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テクノロジーが医療を変える。世界に広がる香川発の遠隔医療

PR by 三菱商事 公開日:

 世界では医師や医療施設の不足などから、いまも1年間に5歳未満の子ども約560万人が命を落としている。特に、妊婦や新生児が命を落とす妊娠出産リスクを軽減する手段のひとつとして、ICT(情報通信技術)を使った香川県遠隔医療の取り組みが今、世界から注目されている。

 香川県はかつて、高い周産期死亡率(妊娠満22週以後の胎児と生後1週未満の早期新生児の死亡率)に悩まされていたが、近年は全国トップクラスの水準まで状況が大きく改善。

 その立役者といえるのが、ICTを使った医療の試みだ。県内の医療機関が持つ情報をデータセンター経由で共有するシステム「かがわ医療情報ネットワーク(K-MIX+)」では、患者の電子カルテを複数の病院で参照し合ったり、遠隔地の専門医に画像を見せて診断をしてもらったりできる。

 こうした技術は、出産に関わる医療において既に効果を発揮している。K-MIX+に先だって立ち上がった「周産期電子電子カルテネットワーク」と、胎児の心拍を超音波で測定してモバイルでデータを送る小型機器「プチCTG(胎児心拍転送装置)」を併用することで、妊婦がどこにいても、医師が胎児の健康状態を把握できるのだ。開発を手がけた香川大の原量宏特任教授はこう語る。

「香川は島が多く、設備の整った中核病院で定期検診などを受けるためには船で半日以上かけて通院しなければならないなど、妊婦にはつらい環境でした。『プチCTG』を使うことで、措置が必要な妊婦だけを判別して中核病院に搬送することができるようになりました」

「K-MIX+」の原型である「かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)」は、原特任教授が中心となって2000年にスタートした。当時は患者の情報を他の病院と共有するという考え方は根付いておらず、医療関係者からは「データを外に出すのは望ましくない」との意見が強かったという。

 潮目が変わる一つのきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災だった。

「プチCTG」の前身である「モバイルCTG」の導入をきっかけに周産期医療のネットワークシステムを構築していた岩手県では、津波などの被害によりカルテや投薬歴など多くの記録が失われたが、妊婦の健康診断のデータなどは電子化されており、岩手医大のデータセンターに記録されていたため無事だったのだ。

「こうした事例が注目されたことで、徐々に医療情報をネットワーク化することのメリットが理解されてきたと感じています」(原特任教授)

 技術面だけでなく、個人情報の扱いなどの運用面でもノウハウが蓄積されている香川県の取り組みには、海外からも注目が集まっている。

左)「プチCTG」(胎児心拍転送装置)。右)タイでの技術協力事業の様子。「プチCTG」を妊婦のお腹にあて、心拍のデータをタブレットに送信する。(遠隔医療支援プロジェクト実行委員会提供)

 タイ北部のチェンマイ県では、国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業として、香川県をモデルに「プチCTG」などを使った遠隔医療システムを導入。2014年からチェンマイ大学医学部付属病院と産科専門医のいない遠隔地の病院3カ所をネットワークで結び、今年からはネットワークをチェンマイ県全体に広げる試みが始まっている。

「現地は産科医が足りないうえ、道路の状態も悪く、車での長距離移動は母体に負担になる。遠隔医療はこうした地域で効果的です。現地の医師や看護師が中核病院の産科専門医からテレビ会議で指示を受けることで、知識やスキルが向上するという効果も出てきています」(原特任教授)

 昨年10月、JICA四国が行った遠隔医療などの研修には、政府関係者や医師など11カ国から18人が参加した。アフガニスタン、ミャンマーなど山間部が多い国や、サモア、フィジーなどの島国などからの参加が目立った。研修に携わったJICA四国の波多野誠氏はこう語る。

「近年、ICTのインフラ整備が世界中で進んでいます。農村地域でもスマートフォンなどを用いたインターネットの利用が可能となってきました。こうした背景から、中山間部や島しょ部など医師が少なく交通インフラが整わない地域でも、質やアクセスの面で短期間で医療環境を改善する方法として、遠隔医療に注目が集まっていると考えられます」

タイで行われた遠隔医療の研修の模様。日本から持ち込まれた機器の説明を熱心に聴く現地の医療関係者たち。(JICA四国提供)

 医療の現場を大きく変えようとしているこうしたテクノロジー。今後、その鍵を握るとみられるのが、あらゆるものがセンサーや通信機能を搭載し、インターネットを介して情報をやりとりするIoT(Internet of Things)の技術だ。胎児の心拍数を計測する「プチCTG」も、IoTの一つと考えることができる。

 インターネットの黎明期から社会の変遷を見つめてきた東京大学IoTメディアラボラトリーの西和彦ディレクターは、今後、医療分野でIoTが普及していくと予測する。

「IoTの普及を促す『キラープロダクツ』の有力な候補の一つが、センサーで人間の生体情報を集める『バイオメトリクス』の分野です」

 西氏も学生などのチームとともに、高感度のセンサーを使って人の汗から脈拍や血液の状態を計測する絆創膏型の機器などを開発している。

「たとえば一般の病院の病棟でも、今は患者の体温や血圧、体重などのバイタルサインを看護師が毎朝巡回して測るなどしているケースが多いでしょう。それらをセンサーを備えたIoT機器によって一括して計測し、データとして管理することで、医療の現場は大幅に効率化できます。医師や看護師が、今まで以上に、患者に丁寧に向き合えるようにもなると考えられます」

 さらに、こうした技術を遠隔医療技術と合わせて応用すれば医療従事者が不足している地域でも、手軽に健康状態を調査できるようになるなどの効果も期待できるだろう。収集したビッグデータを活用することにで、新たな医療サービスが生まれる可能性も開けてくる。

 技術の活用で、医療サービスが世界の隅々にまで行き渡る。そんな未来が、すぐ近くまで来ているのかもしれない。

提供:三菱商事