「少年の頭の中にある悩みが突然、背後の壁に投影された。そんな感覚にとらわれ、衝動的にシャッターを切った」
イタリア人カメラマンのマルコ・グアラッツィニ(43)が昨年10月、アフリカ中央部チャドで撮影した1枚だ。タイトルは「アルマジリの少年」。イスラム教の修行という名目で、地方から都市部へ出された子どもたちをアルマジリという。生活費の保証はない。だから、日中は街で物ごいをし、生活をつなぐ。
グアラッツィニがチャドに滞在したのは約3週間。急速な砂漠化が進むチャド湖の水を生命線とする住民の生活を取材することが目的だった。イスラム過激派ボコ・ハラムが活動を広げ、湖周辺の人道状況は著しく悪化している。取材で訪れた街のあちこちに、アルマジリの子どもたちが大勢いた。
「子どもたちは街中でグループをつくって暮らしていた。互いに助け、かばい、守る。毎日を必死に生き抜こうとする姿に、心をうたれた」
子どもたちは修行に出されると故郷には戻れず、多くが孤児になるという。夜は宗教学校で眠り、日中は物ごいをする。壁に落書きしたのも少年たちだ。正規軍や反政府勢力がよく使うロケットランチャーなどの武器の絵が圧倒的に多い。たまにチャド湖の魚なども描かれている。
「子どもたちの実相が刻まれた落書きです。少年たちの過酷な生活がすべて表れていると私は感じた。重要なのは、あなたが、この写真を見て何を感じるかです」とグアラッツィニ。写真だけで問題は解決できない。ただ、多くの関心の目を向けることができれば、「自分の役割を果たしたと思える」と強調した。
■チャド湖の砂漠化
チャドやナイジェリアなどアフリカ4カ国にまたがるチャド湖は、周辺住民約4000万人の日常生活や農水産業を支える水源となってきた。国連などによると、かつて世界第6位の面積を誇った巨大湖が、農業用水の需要増や気候変動などの影響で砂漠化が進み、今では95%の面積を失ったという。
水源の消失で広がる食糧危機や社会不安を背景に、イスラム過激派ボコ・ハラムが勢力を拡大。誘拐や殺害行為などが湖周辺で行われている。チャドは内戦を経て今は長期政権が続いているが、国内の反政府勢力の存在や、政情不安定な周辺国からの影響もあり、政治状況は流動化している。
■世界報道写真展2019、東京は8月4日まで
東京都写真美術館では8月4日まで、それ以降は各地で、受賞作を紹介する写真展を開きます。