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「必要な訓練」か「警察の軍隊化」か カリフォルニアの大規模訓練めぐる論争

World Now
2013年のアーバン・シールドの様子。学校での銃乱射を想定した訓練=ロイター

「人の命を守るためには武器も必要」


アラメダ郡保安官グレゴリー・アーン、副保安官ブレット・ケテレス

「9・11」同時多発テロがあって、人口約700万を抱えるサンフランシスコのベイエリアでも、何か起きた時のために対策を立てておく必要があった。ターゲットになりうる場所で訓練すべきだと思い、2007年にアーバン・シールドを立ち上げた。

アーバン・シールドの第1の目標は、あらゆる自然災害やテロなど、大勢の死傷者が出る事態に対応することだ。もう一つの目標は、警察や消防など各機関の連携を深めることだ。

これまでは法を執行する機関、消防、医療チームの間でコミュニケーションが不足し、うまく機能していない部分があったが、アーバン・シールドで訓練をともに行うことで、コミュニケーション能力が格段に上がった。大きな出来事が起きた時、私たちの住むコミュニティーを守る自信を得た。

警察が参加する訓練シナリオは35あり、すべて世界で実際にあったテロをもとにしている。東京の地下鉄サリン事件を想定した訓練もある。そのほか大学のキャンパスでの銃乱射や、空港でのハイジャック、港でフェリーが襲撃されるシナリオなどを描き、いざという時に備えている。48時間ぶっ通しで、この35の訓練シナリオをクリアする。毎年、総勢6000人、23の団体が関わる巨大なイベントだ。

米国のほかの地域でも、アーバン・シールドほど大きくはないが、同じような訓練が行われている。だが、アーバン・シールドが最も異なるのは、2日かけて行うことだ。1人が命令を受けて動いても、その1人が数十時間も動くことはできない。疲れがたまり、ミスが出てしまう。だから訓練中、別の人間と交代させる。引き継ぎの時は、最初に投入した人物がどこまで何を成し遂げようとしたのか、指揮官がしっかり記録しておく。そして12時間寝かせ、その間は別の人間が動き、12時間後に戻す。こうしたことが大事だ。装備についても、長時間の使用に耐えられるかテストが必要だ。そして次の年に改善していくのだ。

実際の自然災害やテロでは、警察や消防、医療関係者などを非常事態センターがまとめ、このベイエリア全体を守る。消防が参加する火事の訓練や、水難救助の訓練も行っている。

ボストンでは、マラソン大会で爆弾テロがあったが、その捜査に当たった警察もアーバン・シールドに参加していた。「あの訓練シナリオの経験がなかったら、もっと多くの被害者が出ただろう」と話していた。

今年9月に予定される訓練を告知するアーバン・シールドのウェブサイト

アーバン・シールドに参加するのは、サンフランシスコと近郊の警察が主だが、海外からもチームが来て、訓練シナリオを競い合う。昨年は、オリンピックが今年夏に開かれるリオデジャネイロから、爆発物処理訓練に参加があった。韓国の警察が来たこともある。彼らは、私たちの取り組みに感心してくれた。いろんな報道が出ているが、とにかく規模が大きいので、実際に見てみないと分からないと思う。昨年は、日本の政府の関係者も視察に来た。東京からはまだ来ていないけれど、歓迎するよ。

さまざまな装備を供給する業者とも提携している。例えば昨年は、レーダーを照射したら心臓の動きが分かる機材が提供された。テロなら建物の中に人質がどれだけいるか、災害なら倒れた建物の下敷きになった人がいるかどうか分かる。参加者は、訓練を通して最新の技術に触れることができるし、業者には課題の有無を報告している。

(アーバン・シールドの活動に反対する意見もあるが)それは小さな団体で、少数派だ。人口の多い都市では、軍事的なことに対して、不必要に反発する人たちがいる。彼らは、私たちが警察官を訓練して、警察の軍隊化を進めていると抗議している。ただ、彼らは一部の人たちでしかない。

私たちの訓練には多くの人がかかわっている。法を執行する機関、医療機関、消防、行政。この訓練によって、彼らも守られている。このイベントは人の命を救うためのものなのだ。

問題には、現実的に向き合わないといけない。この国には警察官がいないといけない。どこの国もそうだ。ナイーブになるのも分かるが、市民の生命を守るためには武器も必要だ。抗議する人たちがいる一方で、このイベントの重要性を分かっている多くの人たちがボランティアで参加してくれている。コミュニティーの安全のためにね。

Gregory Ahern
アラメダ郡保安官事務所・保安官

Brett Keteles
アラメダ郡保安官事務所・副保安官

グレゴリー・アーン
ブレット・ケテレス

「軍人のメンタリティーを警察に持ち込んだ」

アーバン・シールドに反対する市民団体の報道担当 オマル・アリ

アーバン・シールドを止めるため、昨年の開催中には200人がデモに参加した。昨年のアーバンシールドでは、SWAT(特殊装備戦術部隊)が参加するなど政府の関係機関が一緒になって、対テロ戦術の訓練を行っていた。テロのあった仏のシャルリー・エブド襲撃事件を再現したシナリオもあった。

デモでは、低所得の家庭でマイノリティーの女性が、こんな話を告発した。早朝の4時に、テロの容疑で警察が家に乗り込んできて、家の全員を逮捕・連行したという。赤ちゃんも含めて。4人が戦闘用の重装備をして、ライフルを持っている警官もいた。ゴーグルをつけて顔が判別されないようにもしていたという。これがベイエリアの警察の軍隊化の実情だ。

一般の家庭に、こんな装備は絶対に必要ない。軍が使う方法、つまり相手を怖がらせる戦術だ。常に危険だと思って敵を追う、軍人のメンタリティーでもある。ミズーリ州ファーガソンの事件(※)でもそうだったが、軍隊の武器と一緒に、海外で武力攻撃をするメンタリティーを米国内に持ち込んでいるといえる。

ファーガソンの事件のように丸腰の民間人が警官に殺され、多くの場所で抗議が行われている。これに対して警察は、高速道路をパトロールする警官にグレネードランチャーを持たせたり、警察車両にライフルを持ったスナイパーを乗せたりして弾圧している。ここ数年でいかに警察の軍隊化が進んだのかを示している。

警察が使うこうした武器は、軍からの払い下げだ。オバマ政権になっても、軍から兵器や車両、ドローンなどが警察に払い下げられている。政府の「SB-1033」というプログラムに基づいている。より強力な武器を欲しがる警察に対し、テロ対策としての増強が正当化されるようになっている。

アーバン・シールドは、救急隊なども訓練に参加させている。ボストンマラソンのテロを想定し、医療チームを訓練していた。人々を助けるよりも、テロに対応することが求められるのだ。人道のために働く人たちが、軍事的な訓練を受けて戦うことになるともいえる。

この前、スーパーボウルがサンフランシスコ近郊で開かれた。政府から警察に大金が投入され、セキュリティーがものすごく強化された。会場では、軍隊のような装備をした警官をたくさん見た。特に、目をつけられやすいマイノリティーは怖がっている。軍隊化は警察にとって単なるステップに過ぎず、より多くの強力な武器を常備するようになるという恐怖がある。

※2014年8月、黒人青年マイケル・ブラウン(当時18)が白人警官に射殺された事件をきっかけに抗議デモや暴動が2週間以上続いた。さらに11月に白人警官が不起訴となると、抗議デモが全米に広がった。

Omar Ali
Arab Resource and Organizing Center (AROC)に所属

オマル・アリ