■イギリスでは5年更新
英国では王室御用達の認定証は「ロイヤルワラント」と呼ばれ、現在はエリザベス女王、フィリップ殿下、チャールズ皇太子の3人が発行できます。王室に商品やサービスを納めた企業や店が申請でき、認定されると、それぞれの紋章を掲げることが許されます。5年ごとに更新の審査があるほか、授与された人が亡くなったり会社をやめたりすると、再申請が必要となります。
ロイヤルワラント・ホルダーズ協会によると、歴史は古く、中世にさかのぼり、15世紀にいまに続く形ができました。認定証を持つ企業は現在約800社。英国の紅茶の歴史を牽引してきたトワイニングやコートやマフラーなどの英ブランドバーバリー、英自動車大手ジャガー・ランドローバーなどが認定されています。日本関連では、ソニーの現地法人である英国ソニーが、チャールズ皇太子の認定を受けています。
■京都か東京か、選択迫られた日本の御用達
日本では、宮内庁御用達の制度は1954年に廃止されました。それまでは禁裏御用、宮内省御用達といったかたちで、食品や服飾品、工芸品などが宮中におさめられていました。
京都には、室町時代に創業し、ずっと御用達を務めてきた店もあります。明治維新後、そうした店は、天皇家とともに東京に移るか、京都に残るかといった選択を迫られました。
和菓子の虎屋は東京進出を決意しました。虎屋の社史は「京都に残っても果たして店の経営が成り立つかどうか、見当もつかない状況だった」としたうえ、当時の店主が「苦渋の末に下した決断」と記しています。
それでも東京に出たことは、虎屋にとってよかったのかもしれません。宮中との関係は、途絶えることなく続きました。宮中祭祀などにかかわる内掌典として57年間、皇居で働いた高谷朝子の著書「宮中賢所物語」には、こんな話が出てきます。
ある年の正月、虎屋の社長が宮中にあいさつに訪れました。内掌典たちは、虎屋特製のもちを温め、甘味噌をのせてごちそうしました。ただ、本来はゆでた細いゴボウを一本添えるのですが、あいにく用意がなかった。すると後日、正月だけに販売する「花びら餅」に使うゴボウと甘味噌が届けられたそうです。
一方、京都に残った店もあります。本田味噌本店もそのひとつ。
7代目で社長の本田茂俊(66)は「みそ造りは気候、風土、微生物などに左右されます。うちのみそは、ここでしかできなかった」と語っています。それまでは宮中に納めることだけが仕事でした。「街のみそ屋としてやっていく覚悟だったと思います」。でも、伝統の白みそは東京では手に入りにくく、皇室からの注文はその後も絶えることはなかったそうです。