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サイコロで給料を決める 面白法人カヤックが取り組む社内フラット化

World Now 更新日: 公開日:
サイコロ給で注目を集めるカヤックの社員。右が綿引啓太

■3カ月で7万円上乗せも

「今日はサイコロ給があります」

給料日前の毎月25日になると、社内アナウンスが流れる。集まってきた従業員たちは、顔の大きさほどの専用のサイコロを一人一人振っていく。出た目が、その月の給与に上乗せされる額を左右するというから面白い。同社内では、これを「サイコロ給」と呼んでいる。

入社11年目の社員、荒賀謙作(37)が教えてくれた仕組みはこうだ。

例えば月給が30万円だとして、サイコロで6が出たら、月給の6%にあたる1万8000円が上乗せされる。3カ月連続で同じ数字を出すと、さらにお得。6、6、6と出た場合、3カ月目は6%ではなく、倍の「12%」に自動変換されるルールだからだ。この場合、3カ月間の上乗せ額は計7万2000円にもなる。

ヨガのポーズからサイコロを繰り出すカヤック社員。6が出やすい振り方を研究する社員もいるという

「これは大きいです。もちろん、勝負かけています」

そう語る荒賀は、昨年1年間でサイコロ給の総額が全社員の中で最も多かった。まさに「神様任せ」の取り組みだけに、「めちゃくちゃ頑張って働いた月に1が出ると、結構ドテッてなります」と、入社9年目の綿引啓太(33)。6が出やすいサイコロの振り方を真剣に研究する社員もいるという。

同社では、全従業員の毎月のサイコロの目を、ホームページでランキングにして公開している。だれが一番得したのかは、社員だけでなく、世の中のだれもが知ることができる。

昨年1年間のサイコロ給の結果、社員の中で最も多い額をゲットした荒賀謙作。カヤック社内に展示されている従業員の似顔絵は、それぞれの名刺にも使われている

■「評価なんて、気にするな」

なんで、こんなことをしているのだろう。

「人間が人間を評価するなんて、そもそもいい加減。上司の感情ひとつで変わる。だから評価なんて気にするな、ということ」。トレードマークのTシャツ姿で表れた執行役員兼人事部長の柴田史郎(38)は、そう説明して大笑いした。

カヤックの人事評価について語る人事部長の柴田史郎。365日を通じて半袖Tシャツで過ごす。風邪を引いて病院に行くときもTシャツ1枚なのだという

1998年創業で東証マザーズ上場のカヤックでは、社員約300人の平均年齢が30代。9割がプログラマーなどのクリエーターだ。ゲームアプリの制作などをしているが、柴田は事業内容よりも「面白いものをつくる会社」だと強調し、「キャッチフレーズ的に面白法人カヤックと名乗っている」と説明した。

「会社の運営も面白い活動の一環にしているというユニークさがあると思う。運営自体が作品でありコンテンツなんだという考えなので、面白がってもらえる運営スタイルでないといけない」

どのような運営が面白いのかは、経営陣も考えるし、社員も考える。社員が提案をすれば、真面目に議論し、採用できるかどうかを決めるという。ちなみにサイコロ給は創業者の案だそうだ。

一般的に、会社の方向性にあわせて社員をまとめるために評価がある。会社に個人を寄せていくから個人の主体性がなくなる。同社にも方向性はあるが、むしろ好きにやってもらい、そこから生み出した何かを還元してくれればいいという。

■「自由過ぎ」に不満の声も

サイコロ給で使われる大きなサイコロ

一方で、会社運営のあり方を従業員が考えることができるというのは、裏返すと、社員が経営に直接参加することになる。そのため、同社では毎年、経営者の考え方を学ぶ「ぜんいん社長合宿」を開催するなどして、社員側にも経営者的なマインドを育成する取り組みをしている。会社が一方的に社員の声に耳を傾けるだけでは、本当の意味でのフラットな組織はできないという哲学がある。

サイコロ給は月給に上乗せされる賞与の扱いだが、いわゆる本当のボーナスは年4回、多くの会社同様に上司の従業員評価に基づき決めている。月給は、同じ職種の社員同士で相互投票を半年に一度実施し、その結果のランキングと比例する形で昇給額が決められる。

「月給はみんなで、ボーナスは上司の人事評価で決めます。それでも完璧な評価にならないよねってことで、最後は神様にサイコロ給で決めてもらうという感じです」と柴田。こうした取り組みについて、社員の綿引は「面白く働くということを真面目にやろうとしている。そんな会社の人格にほれて入社した。裏切られたと思わない限り、会社に失望はしません」と、楽しそうだった。

極めて自由な社風が特徴のカヤックだが、社員の平均在籍年数は3.7年。キャリアアップで転職していく人もいるが、社に不安を抱いて辞める人もいる。同社ではベテラン社員となる荒賀によると、自由すぎてマニュアルがないことに逆に不満を感じて辞めていった社員もいるという。誰もが納得する仕組みをつくるのは、なかなか難しい。そして、自由な社風を維持し続けるのも簡単ではない。

「上下関係は相当努力していかないと、すぐにピラミッド型に戻る。カヤックでも、何もしないと重力でそうなります。コミュニケーションを大切にしながら、なんとかやっています」と、柴田は本音をもらした。