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中国の実効支配態勢が着々と固まる南沙諸島の人工島群

ミリタリーリポート@アメリカ
南シナ海スプラトリー諸島のミスチーフ礁付近の海域で見られた、中国の浚渫(しゅんせつ)船とされる船舶。米海軍提供=ロイター

■南沙諸島に生まれた軍事基地群

そもそも中国が南沙諸島のいくつかの環礁で埋め立て作業が確認されたのは、2014年初めだった。環礁といっても“土地”の大部分が満潮時は海面下に没する暗礁だ。それから2年ほどで、埋め立て作業が行われていた七つの環礁(ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、クアテロン礁、ヒューズ礁、ガベン礁、スービ礁、ミスチーフ礁)は人工島と呼べる姿に変貌。うちの三つの人工島には3000メートル級滑走路が誕生してしまった。

さらにそれから2年足らずのうちに、七つの人工島には様々な建造物や軍事的施設ならびに非軍事的施設が次から次へと設置され、軍事的観点からは航空基地、海軍基地、ミサイル基地などとして使用できる『南沙人工島海洋基地群』とでも呼べる軍事基地群の完成が間近に迫っていると見なせる状況だ。 

南沙諸島現況(2018年11月現在、筆者作成)

今回、中国当局が海洋気象観測所の開設を公表した三つの人工島には、それぞれ3000メートル級滑走路が設置されている。それらの滑走路は、中国空軍と海軍の全ての戦闘機、爆撃機、輸送機などが発着でき、民間の大型ジェット旅客機(ボーイング737やエアバス320)の発着も可能だ。

いずれの滑走路にも、管制塔やレーダー設備だけでなく、戦闘機や爆撃機用と考えられる格納整備施設も併設されている。要するに、中国海軍や中国空軍の航空基地が南沙諸島に三つも誕生したことになる。実際、それらの航空基地では戦闘機を含む軍用機の発着訓練がなされている模様だし、哨戒機が人工島基地に展開配置されている状況も確認されている。米海軍関係者の中には「3カ所の人工島航空基地は、米海軍空母10隻に相当する」と嘆く者も少なくない。

それらの人工島航空基地に加え、3000メートル級滑走路を有する人工島全てと、そのほかの人工島のいくつかには、軍艦や輸送船などが着岸できる港湾施設が建設されている状況も確認されている。すなわち、航空基地に加えて海軍基地も誕生しているのだ。

中国が人工島を造成して軍事拠点化を進める南シナ海・南沙(スプラトリー)諸島クアテロン礁の2017年5月下旬の様子。灯台やレーダー施設のようなものが見える=ベトナム紙タインニエンのチュン・ヒエウ氏撮影

それだけではない。航空施設や港湾施設に加え、各種レーダー施設と考えられる建造物も多数確認されている。さらに地対艦ミサイルシステムや、地対空ミサイルシステムと考えられる各種車両が展開されている状況も、衛星写真などで確認されている。

このように中国が南沙諸島に建設した七つの人工島は、ファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁を主要拠点として、ネットワーク化された海洋軍事基地群の体裁を整えつつあり、間もなくその威力を発揮し始めると考えられる。 

■軍事施設と民生施設を混在させる戦略

もともとは暗礁とも言える無人の環礁を埋め立てて造り出された七つの人工島には、当然のことながら住民は存在せず、軍事施設をはじめとする人工島基地群建設関係者や施設運用者だけが滞在している。したがって軍事拠点として本格稼働すると、七つの人工島には原則、軍関係者だけが滞在していることになる。

そうした状況は、中国人民解放軍にとっては都合が悪く、中国の人工島に異を唱える米軍には都合が良い。というのは、軍関係者だけがいる純然たる軍事施設としての人工島ならば、長射程ミサイルや精密誘導爆弾、それに強力な地中貫通爆弾などを撃ち込むことで完全に破壊してしまうことが可能だからだ。

