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メディアの枠超えたコラボでATP賞 新たな報道の可能性

Re:search 歩く・考える
対談する村山祐介記者(左)と後藤はなディレクター=東京都港区

授賞式の講評では「新聞記者がカメラを携えて現地で撮影し、テレビディレクターがそれを撮影し、ネットで配信する。メディアの枠を超えたドキュメンタリーの新たな可能性を提示した意欲作。世界から見過ごされている人道危機を目のあたりにし、番組の意義を痛感した」との評価を受けました。

低予算の手作り番組、でも中身を評価された(後藤)

――新聞業界とテレビ業界という異分野のコラボ。さらにネット配信番組で初の同部門受賞。いろいろな面で前例のない受賞です。

 

村山 私は、この番組を初めて見た時に、「自分が文章と写真で伝えたGLOBEの紙面より、より伝わるものがあったのではないか」とAbemaに対して敗北感を感じました。以前の特集取材(201710月号「壁がつくる世界」)で貨物列車に乗ってメキシコを縦断してアメリカまで来たという青年がいて、「本当かな?」という疑問から、今回の取材が始まりました。エルサルバドルが殺人率世界最悪の国って「本当かな?」という疑問もありました。こうした疑問を、ひとつひとつ確かめるように進めていった取材でした。

村山祐介記者=東京都港区

◇GLOBE2017年10月特集「壁がつくる世界」

◇Re:search「『野獣』という名の列車をたどって」

後藤 配信した後で、村山さんから「敗北感を感じた」というメールをもらい、私たちも驚きました。素材をもらった時点から、私たちの方こそ敗北感を感じながら作業をしていた。「新聞記者がここまで撮る時代になったのか」と。テレビの人間にとっては脅威で、うかうかしてられないなと。

(ATP賞への)応募はダメもと。過去の受賞作は地上波、BSがほとんどで、NHKなどの重厚な作品が並んでいます。AbemaTVニュースチャンネルは、地上波に比べると超低予算で、スタッフも少ない。お金がかかるので、MAという音響面の仕上げ作業を省いたり、外国語のインタビューに日本語音声をかぶせるのもプロを呼ばず、ディレクター自身で吹き込んだりと手作り感満載の作品です。他の作品に完成度では太刀打ちできませんが、「非放送系」のコンテンツとして唯一受賞できたのは中身を評価してもらったのかなと思います。

後藤はなディレクター=東京都港区

 

映像のつなぎ方、新鮮な発想(村山)

――新聞記者が取材撮影し、テレビのディレクターが番組製作を手掛け、ネットで配信するというメディアの枠を超えた取り組みでした。どんなところでお互いの「違い」を感じましたか。

 

後藤 テレビの制作現場は結構、分業です。ディレクターは現場でのディレクションが中心になることが多く、1人では全部やらないことがあります。ひとりの記者が映像、情報、データまで取ってくる、というのは大きな違いです。あとネタ自体を一から掘り起こす力もすごいと思いました。テレビでは、どこかで出てきた記事を引っ張ってきて企画するなど2次情報、3次情報に頼ることが多いなかで、考えさせられました。

一方、村山さんは新聞記者としては動画を撮れる方ですが、それでもテレビのカメラマンとは違います。番組として成り立たせるためにどんな映像が必要か事前に伝えたり、出張中にはメールでやりとりをしたりして、製作段階からしっかりコラボしました。それでも、映像をつなぐ時、テレビの人なら押さえているシーンが欠けていることはあり、編集で加工したり、資料映像を探したりして映像がつながるように工夫しました。

村山 やりとりを通して、新聞だと発想もしないことに、気づきました。例えば移民が「バルサと言う小舟に乗って川を渡った」「コンビという乗り合いバスで移動した」と私に証言するんですが、それをコンビとかバルサの映像をつなぐことで、視聴者に追体験してもらえる。証言をしているシーンだけでなく、物事が起きた、まさにその場所をとらえる。道中も「広い意味での現場なのだ」ということを実感しました。

