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貧困の連鎖を生むスラム  解決の鍵は「住民の意識」

PR by 三菱商事 公開日:

 フィリピン、マニラ近郊のケソン市に散在するスラムは、1980年代以降、地方から都市部に出てきた人々が空き地にバラック小屋を建てて住み着き、それが自然に拡大してできたという。住居の多くがトタン造りで雨漏りに悩まされ、上下水道も未整備だ。現在、政府の支援を得ながらスラムを区画整理し、住民全員が入居できる新たな集合住宅群を建設するプロジェクトが進んでいる。

フィリピン・マニラ郊外のスラムでは ハビタットの支援による集合住宅(写真右)の建設が進んでいる

 この事業を支援しているのが、1976年にアメリカで設立された国際NGOハビタット・フォー・ヒューマニティ(以下、ハビタット)だ。「誰もがきちんとした場所で暮らせる世界」を目指し、住まいの改善・確保やコミュニティ支援に取り組んでいる。

 ハビタットが設立以来取り組む活動の一つが住居そのものの建築支援だ。住まいを必要とする家族と国内外のボランティアが、専門技術をもつハビタットのスタッフから指示を受けながら家を建てる。建築手法は、その地域の気候風土や持続可能な資源が生かされている。日本からも学生を中心に多くのボランティアが参加しており、これまで住居建築をはじめ、適切な住まいを持てるよう1320万人もの人々を支援してきた。日本法人であるハビタット・ジャパンの稲垣花恵さんはこう語る。

 「きちんとした家を持つことができれば衛生状態などが改善し、病気などのリスクは減りますし、新たな住居を利用して雑貨や食料店などの小さな商店を営む人も出てきて、経済的な安定にもつながります。ある家庭は商店を営むことで子どもの交通費を捻出でき、これまで通えなかった学校に通えるようになったそうです」

 住む環境が改善し、経済状態や教育水準も上向けば、住民たちが自らの力で貧困から抜け出す道が開ける。

現地の人と日本からの学生ボランティアが共同作業で家作りに取り組む

 都市のスラム化はアジアやアフリカなど世界各地で進んでおり、スラム人口は2030年代までに、現在の倍の20億人に達すると推計されている。国連人間居住計画でアジア太平洋地域本部長を務めた西南学院大の野田順康教授はこう語る。

 「特にアジアでは経済成長に伴い、地方から労働力として都市部に多くの人口が流入しています。その多くは思ったような職や収入が得られず、スラムの住民になる。都市化の流れは避けられませんが、都市を持続可能にするために、都市に集まった人たちが自らの力で貧困を抜け出し、生活基盤となる家を持てるようエンパワーメントすることはできます。近年はトップダウンではなく、スラムの住民自身が地域の改善策を決め、それを政府やNGOが支援する『住民参加型』の支援策が主流になってきています」

エンパワーメントの重要性を語る西南学院大の野田順康教授

 「住民参加型」のプロジェクトが行われた例として、野田教授はカンボジア・プノンペン郊外のスラムを挙げる。

 このスラムでは、雨が降ると近くにある湖の水があふれて住宅地が頻繁に浸水。衛生状態に問題を抱えていたが、プロジェクトを通じて排水設備や生活道路が整備され、衛生状況は劇的に改善した。鍵となったのは、住民で組成された「地域開発委員会」だ。委員会を中心に、住民自身が排水設備や生活道路の整備などの方針を決め、建設も住民たちが手掛ける。それを政府や国連などが技術面や資金面で支援する形でプロジェクトが進行した。

 「住民たちの中で合意が形成されていますから、多くの人が当事者意識を持って関わるため工事はスピーディーに進みますし、地域のみんなで運営しているので、不正も起きにくい。住民たちが自らこうした組織を運営していけるよう、教育などを通じて人々をエンパワーメントしていくことが大切です」(野田教授)

 ハビタットでも、家づくりに加え、水インフラの建築支援や衛生面の指導、住民のコミュニティ育成を通じたエンパワーメントに力を入れているという。

 スラムの改善の鍵を握るのは、そこに住む人たちに他ならない。生活基盤となる家や都市インフラの整備に加え、困難を抱えた人々が自ら立ち上がれるよう、住民やコミュニティをエンパワーメントしていく。こうした地道な取り組みが、スラムを、そして都市の未来を変えていくだろう。

提供:三菱商事