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今も勉強は欠かさない。LAに移住しハリウッド映画に携わるVFXアーティスト

LifeStyle 更新日: 公開日:
ハリウッドで働く映像クリエイター、渡辺潤さん=中野亜沙子撮影

1秒に込められたこだわり。VFXの世界とは

『アントマン&ワスプ』や『ハン・ソロ』などの映像作品でVFXを担当する渡辺潤さんは、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするフリーのVFXクリエーターだ。VFXとは、実写で撮影された映像作品にコンピュータグラフィックスの技術を駆使して加工を加えること。宇宙空間をリアルに表現したり、ワイヤーアクションのワイヤーを加工で消したりと、実写だけでは叶えることのできないイメージを形にする仕事だ。

編集するデータは非常に高度な技術によって組み立てられていて、1、2秒のシーンに霧や爆発の破片、スポットライトなどの効果をつけるのに数週間かかることもあるという。渡辺さんは自身の仕事を「カレーライスにちょっと入れる塩みたいなもの」と例えた。すでに作られた料理の味を引き立てるための、最後の仕上げがVFXなのだ。

「『ハン・ソロ』の現場では、時間をかけて作った宇宙のチリや霧などの効果が、後から乗せたミレニアム・ファルコン(宇宙船)とかぶって全く見えなかったこともありました」と苦労話を冗談交じりに話しつつも「スターウォーズシリーズは以前から大好きな作品。来年のスターウォーズ エビソード9の制作にも携わりたいとアピールしてきました」と目を輝かせた。

世界で働くことに対して、不安はなかった

講演の後にインタビューに答えていただきました=藤井みさ撮影

多くのアーティストが夢見るハリウッド映画の制作。その中で日本人として活躍する渡辺潤さんが、これまでどのようなキャリアを積んできたのか、苦悩ややりがいを聞いた。

――学生の頃から海外で働く展望はあったのでしょうか。

父親がコンピューター関係のエンジニアをしていて海外出張が多かったため、小さい頃から海外への興味はありました。強い憧れを持ったきっかけは、20歳の時に訪れたアメリカ。映像制作の現場やアメリカのクリエーターたちの作品を見たときに大きな衝撃を受けました。そこからは、本格的に英語を学んだり、海外のコンテストで入賞した映像作品を見て傾向を掴んだりして勉強を続けました。

――渡米に至ったきっかけは何ですか。

アメリカで仕事ができるようになったきっかけは、SIGGRAPH(シーグラフ)の「エレクトリックシアター」で入選したことです。

SIGGRAPH(シーグラフ)は、最も歴史のあるCGの国際会議。そこでは、世界各国から応募された映像作品のうち審査に通ったごく一部の作品だけが上映される「エレクトリックシアター」がメインイベントとして開催されます。そこで幸運にも私の作品が上映されることに。その時に作品を見たロサンゼルスのCGプロダクション会社の社長が声をかけてくれ、雇ってもらえることになりました。

私は専門学校を卒業後「トーヨー・リンクス(現IMAGICA)」という会社で働いていたのですが、そこでCGの基礎をしっかり鍛えていただけたことも入選の要因として大きかったと思います。

――渡米した直後のことを教えてください。世界を舞台にして働くことに不安や恐怖はあったのでしょうか。

ハリウッドでどこまで自分の技術が通用するのかはわかりませんでしたが、不思議とそのような不安はなかったです。ただ、フリーランスの場合、とぎれないように仕事を見つけないと就労ビザがおりないので、アメリカに行ってからはとにかく次の仕事を早く見つけるようにしていました。俳優、映画、TV番組などのオンラインデータベース「IMDb」に名前が載るという夢もかないましたし、憧れのスターウォーズシリーズのエンドクレジットに自分の名前が載った時には「やった!」と思いました。

「アントマン&ワスプ」は、ハン・ソロの仕事が終わってLAに戻ろうとした時にたまたま声がかかったのだという

――海外で働くなかで苦労したことは何ですか。やはり語学の面でしょうか。

語学の壁はありますね。ただ、楽しみながら学んでいたので苦しいとは感じませんでした。渡米した時点で、日常会話レベルの英語であれば話せたのですが、複雑な表現の話になると聞いたことのない単語もあります。たとえば、「ドロール」をエフェクトでつけてほしいと言われた時に理解できなかったことがありました。ドロールは「よだれ」のことなんですが、その時初めて知りました(笑)。ほかにも私が作成したメールの文章がおかしくて職場の仲間たちに笑われることがあったりと、ちょっとした失敗談は日々あります。今も英語がペラペラとはいえませんが、なんとかなっています。

日々進化が求められるVFXの現場

――フリーランスで働くうえで大切にしているモットーなどはありますか。

いい質問ですね(笑)常に自分のスキルを磨くことです。今も空き時間があれば「今日より明日、明日より明後日」と、新しい技術をどんどんキャッチアップして勉強を続けています。映像編集のソフトは、インターフェースが変わったりモジュールが追加されたりと日々進化しています。寿司屋に行って、職人が魚をさばいているのを見るとうらやましく思ったりします。彼らは一度包丁の感覚を掴んでしまえば、同じツールを使って技術を磨いていけますから。映像編集の場合はどんどんツールが変わっていくので、新しい技術はインターネットに上がっているチュートリアルビデオを繰り返し見てトレーニングするようにしています。

――これから世界で活躍したい方へ、就職の際のアドバイスはありますか?

ハリウッドの場合ですが、面接を受ける際は謙虚でいることが何よりも大事。経歴に嘘をついて入ってきて、4時間でクビになった人を見たこともあります。専門的な用語が飛び交う現場なので、英語が理解できないこともあると思いますが、知ったかぶらずに「どういう意味ですか?」と正直に聞いてしまったほうがいいと思います。あとは、受ける会社をちゃんとリサーチして、そこで使えるスキルをアピールすることですね。

ハリウッドは、同じテーブルにアメリカ人が一人もいないこともあるほど多国籍で、ベトナム人やマレーシア人、イタリア人、フランス人、トルコ人などさまざまな国の人がさまざまな言語で話す楽しい現場ですよ。日本人だからというハンデはないと思っています。

目標を達成しても、歩みを止めない

ハリウッドで働くという夢を叶えた今も、日々勉強を欠かさないという渡辺さん。語学力や編集技術など、完璧ではないことを苦にせずに楽しみながら勉強を重ねていく姿勢が現在の成功に繋がっているのだと感じさせられた。

『アントマン&ワスプ』
2019年1月9日(水) MovieNEX(4,200円+税)発売
2018年12月19日(水) 先行デジタル配信開始
(C) 2018 MARVEL
http://marvel-japan.jp/antman-wasp