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「カイゼン」で変わるアフリカ

Re:search 歩く・考える 更新日: 公開日:
ヒロキのエチオピア工場で働くエチオピア人の社員

世界的な資源価格の低迷を受けて、産油国などが引っ張ってきたアフリカの経済成長は減速しています。そんななかで、アフリカ東部のエチオピアは、国内総生産(GDP)が平均して年11%伸びる「高度経済成長」を続けています。日本企業は進出に動きつつあり、地元企業も日本流の「カイゼン」を取り入れてさらなる成長を目指しています。(GLOBE編集部 左古将規)

エチオピアの高度成長を見る

首都アディスアベバから車で西へ1時間半。横浜・元町に本店を置く革製品店「ヒロキ」のエチオピア工場がある。幹線道路沿いに地元資本の革なめし工場があり、その敷地の一角にある4階建てビルの4階部分、250平方メートルを間借りして、2013年に開設した。

ヒロキのエチオピア工場

現地で採用されたエチオピア人従業員22人と、現地法人の遠藤亨社長ら日本人3人が働く。同じ敷地にある革なめし工場などから仕入れた羊の革を使い、ジャケットやシャツ、バッグをつくる。「エチオピアの従業員はまじめで手先も器用。品質はどんどん良くなっている」と遠藤社長。昨年1年間でジャケットやシャツなどの衣料品535点と、バッグ1821点を日本に出荷し、横浜や東京・銀座、恵比寿などにあるヒロキの直営店で販売している。

日本企業の海外進出を支援する日本貿易振興機構(JETRO)によると、エチオピアの工場労働者の賃金水準は中国の9分の1、バングラデシュの半分以下程度。人件費の安さが注目を集め、中国やインド、韓国の衣服メーカーなどがアディスアベバ郊外の工業団地に続々と進出している。だが、ヒロキがエチオピア工場を開設した理由は「経費削減のためではない」と横浜本社の権田浩幸社長(49)は断言する。

エチオピア産の羊革のジャケットを手に取るヒロキの権田浩幸社長

ヒロキでは、現地従業員に対し、周辺の同じ業種の工場に比べて6倍の水準にあたる月3万~4万円の給料を支払っている。そのうえ、通勤バスを走らせたり、ボタンなどの材料をエチオピアの外から仕入れたりしているので、経費はかえって高くつく。それでもエチオピアに工場を開設したのは「少しでも良い製品をつくるためだ」と権田社長は言う。

「エチオピア産の羊革は、ニュージーランドなど他国の羊革に比べて、薄くて、しなやかで、丈夫。品質は世界一だ。この革を使って、どうすれば最高の服をつくれるかを考えた」と権田社長。革の産地であるエチオピアに工場を置くことで、たとえば色むらなどの不具合があった場合、同じ敷地にあるなめし工場に持ち込んで、すぐに修正できる。また、ヒロキの工場では、裁断や縫製などの工程ごとに作業を分担するのではなく、1人の職人が1着の服を最初から最後まで仕上げる。「安い物を大量生産」するのではなく、「欧米のブランド物に負けない高品質の物をつくる」ことを目指しているという。日本での販売価格はシャツが1着数万円、ジャケットが1着十数万円という「高級品」だ。

エチオピアの羊革を使ったヒロキのジャケット=左古将規撮影

ヒロキは近く、工場をエチオピア国内の別の町に移転して、従業員200~300人規模に拡大することを計画している。将来的には地元の皮革業界などと連携し、皮革職人の養成学校を併設したいという。ヒロキは1952年に洋服小売店として創業し、自社商品を開発するなどして事業を広げてきた。西岡正樹会長(76)は「日本も戦後、外国から技術を学びながら経済成長した。恩返しの気持ちでエチオピアに貢献したい」と話している。

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今後さらなる経済成長のために、エチオピア政府が日本に期待することは何か。政府の産業政策を統括するアルケベ・オクバイ首相特別顧問に尋ねると、「投資と企業進出」「輸出入の拡大」に加え、「技術とノウハウの移転」を挙げた。

エチオピア・カイゼン機構のゲタフン所長

エチオピア政府は11年、工業省の傘下に「エチオピア・カイゼン機構」を設立した。「カイゼン(改善)」とは、日本の製造業の現場で生まれた作業効率化の取り組みだ。日本の国際協力機構(JICA)が専門家をエチオピアに派遣し、具体的な「カイゼン」方法を助言。これまでにエチオピア国内の縫製業や皮革産業など、計約180社が取り組んでいるという。エチオピア・カイゼン機構のゲタフン・タダセ所長は「製造現場の意識と態度を変えることで、各企業で3~30%のコスト削減に成功した」と言う。

ピーコックの工場の階段には「整理」「整頓」などとアムハラ語で書かれている

2013年から「カイゼン」に取り組む地元の靴メーカー「ピーコック」の工場を訪ねた。建物に入るとすぐに目に入る看板に、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「規律」を意味するアムハラ語(エチオピアの公用語)の標語が書かれていた。

工場を見学すると、さまざまなナイフや、革、靴の中敷きなど工具や材料が、きれいに色分けされた箱に、種類ごとに見つけやすく片づけられていた。工場内の床は、作業場や通路などのスペースごとに緑や黄色のペンキで塗り分けられている。

「カイゼン」を採り入れた「ピーコック」の靴工場

工場のマネジャー、チャラムラク・サハレが、カイゼンを導入する前の工場の写真と比べながら説明してくれた。「以前は工具や材料がバラバラに散らばっていて、工場の中が雑然としていたが、整理整頓したことで作業効率が上がった。

「ピーコック」の靴工場。作業は整然と行われていた

1カ月の生産量は靴1万8000足から2万3000足に増え、品質のばらつきも少なくなり、今では約半数を米国や英国、イタリアなど外国に輸出している」。各職場にリーダーを置き、現場の従業員らの意見を吸い上げながら、職場の「カイゼン」に務めているという。

JICAの神公明・エチオピア事務所長

JICAの神公明・エチオピア事務所長は「エチオピアはかつて『貧困』の代名詞のような国で、JICAも主に保健衛生や井戸掘りなどのプロジェクトに携わってきた。だが、最近10年余りの発展はめざましく、今では私たちも『カイゼン』などの産業支援に力を入れている。これからはさらに、輸出振興のために、有望な革製品のブランド化などにも取り組みたい」と話している。