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民主主義には時間がかかる 歴史学者が読み解く「いま中東はどこにいるのか」

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カイロ大学歴史学科教授のムハンマド・アフィフィ氏=エジプト・カイロ

――エジプトでは「アラブの春」で2011年と13年に2度の「革命」を経験しました。それは、どんな意味を持っていたのでしょうか。

2度の革命で人々は「変化」への欲求を表現しました。それは特に若者にとっては、21世紀にふさわしい物の考え方や生活様式、文化に変わりたいという願いでした。また、フェイスブックをはじめとする「コミュニケーション革命」でもありました。ジャーナリストや政党の一員にならなくても、一人一人がフェイスブックで自分の意見を表現できる時代になったからです。

入学してくる学生を見ていても、メンタリティーに大きな変化を感じます。かつては外国に電話をかけるには電話局に行かなければいけなかったのが、いまは携帯一つでいとも簡単につながることができる。これは若者に大きな変化をもたらしました。また、彼らは短期間のうちに二つの革命を経験し、2人の大統領が牢獄に入れられるのを見ました。彼らは、物事はとても変化しやすいのだと感じています。

夕暮れのエジプト・カイロ中心部のタハリール広場。2011年の革命時、ここは「自由」や「変革」を求める人々であふれかえった。向かいに見えるのはエジプト考古学博物館=高橋友佳理撮影

――11年の革命後には経済状況が悪化しました。貧富の差が広がったのではないですか。

どんな革命でも、その後には深刻な経済的問題が付きものです。国家機関の再建と観光収入の減少が主な理由です。観光業に依存するエジプトでは、それは深刻でした。いまこの国が直面しているのはいかに経済危機を乗り越え、教育と文化の質を上げるか、ということです。

――アラブ諸国において「民主主義」が機能していないと感じることがあります。民主主義は最善の方法なのでしょうか。

もちろん。他に選択肢がありますか?

時計塔の立つ、カイロ大学のキャンパス=エジプト、高橋友佳理撮影

当然、民主主義にもプラス面とマイナス面があります。民主主義がゴールなのではなく、単に新しい政権が現れるまでのメソッドにすぎません。20世紀のある時期まで民主主義はイタリアやドイツの独裁政権下で機能するか疑問視されていました。機能はしましたが、独裁に走りました。アラブの国々は、諸外国の移行期の歴史をよく読み、そこからもっと学ばなくてはいけません。

民主主義の発展には時間がかかります。欧州ではルネサンスや2度の世界大戦、米国では南北戦争などをへた後に、日本では第2次世界大戦の後から発展しました。革命でも戦争でも、重要な変化の後には、民主化が進むということです。歴史を見ていると、民主主義は段階ごとに達成されています。アラブ世界がいま重要な発展の途上にあり、様々な要因があろうとも民主主義をいつかは達成すると私が思う理由です。

米国ではアフリカ系市民に投票権が与えられるまでには、そして最初のアフリカ系大統領が生まれるまでには長い時間がかかりました。ただし、テクノロジーが発達したおかげで、飛躍的にそのスピードは上がっています。

――「アラブの春」による革命が起こらなかったサウジアラビアでも女性による自動車の運転が解禁されるなど変化があります。どう見ていますか。

サウジでは女性たちが20年以上前から運転解禁を求めてきました。それが、いま、解禁という決断がなされた。これは単純なことのように見えますが、非常に歴史的な決断です。この地域はぐっと民主主義に近づいていく、ということを意味しています。

変化のただ中にいる私たちには自覚しにくいですが、中東では大きなシフトが起きています。今後、政治的、社会的レベルで多くの変化や移行が起きていくでしょう。

ムハンマド・アフィフィ Mohamed Afifi カイロ大学歴史学科教授
1959年生まれ。エジプト・アインシャムス大学で歴史学を学んだ後、エジプトとフランスの大学院で博士号を取得。2009年から歴史学科長。