マンスールさんは、慶応大学総合政策学部との協定で昨年4月に来日し、現在は訪問講師としてアラビア語を教えている。
マンスールさんは、政府軍、反政府軍、クルド人、「イスラム国」(IS)が入り交じる現在のシリア情勢を、「ほとんど毎日、勢力地図を書き換えなくてはならない状況だ」と評する。国内の移動も難しくなり、「首都ダマスカスから北部のアレッポまでは高速バスで約4時間だったが、内戦が始まってからは10時間以上かかる」と言う。
内戦が始まったきっかけの一つが、シリア南部ダラアで起きた、14歳の少年に対する拷問事件だったといわれている。「若者たちは革命を起こそうとしたわけでない。今までと違う生活がしたくて、平和的なデモをしただけだった」と振り返る。「アサド大統領も、各県の代表を大統領公邸に呼ぶなどして、解決を模索した。でも、国民が自由になってしまうと、権力を失う人たちがいる。そういう勢力がデモに発砲する。一方、若者はデモを守るために武器を持つ。そして、少しずつ戦いが始まってしまった」と憤る。
現在、アレッポ市の約4割が政府軍の支配下におかれているという。だが、食料などの日用品の価格が高騰し、物価は数年前に比べて9倍に上昇。政府は治安維持で精いっぱいで、医療や日常生活の支援はNGOやNPOが行っている状況だという。「大学教員の私の月給は、5年前に約1000米ドルだったが今は100米ドル。かなり生活も難しくなっている。私を含め、ほとんどの人が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の支援を受けている」と話す。
アレッポには、周辺自治体から逃げてきた国内避難民も多く、アレッポ国立大学の学生寮には約6万人が暮らしているという。「誤射の迫撃弾が飛んできたこともあるが、講義は通常通りしている。日本ではセンター試験にあたるテストも行われている」と言う。ただ、治安悪化を懸念した親が子どもを大学に行かせないため、大学の出席率が約4割にとどまっているほか、教員も近隣のトルコに避難するなどして、3~4割減るといった弊害も出ているという。
マンスールさんは「難民や国内避難民の30%ぐらいは5~17歳の就学年齢だ」として、国内外で避難した若者の教育の重要性を強調する。欧米では、シリア人の若者向けの奨学金が充実しているといい、「シリアの若者は世界中に避難し、絶望しながらも、一生懸命チャンスを探している。日本も彼らの夢と希望のために何ができるのか、協力をお願いしたい」と訴えた。
※同シンポジウムは、参加者の発言を引用する際には、役職や名前を伏せるという条件の下で開催されましたが、朝日新聞グローブは、発言者と主催者に実名で報道する許可を直接得ています。
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