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15カ国・地域から沖縄に集まった新入生 学生全員に「専門外」の研究をさせる理由

美ら島の国境なき科学者たち
OISTの2018年度入学生。みんな元気いっぱい。(写真:OIST)
OISTの2018年度入学生。みんな元気いっぱい。(写真:OIST)

OISTの入学式では、在学生やスタッフ、教員などが見守る中、新入生たちが一人一人自己紹介をするのが恒例になっています。そんな様子を感慨深い眼差しで見つめていたのが、OIST博士課程2年生のモハメド・アトワ、通称モー。1年前、自分が今見つめるあの同じ場所で、未来の可能性に心を躍らせながら自己紹介したことを思い出していました。

今年の新入生も、このグローバル化された世界を代表するように出身国・地域はさまざま。OIST学生の男女比は6:4で、新入生も男性20名、女性15名です。科学の世界では、多様性が創造性を産み、一定の国や人種、性別が主流となるべきではないというのがモーの考え。この多様性に富む新入生グループが、まさにOISTらしいと、嬉しく感じていました。

モーは米東海岸のボストンから車で南に1時間ほどの小さな田舎町で、アメリカ人の母親とエジプト出身の父との間に生まれました。14歳の時に家族と一緒にエジプトの首都カイロに移り住みましたが、現地の学校では同級生たちから「アメリカ人すぎてエジプト人にはなれない」といじめられ、周りになじめませんでした。

そんな学校生活でのモーの心のより所になったのが大好きな科学でした。勉強に打ち込み、奨学金を得てエジプト有数の公立理系大学で材料科学と工学を勉強したモーはその後、スウェーデンの王立工科大学でナノテクノロジーを研究して修士号を取得。

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アメリカ、エジプト、スウェーデンに日本と、多様な環境の中で育まれてきたモー。(写真:OIST)

奥深い歴史と最先端の科学技術をあわせ持った日本の文化にひかれていたモーはその後、研修生として東京大学で働き始めました。

しかし日本に憧れていたモーが東京での都会暮らしで感じたのは、孤立感や疎外感でした。そんなある日、東京大学本郷キャンパスのラボで目にしたのが、OISTが学生リクルートのために沖縄県外で行なっているOIST Cafeのチラシでした。

参加したモーが目を奪われたのが、そこで見たOIST紹介のビデオ。大都市では見ることのできない紺碧の海と青々とした緑に囲まれた、光あふれるキャンパス!

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エジプトAin Shams Universityの卒業式で。(写真:Mohamed Atwa)

それからモーは無我夢中でOISTに博士課程の出願書類を送り、書類審査を通過してアドミッションワークショップという入試面接への参加切符を手にしました。那覇空港からOISTまで、そしてOISTキャンパスに到着してまた帰路に着くまで、いたるところで終始笑顔で迎えられたモーにとって、沖縄は生まれ育ったアメリカの小さな田舎町とどこか重なる、人と人との関わりからくる温かさとなんとも言えない居心地の良さを感じられる場所でした。

ところで、入学式で新入生の挨拶の中から多く聞かれたのが、「大学の学部では物理を研究してきたけれど、今後勉強したいのは神経科学」などという、「専門を変えたい」という希望。そのような他分野の研究に興味のある人がOISTに入学してくるのには理由があります。

OISTはその教育・研究のあり方に、国際性とともに学際性を掲げています。学際性とは分野の壁を越えた研究や交流のこと。そのためOISTには学部がなく、キャンパスの設計にも、各分野の研究者が頻繁に交流できる仕組みが施されています。

学生は全員が1年次に「ラボローテション」として、3つの異なる研究グループに所属しながら単位を取得し、その後2年次に自分に合った所属研究グループを決定します。この「ラボローテーション」では、必ず一回は自分の専門以外の科目を履修することが義務付けられています。
モーの場合、近い将来に実社会で役に立つようなエネルギー関連の研究をすることを希望していました。そこで、最初のラボではリチウムイオンバッテリーの開発につながる研究を行いました。次に材料科学の専門を活かして、「グラフェン」という、厚さが炭素原子1個分という極めて薄い素材に関する研究に取り組み、最後に彼の専門外である、心理学と神経科学からADHD(注意欠如・多動性障害)を研究するグループで、ADHDの子どもとそうでない子どもの動きの違いを比較するというフィールドワークに取り組みました。3つのラボローテーションを経てモーは、岡田佳憲准教授が率いる量子物質科学ユニットで今後4年間の研究活動を行うことに決めました。この研究グループでモーは、これまで勉強してきた材料科学と工学、そしてナノテクノロジーの専門を存分に生かしながら、次世代の新しいエネルギー源を開発するプロジェクトに取り組むことになります。

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研究の話をすると止まらないモー。これから取り組むエネルギー研究プロジェクトについて説明をしてくれた。(写真:OIST)

ラボローテーションで自分の専門外の研究に取り組んだモーは、特にADHDに関して直接ヒトを研究対象とすることで、これまで行っていた物質を対象とする研究との違いを学びました。この経験によって、異なる視点から物事を見ることが可能になり、さらに、人との協働に対するさらなる意欲が生まれたとモーは言います。そしてそれは科学者が常に努力すべきことだ、とも。

学際的な研究を進める意欲が非常に高い岡田准教授は、モーたちのアイデアが、自分たちだけでなく、OISTの周りの研究グループにとってもメリットがあるかどうかを議論し、異分野の研究グループとの共同研究を作り上げようとしています。そんなところに魅力を感じたのも、モーが岡田准教授のラボを選んだ理由です。

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沖縄の離島で子どもたちにわかりやすく科学を説明する。学生もこのような科学のアウトリーチ活動に積極的に関わる(写真:OIST)

研究ばかりではありません。学生数が少ないOISTでは、学生一人ひとりに求められる役割が小さくありません。OISTでは学生たちが自発的に、そうした役割を楽しんでいるように見えます。在学中の1年間でモーは、様々な経験を積み重ね、去年初めて行われたTEDx OISTではスピーカーにもなりました。

このほか、音楽活動などを通じてOISTの国際性を地元の小学校で紹介する活動を企画したり、沖縄の離島の子どもたちに科学の出前授業をしたり、また学生評議会のメンバーになって広報担当としても活動しています。学生評議会は、OISTをより良い場所にしようと各方面に働きかける学生代表の集まりです。「僕にとって科学よりも興味のあることは少ないけど、あるとすれば科学をしている人たちのこと。OISTは本当に面白い科学者が集まっている。そんな人たちを、地域の人と繋ぎたい。だから広報担当になったんだ。」とモーは言います。私生活では免許を取るために自動車学校に通ったり、ブラジルの武術カポエイラを始めたり。廊下ですれちがうモーはいつも急いでいます。そして、その目はいつもキラキラと輝いています。

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学生評議会メンバーと談話する。OISTでは、アメリカとエジプトという二つのアイデンティティーを持つ彼と同じような人がたくさんいて、どこにも行き場がないのではと感じていたモーにとって本当に居心地がいいと言う。(写真:OIST)

博士課程に進む学生は、自分の研究が本当に好きな人たちばかり。さらにOISTにやってくる学生は、研究以外にも、この小さいながらも多様性豊かなコミュニティーで自分の役割を見つけて積極的に貢献しようという人たちばかり。今年入って来た第7期生も、好きな科学に没頭するとともに、キラキラ光る沖縄の美しい海を映し出したかのように、希望に満ちた瞳をさらに輝かせながら自分らしく活躍して欲しい。いや、モーのような先輩たちに囲まれていたら、きっとそうなるでしょう。

(大久保知美 OISTメディアセクション)