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サンゴの白化に隠された意外な「生存戦略」~サンゴ研究の最前線とは~

PR by 三菱商事 公開日:
白化したサンゴ(撮影 中村征夫)

 色とりどりのサンゴが真っ白に変色し、やがて死に至る白化現象。世界最大のサンゴ礁が広がるオーストラリアのグレートバリアリーフでは、昨年、2年連続で大規模な白化が起き、日本の国土の3分の2にあたる面積が被害を受けた。日本でも、2016年に沖縄県にある国内最大のサンゴ礁域「石西礁湖」が、大規模な白化現象に見舞われている。

 白化現象には、地球の気候変動や海の汚染が影響している。サンゴの中には褐虫藻(かっちゅうそう)という植物プランクトンが共生し、光合成でつくり出した栄養をサンゴに与えている。褐虫藻の数はサンゴの表面積1平方センチメートルあたり200万~400万個という膨大なものだ。

 海水温の上昇や海水の汚染などのストレスを受けると、サンゴの体内の褐虫藻は大幅に減少する。緑や茶色の色素を持つ褐虫藻が減ることで、サンゴは本来の骨格の色が透けて見え、白色に変わったように見えるのだ。サンゴは白化してもしばらくは生きているが、褐虫藻から与えられていた栄養が得られなくなるため、この状態が長く続くと死んでしまう。海に流れ込んだ赤土や生活排水に含まれるバクテリアも、魚やオニヒトデなどを介してサンゴに感染し、白化を加速させることもわかってきている。

サンゴは体内の褐虫藻やバクテリアなどとともに生命の共生システムをつくりあげている(撮影 中村征夫)

 ただ、最近の研究では、白化には意外な一面があることがわかってきた。白化現象のメカニズムについて研究する静岡大学の鈴木款(よしみ)特任教授はこう語る。

「白化現象が起きている間、有害な活性酸素が発生するのを食い止めるために、サンゴは傷ついた葉緑体のクロロフィルaを分解して無害な化合物に変えます。また、縮小したり、透明になったりした異常な褐虫藻を消化・吸収して栄養にするなど、自分の身を守りながら海水温が正常化するのを待っていることがわかりました。また、サンゴの体内に残った正常な褐虫藻は細胞あたりの光合成の能力が2倍にも3倍にもなっていて、サンゴの回復をうながしていることも明らかになっています。白化はサンゴが生き残るための生存戦略の一部だという見方もできるのです」

 さらに、海外の研究でも新たな事実も明らかになってきた。サンゴは海水温の上昇などの環境の変化に対して、私たちが考えているよりも早く、種として適応していくというのだ。

 白化現象によって短期的には多くのサンゴが死んでしまうが、長い時間軸で見ると高水温や環境の変化に強いサンゴが生き残り、子孫を残していく。地球の長い歴史を考えると、大きな海水温の変化は過去に何度も起こっており、サンゴはそれに適応してきたと考えられるという。

「たとえば20年前と現在を比較すると、現在のほうが高水温に強いサンゴが増えていると考えられます。サンゴは座して死を待っているわけではなく、変わりゆく環境に適応しようと一生懸命抵抗している。だからといって、現在のように人類が過去になかったほどあまりに急速に地球の環境を変えていったら、サンゴの適応力も追いつかなくなってしまいます。海水温の上昇がこれ以上起こらないようにしていくことや、赤土や生活排水による海洋の汚染を防いでいくことは絶対に必要です」

サンゴは長い時間をかけて海水温の上昇に適応していくことがわかってきている(撮影 中村征夫)

 こうした努力に加えて、サンゴが環境の変化に適応するのを何らかのかたちでサポートすることはできないか。鈴木教授はいま、そうした研究に取り組んでいる。

「サンゴの体内に共生するバクテリアはビタミンCやEなどをつくり、サンゴに栄養として与えている。ビタミンCやEは抗酸化物質で、サンゴが高水温などのストレスにさらされた時に発生する有害な活性酸素を退治する効果があります。たとえば、ビタミンEを非常に小さなナノカプセルに入れてサンゴに食べさせるなどすることで、サンゴがもともと持っている生きる力をサポートすることはできないかと考えています」

 変わりゆく環境にたくましく適応しようとしているサンゴ。かけがえのないサンゴ礁を失わないためにも、サンゴの生態を科学的に解明する研究は続いていく。

提供:三菱商事