1. HOME
  2. 特集
  3. 核の夢 二つの世界
  4. プルトニウムをため込みながら世界に非核化を訴える、日本の矛盾

プルトニウムをため込みながら世界に非核化を訴える、日本の矛盾

World Now 更新日: 公開日:
ピースボート共同代表の川崎哲氏=東京都新宿区、渡辺志帆撮影

――川崎さんは、2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の活動で知られています。ICANも「脱原発」の立場なのでしょうか。

ICANは世界の500以上の団体が加盟し、原発に対する意見も様々だ。そのためICANは原発について賛否の立場を取っていない。ただ、ウラン採掘への反対運動から反核運動に発展したオーストラリアの団体は、核兵器も原発も、両方だめという立場。英国も、伝統的に反原発と反核運動の親和性が高い。

私は「脱原発」を、ピースボートと個人の立場で訴えている。

――なぜ川崎さんは原発に反対なのですか。

原発の燃料に使うプルトニウムや濃縮ウランは「核兵器の材料」にもなる。つまり原爆につながる問題ということだ。

ピースボートの活動で、私たちは被爆者の方々と世界を回ってきた。被爆者の中でも、ずっと原発に賛成だった人や、原子力産業で働いてきた人が多くいた。その中で3.11(東日本大震災と東京電力福島第一原発事故)が起きた。その後は、被爆者が原爆の証言をすると、原発についても尋ねられる。「日本は原爆で苦労したのに、なぜ原発をつくったの」と。大きな問いかけになっている。

――日本が再処理したプルトニウムを国内外に約46トンを保有していることが問題になっています。

日本だけが特別にプルトニウムをため込んでいる。他にプルトニウムを大量に保有している国は核保有国。それも褒められたことではないが、一応は理解できる。核兵器の材料なんだから。でも核兵器を持っていないし、「造らない」と言っているにもかかわらず、なぜ日本はプルトニウムをため込むのか。原発で消費する見通しもないのに。合理的な説明がつかない。

――日本が核兵器保有を目指すおそれがあるということですか。

中国はそういう批判を繰り返しているが、国際的孤立を選んでまで日本に核兵器をつくる気があるとはとても思えない。核兵器をつくるとなれば、核不拡散条約(NPT)を脱退して北朝鮮のように経済制裁を受けることになる。

――では、どんな問題がありますか。

イランや北朝鮮に対して核開発を「やめて」と言わないといけないときに、日本が問題解決を複雑にする。「日本が認められているならいいじゃないか」「日本のように平和利用に取り組みつつ、高度な技術でプルトニウムを作れるようになりたい」と言われたら、今の日本の態度では、認めないという説明がつかない。世界が目指す「核の脅威」の封じ込めを妨害し、核拡散の温床になる。

また、保有プルトニウムのうち約9トンは国内にある。米国では核兵器と同じように武装して守られているというが、日本の防護体制はきわめて弱いし、テロ対策も不十分。そうした問題を早く解決しないといけない。

――それでも日本がプルトニウムを手放さないのはなぜでしょうか。

(核燃料サイクルを断念すると)中間貯蔵施設のある青森県が(国の約束に反して)最終処分場になるという「パンドラの箱」を開けたくないから、という説明もありうるが、疑問が残る。

日本原燃の再処理工場と関連施設。2021年に稼働し、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す予定でいる=2013年4月、青森県六ケ所村、朝日新聞社機から、遠藤啓生撮影

プルトニウムの生産能力を持っていること自体に、一定の価値を見いだす計算が日本政府の中にあるのではないか。1988年発効の日米原子力協定で、(核保有国でない)日本のプルトニウムの保有を例外として米国に認めさせたことが、いかに素晴らしい外交的成果だったかを説く日本人外交官に会ったことがある。イランにも北朝鮮にも韓国にもない、ある種の「特権」をみすみす手放していいのか、と。最終的に核武装能力につながるものを、一定の価値、あるいはアセット(有用なもの)として見ていると感じる。

――世界の原子力政策を見ると、先進国で撤退の動きがある中、インドや中国など新興国で新たに原発を建設する動きも活発です。

核兵器の開発や使用を法的に禁じる国際条約「核兵器禁止条約」が2017年に採択されたことで、「核兵器を持つことが大国である」という議論にくさびを打つことはできてきた。だが、条約に賛同した多数の国にとっても、「核技術はグレート(偉大)なもの」という考え方はいまだに根強い。そして、その延長線上にある原発などの技術も偉大ですごいという価値観を壊さない限りは、この問題は続く。

NPTの議論でも繰り返されてきたが、開発途上国の「核の平和利用の権利」の主張は、多分に「メンツ」の問題だ。先進国から指図されたくない、負けたくない、自分たちも発展して大国になりたいという願いや競争意識がある。だから、多くの開発途上国は「核兵器は悪だ。しかし、核技術は善だ」というNPT的思考をいまだに抜け出せていない。

私としては、「核兵器は非人道的である」と価値観を転換させた上で、「核技術も、危険で、恐ろしくて、悪いものである」というところへもっていきたい。

――日本は「アプローチが違う」として核兵器禁止条約は批准していません。米国の「核の傘」に守られているという現実もありますが、日本にできることはありますか。

核兵器禁止条約が発効した後、たとえ日本が批准していなくても、条約加盟を隠れ蓑にして核兵器開発を企てる国が現れないよう、検証方法の強化を提案することはできる。締約国会議に参加して、建設的な議論に参加することが期待されている。

■特集「核の夢 二つの世界」に登場した世界中の原子力専門家たちに、核のいまと未来を聞いたインタビューを掲載します。第6回の明日は、米クリントン政権で核不拡散問題に関わり、日本の原子力政策にも詳しい科学者のフランク・フォンヒッペル氏に聞きます。