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先送り迫られたフェイスブックの「リブラ」 それでもお金の形は変わっていく

World Now
米議会下院の公聴会で証言するフェイスブックのザッカーバーグCEO=ワシントン、ランハム裕子撮影

世界で27億人の利用者を抱えるフェイスブックが今年6月に打ち出したデジタル通貨「リブラ」構想は、世界に衝撃を与えた。国家の枠組みを超える巨大な通貨圏が生まれる可能性があるからだ。

「世界で17億人が銀行口座を持っていない。低コストで速く、高い安全性を持つ国境を越えた送金サービスを提供する」。発行・管理団体「リブラ協会」の政策部門責任者、ダンテ・ディスパーテ(42)はそう強調する。

先進国と違い、途上国には金融サービスからこぼれ落ちる人が多い。銀行間の国際送金は手数料も高い。仮想通貨には価格が乱高下するという弱みがあったが、リブラは米ドルやユーロ、日本円などを組み合わせた資産を裏付けにして、価値を安定させるという。

2019年6月に発表された暗号資産「リブラ」のホワイトペーパー =尾形聡彦撮影

ただ、リブラには金融機関を監督、支援する中央銀行のような存在がない。元財務官で国際通貨研究所理事長の渡辺博史(70)は「危機に陥っても、札束を積み上げて預金者を安心させるようなことができない」。日銀出身の弁護士、長野聡(57)も「リブラ協会が裏付け資産の構成を恣意的に変更すれば、各国の金融政策に影響を与える可能性がある」と指摘する。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は10月、「深刻なリスクがある」として懸念が払拭されるまで発行を認めない姿勢を示した。ディスパーテも「計画公表が拙速で、当局との議論が足りなかった」と話す。

米国を始め国際的な批判が強まるなか、リブラ協会に参加を予定していたビザとマスターカードの米2大クレジットカード会社や、ネット決済大手ペイパルなどが離脱。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は10月23日の米下院で、「米国の規制当局が承認するまでは、世界のどの地域でもリブラの立ち上げには参加しない」と表明し、当初目標としていた2020年上半期の発行を事実上断念した。

米議会下院の公聴会に臨むフェイスブックのザッカーバーグCEO(左)=2019年10月23日、ワシントン、ランハム裕子撮影

リブラに使われるブロックチェーンの技術は分散型台帳とも呼ばれ、ネット上でつながる世界中の参加者が、取引の正当性をチェックし合う仕組みだ。最初に使われた通貨がビットコイン。2008年のリーマン・ショック直後、「サトシ・ナカモト」名でインターネット上に構想が公開され、国家管理でない通貨は、アンチ法定通貨として存在感を増した。13年のキプロス危機では、政府が銀行の預金課税を打ち出し、資産を移す人が急増した。

今ではスマホやICカードなどで、お金は形を変えて使われている。中国などでは国家によるデジタル通貨の構想もある。航空会社のマイル、楽天やヤフーなど企業のポイントも、お金のような扱いだ。もはや、お札やコインのように手触りのある貨幣だけが、お金ではない時代になった。(星野眞三雄)