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自国のタンカーは自ら守るのが国際常識だ

ミリタリーリポート@アメリカ
ホルムズ海峡近くで7月18日、米海軍の輸送揚陸艦上からイランの高速攻撃艇を監視する米海兵隊員=ロイター(米海軍提供)

■タンカー危機の発端

ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐホルムズ海峡は、ペルシャ湾から原油を搬出するタンカーが必ず通過する海峡で、その幅は33~96kmと極めて狭い。このような海上交通の戦略要所はチョークポイントと呼ばれる。中でもホルムズ海峡はアメリカと対立するイラン沿岸に位置するため、常に時限爆弾を抱えているような危険度の高いチョークポイントだ。

安倍首相がイラン訪問中の6月13日、そのホルムズ海峡で、かねてより懸念されていたタンカーへの攻撃が発生した。攻撃を受けたタンカーは日本とノルウェーに関係するタンカーだった。

以下の状況から判断すると、アメリカが主張しているように攻撃には何らかの形でイランが関与している可能性は濃厚である。

①トランプ政権によるイランへの経済的・軍事的圧力が著しく強化されたという動き

②反米勢力からはトランプ大統領の“手先”とみなされている安倍首相がイランを訪問していたというタイミング

③狙われたのがアメリカの軍事同盟国の日本とNATO(北大西洋条約機構)の一員であるノルウェーのタンカーという事実

④攻撃には吸着機雷が使用されていることから海賊の手口ではない――など。

■インド海軍の素早い自衛措置

結局、タンカー攻撃にイランが関与していたのか否かは確認できないものの、タンカーが攻撃されたという事実に即座に対応したのはインドだった。インド政府は海軍艦艇2隻をホルムズ海峡方面に派遣するとともに、海軍哨戒機による空からの警戒も開始した。

ホルムズ海峡に急行したインド海軍駆逐艦「チェンナイ」(写真=インド海軍)

インドが海軍戦力をオマーン湾からホルムズ海峡にかけての海域に展開させ、自国に関係するタンカーを保護する姿勢を示したのは、当然と言えば当然の対応といえる。なぜならば、ホルムズ海峡を通航するタンカーの仕向け地のうち、インドは2位の通航量だからだ。ちなみに通航量1位は中国で、3位は日本、4位は韓国、5位はアメリカ(ただしアメリカ向けはインドや日本向けの半分程度)と続く。

もっとも2~3隻の軍艦を危険海域に展開させても、広大な海で多数のタンカーの安全を確保することは不可能だ。しかし、自国のタンカーや商船を護衛するために軍艦を派遣し、海軍力のプレゼンスを示すことは「我が国のタンカーに危害を加えることは断じて容認しない」という国家意思を公に示すことになり、これはいかなる海軍にとっても最重要任務の一つとされている。

インド政府はホルムズ海峡の危険度が増すと、すかさず海軍戦力を動員し、タンカーに危害を加える勢力と国際社会に向けて上記のように国家意思を示した。ところが日本は、自らのタンカーが攻撃されたにもかかわらず、何ら具体的な対応をとろうとはしなかった。

■多国籍海軍結成の呼びかけ

中東地域での軍事的覇権を確保するため、アメリカは第5艦隊司令部をバーレーンに設置し、交代で艦隊を展開させてアラビア半島周辺海域に睨みを利かせている。しかし、海賊や海洋テロの活動が活発になるにしたがって、アメリカ海軍だけでは対応が困難になってしまったため、多国籍海軍の枠組みを作って同盟国や友好国とともに、アラビア半島周辺の海洋安全保障作戦を実施中だ。海上自衛隊も、海賊活動の抑止を主任務とするアメリカ主導の多国籍任務部隊(CTF-151)に護衛艦や哨戒機を参加させ、アデン湾やアラビア海での海賊対処作戦に従事している。

ただし現在の多国籍海軍活動の枠組みでは、危険度が増しているホルムズ海峡周辺海域でのタンカーの安全確保は不可能なほど戦力不足である。そのためアメリカ政府は、ホルムズ海峡とイエメン沖のバブルマンデブ海峡などにおけるタンカーの安全を確保するため、新たな多国籍海軍を結成することを同盟国や友好国に呼びかけたのである。

にもかかわらず、参加国はなかなか集まっていない。イギリスは、イランのタンカーをジブラルタル海峡で拿捕したため、イランとの関係が悪化。報復的にイランもイギリスのタンカーをホルムズ海峡で拿捕しようとしたり、実際に拿捕したりしている。このような状況に応じて、イギリスは海軍艦艇2隻をホルムズ海峡周辺海域に派遣したが、それらはインド同様に、イギリス独自の海軍作戦であって、アメリカの多国籍海軍構想とは(これまでのところ)無関係である。

イギリス海軍駆逐艦「ダンカン」(写真=英国防省)

日本も、アメリカの呼びかけには応じようとはしなかった。というよりも、日本のタンカーが攻撃されたにもかかわらず、日本ではホルムズ海峡情勢はさほど取りざたされない状態が、少なくとも7月24日の参議院議員選挙までは続いていた。ところが選挙が終わると、多国籍海軍への参加の是非が取りざたされ始めた。

現時点では、日本政府が多国籍海軍に参加する意向を表明していないものの、日本が軍事的に頼りきっているアメリカからの参加要請を無視することはできないだろう。何らかの方策、たとえば、海賊対処のためにアデン湾方面で作戦従事中の海自護衛艦や哨戒機を新たな多国籍海軍に関与させることなどによって、アメリカへの協力姿勢を示さなければならないのではなかろうか、といった声も上がっているようだ。

■国防の責務を放棄している日本

日本政府のホルムズ海峡での一連の態度は、甚だ無責任と言わざるを得ない。すなわち、アメリカがホルムズ海峡での多国籍海軍の編成を提案するほど深刻な危機の直接の引き金となった事件が、安倍首相のイラン訪問中にあったにもかかわらず、日本政府はなんら対応を取らなかった。

それどころか、参院選が終わるまでは、アメリカの呼びかけも無視する態度を、少なくとも表面的には取り続けたのだ。選挙後はアメリカの機嫌を損なわないためにも、多国籍海軍に何らかの形で関与するべきだといった声が聞こえ始めている。

ただし日本政府は首尾一貫して、インド政府やイギリス政府と違って、独自にホルムズ海峡周辺海域に海上自衛隊艦艇を派遣して「日本のタンカーに危害を加えようとする試みは許さない」という国家意思を国際社会に表明しようとはしていない。これでは海上自衛隊の存在意義すら疑わしいものにならざるを得ない。

引き続き次回は、国際海軍常識の視点から、なぜ日本に向かうタンカーを日本政府は保護しなければならないのかという事情について記述し、続いて、日本は多国籍海軍ではなく独自に海自艦艇を派遣し、国家意思を表明するべきである理由を述べることとしたい。