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かつてケシ畑、いま合成麻薬 薬物から抜け出せない「黄金の三角地帯」

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シャン州南部のケシ畑=2017年撮影、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)提供

タイ、ラオスとともにゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)の一角を占め、麻薬原料となるケシの栽培が盛んだったミャンマー。政府の対策などでケシ畑は減ったが、いま、合成麻薬の製造拠点という新たな姿を見せつつある。紛争や貧困で、いつまでも薬物依存から抜け出せない生産地の深刻な課題に、世界はどう対応するべきか。

■世界2位のケシ生産国

山に囲まれたミャンマー東部シャン州ラショー。農家の畑では、トウモロコシや米など十数種類の作物が育つ。ヘロインの原料となるケシ栽培が続く同州で、別の作物を普及させようと、国際協力機構(JICA)が支援する「モデル村」だ。 

タイ、ラオスと国境を接する同州は、麻薬の生産が盛んな「黄金の三角地帯」の一角として知られてきた。少数民族武装組織と国軍の紛争が絶えず、発展から取り残された山間部だ。車も通れない細い山道でもリュックで運搬でき、中国などから来た業者と取引されるケシは、村人の生活を支える収入源になってきた。ミャンマーは、アフガニスタンに次ぐ世界2位のケシの生産国だ。

ミャンマー政府は1999年に麻薬撲滅の計画を作り、武装組織との和平に至った地域では、政府の手が入りやすくなった。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、同国のケシ栽培面積は2017年は約4万ヘクタールと20年前の4分の1になった。 

ただ、和平協議は停滞しており、武装勢力の管理地域ではまだ30万人がケシ栽培を続けているという。ラショーの六つのモデル村では、農家が低い利率で資金を借りられる仕組みももうけた。ここには紛争地域からも公務員らが農業や畜産を学びに来る。JICA企画調査員の飯塚協太(44)は、「紛争が終わったときに農民がケシ栽培に戻らずに済むよう準備したい」と話す。 

ケシの実に傷をつける様子=2017年撮影、国連薬物犯罪事務所(UNDOC)提供

ケシ産地からの脱却の試みが続く中、地域では新たな問題も浮上する。 

「ミャンマーが供給する大量の合成麻薬の原料は、我が国を挟む大国から流入している」。11月初旬、首都ネピドーで国連と政府が共催した麻薬に関する国際会議でアウントゥー内務副大臣はこう訴えた。 

■目が届かない「保護地域」

ミャンマーで作られる麻薬の主流は近年、ケシ原料のヘロインから複数の化学原料を混ぜてつくる覚醒剤などの合成麻薬に大きく変化した。政府や国際機関の目が届きにくいシャン州などの山間部は「合成麻薬のセーフヘイブン(保護地域)として悪用されている」とUNODCミャンマー事務所長のトロエルス・ベスター(44)は話す。一部の地元武装勢力と国際的な犯罪組織が原料を持ち込み、製造した麻薬を世界各地に運び出す密輸に関わっているという。中国、タイ、ラオスとの国境では、合成麻薬の原料になる大量の化学薬品が押収されている。 

国連薬物犯罪事務所(UNDOC)ミャンマー事務所長のトロエルス・ベスター=鈴木暁子撮影

ミャンマーで作られるのは主に2種類の覚醒剤だ。高純度のものはタイや中国に渡り、日本、韓国、豪州などに運ばれ高額で取引される。もう一つが地元で「ヤバ」と呼ばれる低純度の覚醒剤の錠剤だ。製造過剰で、14年に1515ドルだった価格が最近は15ドルに下落。薬物の知識がない小学生の間で元気がない時に飲むビタミン剤のように服用され、社会問題になっている。 

国連によると、覚醒剤を含むアンフェタミン型興奮剤の使用者は16年で世界に3420万人。中国の新華社通信によると、中国は合成麻薬の中毒者が約150万人いるとされる巨大市場だ。東・東南アジアで押収された覚醒剤は、13年で14000キロと08年の倍で、その後も増えている。 

麻薬原料の生産地は、紛争や貧困などに悩まされる地域が多く、生産は増え続けている。ミャンマーのケシ栽培量は減る一方、世界のケシ生産の約9割を占めるアフガニスタンでは、政情不安などから生産が急増。世界のケシの生産量は昨年、1500トンと過去最高となった。 

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