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グローバル時代に身を守るための「疑うすべを知る」というスキル

アグネスの子育てレシピ 更新日: 公開日:
山本倫子撮影

うちの子ども達は、いろいろな面白い体験をしています。

仕事の関係で、長男はよく中国に行くことがあります。

彼の名前は金子和平です。

中国の方は、「金子」は最強な名字だと彼の名前を話題にするのです。

「お金と子どもがいるというのは、一番幸せな事です」と言うのです。

そのおかげで、初対面でも、彼の名前を忘れる人はいないということです。

一方、「金子」の名字を見て、韓国の方は長男のお父さんが韓国人ではないかと思うそうです。

「日本ではよく『金』さんが日本の国籍を取る時に漢字を一つ足すと聞きます。あなたのお父さんは『金』さんでしょう」と聞いてくるのです。

息子が「いえ、お父さんは日本人です」と言っても、「いやいや、そう言わなくっていいですよ、分かりますよ」と勝手に思い込むのです。

その話を聞いたパパは大笑い、「名前のお陰で、友達が増えるね」と面白がります。

「パパは日本人です。でも別の国の人に間違えられても、それはそれでいい事です」と息子たちに教えました。

どこにも生まれても、誰が親であろうと、平等に人と付き合える人間になってほしいと私は思います。

■世論が操作される時代

しかしインターネットが普及してからは、Tribal mentality(部族思想)という、似た者同士の考えだけに止まり、他の人の意見を受け入れない現象が起きているようです。

世界情勢によって、国と国の間では何か気にくわない事が起きたりします。

そういう時、仲間を増やすために情報を操って、人を洗脳して憎しみをばら撒き、人種や国の間に亀裂を作り出す人が出るのです。

そういう事態が起きても、息子たちにはプロパガンダに左右されずに、冷静に判断できるようになってもらいたいものです。

この判断力は、特にグローバル時代に欠かせない自己防衛のスキルです。

最近はSNSで「いいね!」を売り買いするなどして人々の考え方を誘導するビジネスが出てきているといいます。民意を大きく動かして選挙の結果や国の運命を思い通りにできるというのです。

イギリスの選挙コンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカ(CA)がその一例です。

CAはイギリスがEU離脱を決めた国民投票でも、離脱賛成多数という結果に一役買っていたと言われています。

アメリカ大統領選ではトランプ氏の当選を同じ手法で勝ち取ったともいわれます。

フェイスブックからCAに大量に流出した有権者の個人データから、その人の好み、友人関係、習慣を知り、一番適切なプロパガンダを送り込み、人々の思想を変えていくという手法です。

CAはイギリス司法当局の捜索を受け、廃業しましたが、彼らが使った手段は他のコンサルティング会社も、国も、団体も同じように使えるのです。

大量の高度なプロパガンダが制作され、絶えず個人のSNSに送り込まれるようになっています。

送り込まれる情報の真偽を判断するのがますます難しくなってきました。

プロパガンダの主な方法は今も昔も同じです。

まずは危機感を与えます。「あなたの立場が侵されている!」。例えば、「アメリカは白人がどんどん少数派になって、あなたは有色人種に支配されるようになる」「中国があなたの仕事を奪っていく」「日本の車はあなたの会社を倒産させる」と、全てを失うかもしれない恐怖を与えます。

その次に「怒りましょう!みんなも怒ってる!」と怒りをあおるのです。そして、同じ考えの仲間がたくさんいると信じこませるのです。そして嘘の情報を信じた人に、「この情報を拡散しましょう」と呼びかけるのです。

次は「行動に出ないと危ない!」「反撃しましょう!」「デモに出よう」「相手を攻撃しましょう」と行動の方法を細かく教えるのです。そして「あなたがやっていることは革命です!」「時代を変えていきましょう」と行動を正当化していきます。