 

Abema×GLOBE「『野獣』という名の列車」から、移民の旅路

――テレビ、新聞それぞれの発想から意見がぶつかったりしたことは。

 

村山 思ったことをお互いにどんどん言って、お互いの意見を聞きながら、改善していく展開でした。例えば、エルサルバドルの農村で暮らすグレンダさんという女性へのインタビュー。米国に移民するのをやめて、この国に踏みとどまる決意をした人なのですが、彼女が「支援がないと何もできないとか、自分を貧しいと思うことが、貧困を生んでいたんです」と言うんです。わたしは彼女の哲学的な言葉に感動して、GLOBEの紙面で紹介したのですが、どこか説教くさくなってしまうように思っていました。

Abemaでも当初、彼女の言葉は動画ではなくスタジオで私が説明する設定だったのですが、「表情を含めて動画で見せた方が伝わるのではないか」と後藤さんに提案し、話し合った結果、ビデオでインタビューを流す形になりました。 

Abema×GLOBE「『野獣』という名の列車をたどって」から、グレンダさんインタビュー

激しい環境変化、でもコンテンツの大切さは変わらない(後藤)

――総務省の有識者会議でも放送・通信の融合は大きなテーマになっています。メディアの垣根を超えた動きが加速していくのでしょうか。

 

後藤 メディアの状況は本当に激変しています。Abemaにいると、地上波以上に感じます。技術とかデバイス、メディアの技術的な進歩が日進月歩。変化のスピードが速く、どんどん切り替えていく。新しいものをどんどん取り入れ、取りかかってうまくいかなければ、すぐに捨てる。その判断が早い。そのなかで、ニュースとか、私たちの仕事はどうなっていくんだろう、と感じることは多いです。

一方で、今回の番組づくりを通して、ひとつ確信したことがあります。どんなにデバイスとかメディアが変わっていっても、大事なことはこれからもずっと「コンテンツ」の強さ、そして「見せ方の技術」の二つに尽きるということです。強い素材と、それをわかりやすく、面白く見せる技術。新聞とかテレビとか、という媒体がいつかなくなるのか、別のメディアになるのか、それはわからないけれど、この二つさえしっかりしていれば、多分これからも「届けられる」と実感しました。

映画のようなコンテンツ、挑戦したい(村山)

村山 「見せ方の技術」でいえば、やってみたいと思いながら、全くタッチできていないところがあります。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストではすでに見られますが、ネットで映画のように一つのストーリーを表現することです。活字で文章を読ませつつ、動画も音楽も、地図のインフォグラフも入れ、一つのネットサイトで、映画のようにテレビ番組のようにストーリーを展開していく形は、すでに世界のメディアが戦う土俵の一つになってきています。

後藤 ネットの世界で勝負するにはコストパフォーマンスが重要です。ドキュメンタリーは手間も時間もかかるという意味で「コスパ」はよくないです。テレビの地上波の世界にいたときは競争相手は、ニュースでいえば新聞数社を含めた「同業他社」と戦っていればよかったんですが、ネット時代、スマホ時代になると、AbemaTVニュースチャンネルにとってはデジタル端末を使っているすべてのコンテンツがライバルになる。ゲーム、SNS、音楽配信サイト……時間の取り合いで、より魅力的なもの、ゲームやユーチューブをやめてみてくれる人がいないと、成り立たない。本当に戦国時代です。ぬるま湯につかっていましたが、これからは海に放り出されるんだ、と覚悟しています。

表彰式を終えたAbema×GLOBEのメンバー。左は進行を担当したアナウンサーの矢島悠子さん=東京都港区

◇むらやま・ゆうすけ 1971年生まれ。朝日新聞アメリカ総局員、ドバイ支局長を経てGLOBE記者。

◇ごとう・はな 1973年生まれ。テレビ朝日社会部、北京特派員などを経てAbemaNewsディレクター。