登場するのは、様々な「違い」を抱えた6つの家族。ダウン症のジェイソンはシェアハウスで同様の境遇の男性と3人で暮らし、家族同士のような固い絆を感じている。息子が殺人事件を犯したリース家の人々は、住み慣れた町を離れて転居し、地域社会で身を隠しながら「何が問題だったのか」と悩みつつ、それでも「子どもを愛することは止められない」と、服役中の息子と対話を続ける。低身症のリアとジョセフの夫婦は「低身長の子どもが欲しい」と、流産を経て子どもを授かる。
原作は、米在住の作家、アンドリュー・ソロモン氏のノンフィクション。同性愛者である息子を受け入れようと苦悩する自分の両親の姿に衝撃を受け、10年をかけて、自閉症やダウン症などの子を持つ家族にインタビューした大作だ。映画にも登場するソロモン氏は最後、同性婚をして、知人に代理母出産を頼み2児の親になる。
「違った人々が一つになる姿を描こうと努めた」と話すレイチェル・ドレッツィン監督の映画版は、原作と共通で登場するのは1家族のみで、事実上まったく違う作品になった。「原作の精神をしっかり捉えて、受容と愛について描くことを考え」、どの家族をどう描くか、ソロモン氏と協議を重ねて制作したという。
日本公開を前にドレッツィン監督が来日し、11月6日、東京学芸大学附属国際中等教育学校の高校2年生11人と語り合った。有数の進学校でもある同校の生徒は、これまでに直面し、また近い将来に直面するかもしれない「違い」について何を考えたのか。議論が交わされた。
監督は生徒たちに「人はどうしても、似通った人と付き合ってしまいがち。距離があるからこそ差別は生まれる。違った人と近くにいて親密に接することができれば、差別感情は消えてなくなる」と説いた。母国の米国でトランプ大統領が対立と分断、移民への恐怖や敵対心をあおる状況を念頭に置いてか「私たちは知らないからこそ恐れるのです」と訴えた。
ある女子生徒は「今は障害者と接する機会が少ないけど、将来的に接したとき、『違い』が見えてくる。そのとき、肯定しようと思っていても、そこで差別を感じてしまうのではないか」と尋ねた。
監督は「今回の映画を作っていて、私自身が持っていた『ぎこちなさ』や差別に近い感情は、近くで接することで消えていきました。ジョセフに最初会ったとき、どうしていいかわからず握手もできない状況だった。しかし2、3回会うと、車いすに乗っていることすら忘れるほどでした」と答える。
すると、別の女子生徒が「誰でも初対面の人にはぎこちなさを感じるもの。障害者だけに焦点を当てて描くのは逆に差別的とも言えるのでは?」と問いかける。
「その通り。この映画では確かに極端なケースに焦点を当てている。一つのレッスンとして、多くの人に今回のテーマを感じてもらいたいから」と監督。
男子生徒の一人が「映画に登場する6つの家族は、困難を乗り越えている。乗り越えられなかった家族を取り上げなかった理由は何か」と質問した。
監督は問いかける。「すべての家庭が壁を乗り越えられたとは思っていません。毎日、葛藤が続いている家族もいる。誰もが、苦しい状況の中でも、そこに意義深いものを見いだすことは可能だし、そのようにものの見方は変えられる。それこそが物語から学べる部分ではないでしょうか」
「私も含め、障害者が近くにいない人は『障害者の人生は辛いものだ』と勝手に思ってしまいます。もちろん困難な場合もありますが、それがアイデンティティーになり、誇りに思っているのです」
ここで監督から生徒たちに質問した。「日本の学校では、障害のある子は別々に授業を受けますか。あるいは一緒に授業を受けますか」
女子生徒の一人が「進学校は試験で入学を決める。逆に試験でしか見てないから、トップの学校にはいないよね」と言う。
しかし、別の女子生徒が「夏休みに見に行った韓国の小学校では『分ける方が差別じゃないか』と、4年生から同じクラスに入れるようにしていた。勉強の能力だけで見るのは違うんじゃないかな」と指摘した。
監督は映画で登場した家族の背景を説明した。「ジャックは6年生まで言葉を話せなかった。でも数学も読書も同世代と遜色なく、高いレベルで理解していた。今もしゃべれないけど、テストの点はトップレベルです。自閉症やダウン症の子は絶対にいい成績が取れないという思い込みは、間違いであることが多い。学校でも一緒に授業を受け、近い所で学ぶことで差別はなくなっていくのではないでしょうか」
一方、ある女子生徒は「でも、果たしてそれだけが正解なのか。自分と似たようなコミュニティーに身を置いている方が居心地がいいという人もいたし」と疑問を口にした。映画に登場する低身長症の女性ロイーニが、同じ境遇の人々の団体「リトル・ピープル・オブ・アメリカ」の大会に参加し、理解し合える友人を得たと喜ぶ場面だ。
監督は「どちらかが正しいという話でもない。ただ、障害者は多くの場合、自分だけが他の人と違うケースが多いから、そこは私たちも考えるべきだと思う」と前置きし、次のように語った。
「誰かと出会ったとき、自分と違う部分だけでその人を見ないこと。同じ時間を過ごせば過ごすほど、自分との違いよりも共通点の方が多いと分かってきます」
『いろとりどりの親子』は、11月17日から東京・新宿武蔵野館などで順次公開される。