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香水コンペの舞台裏

LifeStyle 更新日: 公開日:

「選ぶ側」にも重圧 新作香水の多くはコンペをへて生まれる。ブランド側が新作のコンセプトを複数の香料会社に説明し、香料会社が候補作をつくって競い合う。香料会社にプレッシャーがかかるのはもちろんだが、ブランド側にとっても「選ぶ責任」を背負う厳しい毎日だ。

「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ」の開発責任者ボーテ・プレステージ・インターナショナル(BPI社)のナタリー・エロワン・カメルは、コンペの期間中、各香料会社を訪れるたびにその段階の試作品を持ち帰った。次の訪問までの間、日々その試作品を自分の肌につけて、香りの特徴や持続性などを確かめるためだ。試作品は複数あるので、両腕のあちこちにつけて嗅ぎながら毎日を過ごす。「実際に着けてみないとわからないことがありますから」と、エロワン・カメルは言う。香料会社に試作品の改良を求めるうえで、実際に使ってみた印象は重要な要素なのだ。

「開発期間中は、お店で売っている『完成品』の香水をつけることはありません。私が身につけているのは、どこにも売ってないものばかりです」

BPI社から「プリーツ プリーズ」の開発に携わったのは全部で3人。そのうち1人は男性だったが、エロワン・カメルとまったく同じように試作品を身につけて過ごした。エロワン・カメルによると、この男性社員は「通勤電車で、周りがヘンな顔をして僕のことを見るんだよね。慣れたけど」と言っていたそうだ。「ですよね、だって、男性から花の香りがするのですから」とエロワン・カメルは笑う。

1年以上にわたったコンペの最初の半年間、多種多様な試作品がある段階での絞り込み作業は、エロワン・カメルにとって最も大きな重圧を感じた期間だったという。「シャネルの5番になるかもしれない試作品、つまり、大成功を収める可能性を秘めた試作品を外してしまわないか、と」。特に、開発を続けるかどうか迷う試作品について「打ち切る」と決めるとき、その思いがよぎった。

コンペの後半になると、エロワン・カメルと香料会社のやりとりは、いっそう密度を増す。「何かの素材を1滴足すたびに、エロワン・カメルさんが嗅いで『なぜ、こうするの?』と尋ねる感じだった」。コンペに勝ったジボダン社の調香師オーレリアン・ギシャールは、そう振り返る。「この香水は、そうしたやりとりを通じてつくりあげられたものです」

選ぶ側と選ばれる側がともにプレッシャーを抱えながら、コミュニケーションを積み重ねて生まれる香水。店に並ぶ香水ひとつひとつが、コミュニケーションの集大成と言える。(友野賀世・編集委員)
(文中敬称略)