そうならば上記のように米軍関係者が「三つの人工島航空基地は、米海軍空母10隻の働きをする」と警戒することはない。ところが、中国は南沙諸島軍事基地群を形づくる人工島を純然たる軍事基地島にしておかず、米軍が巡航ミサイルや誘導爆弾を雨あられと降り注がせることができないよう手を打つと予想されているのだ。

第一歩は人工島群への灯台の建設だ。灯台といっても、日中が領有権を巡って紛争中の尖閣諸島に、日本の民間団体が設置し、現在は海上保安庁が管理している簡易灯台(堅固な永久建造物ではないアルミ製やぐら型の無人灯台)のような超小型ではなく、永久建造物の大型灯台だ。現在のところ、ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、クアテロン礁、スービ礁、そしてミスチーフ礁に灯台が建設され、中国交通運輸部が管理運用中だ。ちなみにジョンソンサウス礁に建設された灯台は高さ50メートル、スービ礁の灯台は高さ55メートルの巨大灯台である。

そして灯台建設に続く第二の方策が、航空基地のある三つの人工島に、気象観測所を開設したことだ。要するに、本格的灯台施設や気象観測所はともに非軍事的民生施設で、それらには非戦闘員の灯台保守要員や気象観測員、場合によってはその家族らが常駐することになる。海洋の観測施設という科学的に貴重な場所ということもあって、民間の研究者らが滞在する可能性も高い。

このように航空施設、港湾施設、各種レーダーやミサイルシステムなどの軍事施設と、民間人が居住する非軍事的民生施設が混在する狭小な人工島を、巡航ミサイルや誘導爆弾で攻撃することは、いくら高い精密攻撃精度の各種兵器を保有する米軍にとっても至難の業だ。

たとえ的確に軍用レーダー装置だけを破壊するための巡航ミサイルを発射したとしても、傍らに民間人が居住する気象観測施設がある場合、中国はもとより国際社会からの非難も甘受せざるを得なくなる。場合によっては米国内でも「民間人を危険に晒している軍事攻撃に反対する」声も上がりかねない(あるいは、そのような声を中国側が画策して上げさせることは容易に想像がつく)。

中国側としては、南沙人工島軍事基地群を純然たる軍事施設として完成させずに、南沙諸島海域や空域での交通や漁業操業の安全確保のための民生施設を軍事施設と混在させることで「民間人・非戦闘員による人間の盾」を手にするのだ。 

ベトナム紙タインニエンに掲載された南シナ海・南沙諸島のヒューズ礁の建造物。レーダー施設や「中国東門」の文字が見える。2016年4月14日撮影=同紙提供

■今後も強化される「人間の盾」

トランプ政権は、これまで控えめだった南シナ海での対中牽制行動を強硬姿勢に転換した。つまり、軍艦や爆撃機を南沙諸島や西沙諸島の中国軍事拠点に接近させる、いわゆる「公海での航行自由原則を確保するための作戦」(FONOP)を強化しつつある。ところが、そのような米国側の動きに対し、中国側は「米国の軍事的脅威が高まっており、中国の主権を守るための防衛態勢を強化しなければならない」との口実で、今後も南沙諸島軍事基地群で、各種レーダー装置、地対艦ミサイルシステム、地対空ミサイルシステムなど対米軍接近阻止兵器の設置がますます強化されることは確実だ。

また、ナビゲーション支援施設、気象観測施設、漁業関連施設、海洋研究施設、それに人工ビーチやリゾートホテルなどを含む観光施設など「民生施設」の設置も加速されるだろう。そもそも中国当局によると「中国固有の領土である南沙諸島に人工島を建設したのは、古来より中国の海である南シナ海で操業する中国をはじめとする各国の漁民の安全や、国際的な海上航路帯での航行の安全を確保するため」とされ、中国の国際貢献の一つということになっている。

したがって、人工島で民生施設の建設を促進しなければ中国当局の主張する人工島建設の“真意”なるものは信憑性を持たなくなる。ただし、民生施設を充実させることは、軍事施設を米軍の攻撃から防御するための「人間の盾」がますます強固な物になることを意味する。すなわち、米軍による中国の南沙諸島軍事基地群に対する軍事攻撃はますます困難になるのだ。