最後は「犠牲になる人は英雄」「勝つためにはどんな手段でも」と、正義のためには何をしてもいいと、普段には絶対にやらないような暴力的な行動をさせるのです。

これは昔からあった洗脳の仕方ですが、なぜ今それが、なおさら危ないのかといえば、拡散するスピードが速いからです。

実はケンブリッジ・アナリティカはこの方法を使って、中東、アフリカの選挙でも活動していたと言われています。

お金がある一部の人が大衆の思想をコントロールし、世の中を支配できてしまう時代の到来です。

恐ろしいですね。

■「疑う力」を育てる

どうすれば、惑わされないように子どもを育てていけるのか。

そのためには、ネット上で賢く自分を守る技術と、ネット上の情報を疑う力を育てることが大事です。 

アグネスさんと3人の息子。2001年ごろ、ローマにて(本人提供)

次男は大学生にいる時からネットについて警鐘を鳴らしていました。

エンジニアの彼は裏で個人データが集められている事を知って、心配していました。

「できるだけネットに足跡を残さない方がいい」

「コンピューターのカメラにはシールを貼った方がいい」

「サイトから情報公開を要求されても、同意しない方がいい」と私たちに警告をしていました。

私は彼の言葉で、気をつけるようになりました。

子育てをしている親たちはぜひ、携帯とコンピューターを使い始める子ども達に、ネットで身を守る簡単な方法を教えて欲しいと思います。

チャットができるサイトでは見知らぬ人と付き合わない、居場所を教えない、写真も送らないという事を教えてください。

■何を守り、何を共有するか。自分で決める 

心かけて自分のプライパシーを守る事が大事です。

ネットに繋がっていながら自分を守ることを何もしないのは、家の門も窓も開けて、誰でもすぐに入れるようにすることと同じです。

鍵をかける、ドアを閉める、カーテンを閉めるのと同じように、ネット上で誰と付き合うか、誰に何を見せるか、どんな情報を共有するのかを自分で決めなければなりません。

毎日垂れ流されてくる、たくさんの情報が子ども達の元に届きます。「これは本当?」とまず疑う心を持つ習慣をつけましょう。疑いを持ったら、もっと信頼できる他のサイトで確認したり、親に聞いたり、事実を調べたりした後でないと、100%信じてはいけないということを教えてください。

特に何回も何回も繰り返し送られてくるものには疑問を持ち、あえて反対側の意見を読んだり、いろんな角度から物事を見ることができるように子ども達を仕向けましょう。

「物事は白黒ではない」、「いろんな意見は世の中にある」、「違う意見も持つ人を憎んではいけない」と、偏る情報に警戒心を持つようにさせてください。

インターネットは便利です。

私たちはそれによって世界が広がりました。

でも、インターネットは果てしない大きい海のようです。

そこに投げ出された時、溺れないために、泳ぐ技術も向上させていかなければいけません。

私のような歳の人はどうしてもインターネットやコンピューターに抵抗感があります。

慣れてないから、うまく泳ぐ事が出来ず、ジタバタしてしまいます。

三男は指摘します。

「インターネットはこれからもっともっと日常に入り込んできます。好きとか嫌いとか、苦手意識とかを言ってる場合ではないです。どうやって賢く付き合っていくのかは、生き残るために必要なのです」

データを悪用する人々はこれからもどんどん現れます。

インターネットに対するルールが作られるのはこれからです。

規制すぎると、せっかくの自由な空間が息苦しくなる。

しかし規制しないと、詐欺に合う人、いじめられる人、フェイクニュースに洗脳される人がどんどん増える。

何かしら規則はやむを得ないと考える人が増えています。

でも今のインターネットはまだ無法地帯です。

その中で生きる子ども達を育てていくには不安は絶えないと思います。

でも、準備をしっかりして、あとは子ども達のたくましさを信じましょう。子どもたちは将来、私たちが想像できなかったような理想的な世界を築いてくれるのではと、私は期待しています。