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文在寅大統領が青瓦台の全職員に贈った、「韓国90年代生まれの実像」

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
田辺拓也撮影

1982年生まれの著者も、90年代生まれは自分たちとは明らかに異なると認識しているらしい。本著『90年代生まれが来る』の母体は、著者の修士論文だという。

60年代生まれで80年代に大学に通った「386世代」、70年代生まれは「X世代」、80年代生まれは「ミレニアル世代」と呼ばれた。90年代生まれは「9級公務員世代」だと言う。9級公務員とは、末端の公務員のことだ。

2018年6月、統計庁の発表した「2018年5月雇用動向」によると、青年(15~29歳)失業率は10.5%で、2000年以来、最高値を記録した。著者によると、青年層の就活者65万2000人のうち、公務員試験を準備する者が40%に達するという。合格率はたったの1.8%。不合格者はまた、翌年の試験に再挑戦する。受験生は増える一方だ。

著者は、90年代生まれをこう分析する。幼いころから、スマホでネットにつながっているのが当たり前。紙の情報を求めず、長いテキストを嫌う。言葉を短縮した省略語で意思疎通。政治や経済などすべての分野で、完全無欠な正義を要求する。不当で非合理な状況を、黙って見過ごさない。90年代生まれの新入社員は、入社の瞬間から離職を考えているという。

93年生まれの就活生の話がある。

「中小企業は経営者のマインドがクズだ。こき使って捨てるだけで、社員の未来に関心も持たない。政府がいくら中小企業に補助金を出して、大企業との月給の格差を縮めてみても、経営風土が変わらなければ、なんの意味もない」

全労働者の3割以上が、非正規雇用という現実。狭き門を突破して大企業に就職しても、待っているのは早期退職という未来。定年まで勤めたければ、公務員を目指すしかない。それも、高きを望まない。それこそが最も合理的な選択なのだ。

帯に、「文在寅大統領が青瓦台の全職員にプレゼントした本」とある。公務員の増員は、文政権の公約でもあった。

読み進みながら、新世代の隠語を紙のテキストで学ぶ自分が、今の韓国社会から取り残された存在なのかと、なんだかみじめな気持ちになってきた。

■他人の思い出が、心に降りてくる瞬間とは

続いて紹介する2人の男性作家には、共通点がある。詩を書くこと。一人でいるのを好むこと。そして、他人と出会う場所を持っていること。

1位の『疲れたか好きなことがないのか』の著者クルぺウは31歳。学生時代に詩を書いて認められ、コピーライターを目指したが挫折。大学を中退し、事業を起こして失敗。どん底からはい上がり、エッセーがベストセラーに。自身の運営する「悩み相談所」に、年間2000人が訪れるという。

詩のような散文の中から、つらかった過去が垣間見える。借金を抱え、ソウル駅前で毎日、餅を売ったこともあった。ひりひりと痛くなるほどの絶叫がある。生きるための切実な渇望がある。

その激しさとは対照的な文章に、ふと心が和む。

信号を待つ理由は/必ず変わることを知っているから/だから大変でもちょっと我慢しよう/必ず変わるのだから/良い方に/信号のように

詩人イ・ビョンユルには、『惹かれる』『風が吹く、あなたが好きだ』『私の隣にいる人』の「旅行散文3部作」と呼ばれるヒット作がある。写真が多用された旅のエッセー集だ。4年ぶりのエッセー『一人が一人に』にも、旅が随所に登場し、写真がちりばめられている。

旅の思い出を本にする作家は多い。「気ままに旅して、撮った写真と散文を本にして、売って暮らしてみたい」などと言う人の頭には、きっとイのヒット作のタイトルが浮かんでいるはず。そしてその人は、イの本を読んではいないはずと、私は思う。

個人の旅の思い出は、他人には何の意味も持たない。心の深い所に降りていく力があるからこそ、読者は惹かれるのだ。

一人で真冬の北海道を、ただ雪に埋もれるために歩く。上海の大学の食堂の調理場で、言葉も通じないまま料理人たちと日々を過ごす。東欧の田舎で、当てもなくバスに揺られる。運転手が突然、バスを止めて、積もった雪を新聞紙に包んで、外側からバスの窓を拭いた。

「きれいになった窓の向こうの風景を撮るふりをしたが、私は実は、感動でどうすることもできない顔を隠すのに、その方法しかなかった。どこから来たかも、名前も、どこが終点かもわからぬ客に、手を真っ黒にしてまで彼がしたかった最善のもてなしが、それだった」

一人で歩くのが好きなのに、人と出会うことが好きで、カフェを経営している、らしい。

「(フィルムカメラは)どんな写真が現れるかもわからないから、撮りながら少しは緊張するもの。それが何であれ、今すぐ私たちが切実に願っているのは、残酷な美しさだ」

この人は、フィルムカメラを使って撮影しているのだろうか。読み終わった本のページをまた繰って、写真をたどりたくなった。

韓国のベストセラー

10月第1週 教保文庫(総合)

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 지쳤거나 좋아하는 게 없거나   疲れたか好きなことがないのか

글배우 クルペウ

小さな本に勇気づけられ、心を引っ張られる幸せ。迷える人へ贈るエッセー。

2 90년생이 온다  90年代生まれが来る

임흥택 イム・フンテク

末端の公務員を目指す90年代生まれの就活生たち。新世代の意識を解明する。

3 베스트 셀프   ベストセルフ

마이크 베이어 マイク・ベイヤ

最高の自我という目標に到達し、素晴らしい人生を送るためのアドバイス。

4 혼자가 혼자에게  一人が一人に

이병률 イ・ビョンユル

旅する詩人のフォトエッセー。一人で歩み、他人と触れ合うことの幸せ。

5 사피엔스  『サピエンス全史』 河出書房新社

유발 하라리  ユヴァル・ノア・ハラリ

類人猿からサイボーグまで、人間の歴史への壮大な問いかけ。

6 여행의 이유   旅の理由

김영하 キム・ヨンハ

旺盛な創作活動を行う小説家が、自身の旅について語ったエッセー。

7 흔한 남매2   ありふれた兄妹2(原作/ありふれた兄妹)

흔한남매, 백난도, 유난희  文/ペク・ナンド、絵/ユ・ナンヒ

チャンネル登録者が140万人を突破した、ユーチューブ発コメディーの漫画化。

8 맛 보장 반찬 특강  味保証、おかず特講

당근정말시러 タングンチョンマルシラ

人気ブロガーの家庭料理。インスタント食材や化学調味料に頼らないお袋の味。

9 82년생 김지영  『82年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房

조남주 チョ・ナムジュ

映画化で再び話題の小説。フェミニズムブームを牽引(けんいん)し、社会現象ともなった。

10 오늘은 이만 좀 쉴게요 今日はもう休みます

손힘찬 ソン・ヒムチャン

日本生まれ、12歳で韓国に住み始めたという20代の若きエッセイスト。