見つかるのです。
もう一つ、都市とは国家のようなイデオロギー的なものではなく、プラグマティックな存在です。都市が考えるべきことは、公共バスやごみの収集など住民のためのよりよい都市運営で、そこに住んでいれば、あなたはその都市の一員です。私たちはプラグマティックな、非イデオロギー的なアプローチの方が、多様性をうまく扱うことができると考えたのです。
--加盟都市に対しては、どんな考え方に基づく取り組みを推奨していますか。
私たちはICCインデックスという指標をつくって都市を評価しており、教育、ビジネス、地域社会、政治などの分野で多くの質問に答えてもらいます。どの分野に力を入れるかは都市によって異なります。
たとえば昨日参加した会議で紹介したのは、私の地元での草の根レベルの取り組みです。英国でも、民族や宗教によって住む地域が分かれるという問題が発生していて、1キロ程度しか離れていなくても、ある学校は白人がほとんどで、隣の学校は南アジア系の子どもが大半といったことが起きています。こうした地域で、生徒が互いの学校を訪れて自分たちの文化について話したり、地元に最近移住してきた難民に学校で自分たちのことを話してもらう取り組みをしています。
また、(白人至上主義者に殺害された)英国のジョー・コックス議員の遺族が提唱した「The Great Get Together」というイベントでは、路上や公園でパーティーを開き、異なる文化的背景を持つ人たちが会話をするきっかけをつくっています。
--こうした活動の一方、欧州では反移民感情の高まりも指摘されています。
世界は急速に変化しています。人々は、まじめに生きていれば良い仕事と家を得られ、子どもにも教育を受けさせられると教えられてきましたが、その約束が守られなくなっていると感じています。将来への不安を抱いているのです。誰のせいでこうなったのかと考える時、目に見える変化の兆しである移民を、「彼らのせいだ」と非難するようになります。「私たち」ではない「他者」と考えてしまうのです。
--「移民によって自分たちが脇に追いやられている」と感じる多数派の人々に、どうやったら多様性の強みを理解してもらえますか?
勝者と敗者、ゼロサムゲームではなく物事を違う視点から見ることが必要です。ウィンウィンの状況を求めるのです。多様性によって、分配するケーキそのものを大きくできるということを伝えるのです。
フィル・ウッド Phil Wood
都市政策専門家。1959年生まれ。英国・ハダースフィールド出身。欧州評議会インターカルチュラル・シティ・プログラム首席アドバイザーを務める。