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プルトニウム盗んで自ら被曝 実際にあった「核の事件簿」

World Now
欧州における核鑑識の第一人者、クラウス・マイヤー氏。「核鑑識では、押収された核物質以外にも流出がありうるかどうかを見極めることも非常に重要。掃除機のゴミパックから車の革製シート、女性ものの下着までいろいろ分析したよ」=ドイツ南西部カールスルーエ、渡辺志帆撮影

関係者の語りぐさになっているのが、1994年、ドイツ南部ミュンヘン空港で摘発された大量密輸事件だ。

モスクワから到着した民間航空機から、兵器級プルトニウム約360グラムと低濃縮ウラン約120グラムなどの粉末と、水爆製造にも使われる濃縮リチウム金属約200グラムが見つかり、運び屋ら3人が逮捕された。量の多さと危険性の高さから驚きが広がったが、後にロシアの原子力施設から流出したものと特定された。

2001年には、やはりドイツの南西部カールスルーエで、解体中だった使用済み核燃料の再処理施設から、プルトニウムを含む微量の放射性廃棄物が盗まれた。プラスチック容器に入れた廃液などを持ち出した作業員の男と交際相手の女性、その娘が被曝(ひばく)し、住んでいたアパートや車も汚染された。

当初、作業員の男が交際相手らに核物質を摂取させて殺害しようとしたのではと考えられたためメディアの注目を集めたが、結局、裁判では男の殺意などは証明されなかったという。

核物質をひそかに取引する闇市場の存在も明らかになっている。米英メディアによると、黒海沿岸のモルドバでは10~15年、少なくとも4件の核物質や放射性物質の取引が摘発された。主犯格は逃走したままだが、核物質の多くはロシアからとみられている。

核大国のロシアは大量の核物質を持つ一方、汚職の横行などで防護が手薄になっているとも言われる。ロシアから黒海沿いのカフカス山脈を経て中東へ抜けるルートは、以前から核物質の密輸が多く、「核のハイウェー」と呼ぶ専門家もいるという。

近年、欧州で多いのは、鉄くずの集積所でウランなどの放射性物質で汚染された金属が見つかる事例だという。研究炉や医療施設が解体された時などに、高額な廃棄費用を浮かせようと不法に処分し、回収業者の手に渡ったとみられている。そのまま汚染に気づかずに金属がリサイクルされた結果、ハンドバッグの留め具やエレベーターの操作ボタンから多量の放射線が検出された例がある。

原子力施設に対するサイバー攻撃もある。16年にはドイツ南部グンドレンミンゲンの同国最大級の原発の核燃料棒監視システムなどに、2種類のコンピューターウイルスが潜んでいたことが発覚。システムがインターネットには接続されていないため被害はなかったが、データ保存用の複数のUSBメモリーからも同じウイルスが見つかり、原子力施設を守ることの難しさを世界に印象づけた。