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核の犯罪に備えるプロ集団 知られざる「核鑑識」の世界

World Now
核鑑識の第一人者クラウス・マイヤー氏=ドイツ南西部カールスルーエ、渡辺志帆撮影

――核鑑識の目的は何ですか。

私たちに提供された核物質のサンプルから、出どころや加工履歴を裏付ける情報を読み取り、捜査機関を助けることだ。具体的には、サンプルに含まれる核物質の同位体(同じ元素でも中性子の数が異なるもの)や不純物の組成、パターンを電子顕微鏡で見ていく。電子顕微鏡では粒子の大きさや形、分布なども観察する。こうした指標のすべてが、その核物質を、誰がどのようにつくったのかという謎を解くヒントになる。

同時に指標の解釈も重要だ。主な指標と核物質の製造工程の各段階とをひもづけなくてはいけないからだ。そのためには核物質の製造工程を十分に理解していなくてはいけないし、分析結果を試料やデータと比較・照合する必要がある。そうすることで、私たちは捜査機関に、捜査の手がかりとなる、核物質の起源を示す証拠を提供できる。

――国際原子力機関(IAEA)によると、核物質や放射性物質の密輸など犯罪がらみとみられる報告事例は、2006年ごろの約20件をピークに、ここ数年は横ばいか、減っているように見えます。

犯罪がらみと断定できなかった事案や、犯罪ではないものの管理上の問題があったものを含めると報告件数は全体的に増えている。ただIAEAに自発的に事案を報告する加盟国そのものの数が増えたし、密輸などを探知する装備も以前より普及した点に注意が必要だ。密輸が本当に増えているのか、以前見えていたのは「氷山の一角」で、今はそれ以外のより大きな部分が見えるようになっただけなのか、はっきりしない。ただ報告する国が増え、探知能力が向上し、セキュリティー文化がより醸成されたのは確かだろう。

――核鑑識で重要なのはどんな点ですか。

この10年で、世界各国の核鑑識を行う研究施設の数はとても増えたし、その分析能力も飛躍的に向上した。分析能力を決めるのは、扱った事件の数ではなく、「備え」があるかどうかだ。核物質や放射性物質がからむ事件が起きてから解析手法を確立するのでは遅すぎる。事件が起きてから、関係機関の担当者と名刺交換して連携を協議し始めるのでは遅すぎるということだ。

ここドイツにあるEUの共同研究センター(JRC)では、92年からドイツ警察と連携を始め、今では毎年、抜き打ちで警察と実践的な核鑑識訓練を行っている。核物質や放射性物質で汚染された証拠品から容疑者の指紋を採取したり、汚染されたデジタルカメラやパソコンからデータだけ抜き取ったりする訓練も行っている。

核物質の密輸対策をする国境警備隊員らを対象としたトレーニングの風景=ドイツ南西部カールスルーエ、渡辺志帆撮影

――これまでで一番印象深かった事件は何ですか。

押収された核物質の量としては、94年のドイツ南部ミュンヘン空港で押収された兵器級プルトニウムや濃縮リチウム金属が最大だけれど、これは私が96年にJRCの核鑑識チームに加わる前の話だ。

マスコミ報道の量としては01年のカールスルーエで起きた微量のプルトニウムを含む放射性廃棄物の窃盗事件だ。

この年の7月中旬から8月下旬にかけて分析をしたんだが、ちょうど私が夏休み明けで職場に戻ると、同僚から「長い夏になりそうだ」と言われたのを覚えている。そこから6週間の間に、容疑者の男の自宅の掃除機のゴミパックから車の革製シート、女性ものの下着、ティッシュペーパー、スポーツウェアまで約20件近くの分析をした。

――難しかったのはどんな点ですか。

当時の当局の最大の懸念は、「流出した核物質がほかにもあるかどうか」だった。容疑者の男は「(盗んだ核物質が)他にもある」と言ったり「ない」と言ったりして供述が揺らいでいた。だが最終的に私たちは「見つかった核物質以外に、流出があった証拠はない」という、一貫した所見を得ることができた。

――核鑑識の分野で後発の日本も、11年から日本原子力研究開発機構(JAEA)が研究を始めました。新しい分析手法も開発して発表しています。日本のチームへの期待はありますか

私たちJRCの核鑑識は92年にスタートして約30年の歴史がある。その分析方法は、もともとは、国家による核物質の軍事転用を防ぐための検証活動「保障措置」の経験や技術を応用している。私たち自身の力で確立したものもあるが、技術協力で得られたものもある。

核鑑識において、国際協力は重要な要素だ。JRCはJAEAと相互協力協定を結んで、同じサンプルの分析結果を比較したり、議論したりしている。開発した分析技術を相互に検証して発表もしており、非常に有益な協力関係にある。日本は世界の核鑑識のコミュニティーで多大な貢献をしうると思う。

――核鑑識の課題は何でしょうか。

新たに核鑑識の能力を獲得しようと言うときに大切なのは、まったくのゼロから始めるのではなく、既存の技能や知識や、技術的設備を活用することだ。すでにある専門性やインフラをうまく使っていくことだ。

そしてもちろん、核物質の起源をさぐるのに、よりよい手がかりを見つけることも課題だ。より速く、より信頼性が高い結論を導ける分析手法を見つける努力を続けなくてはいけない。異なる核物質が混じり合ったような均一でない核物質は判定が非常に難しいが、そうした微量分析の技術に今後はさらに注目していくべきだろう。

■特集「核の夢 二つの世界」に登場した世界中の原子力専門家たちに、核のいまと未来を聞いたインタビューを掲載します。第5回の明日は、ピースボートの川崎哲さんが登場します。