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終末医療の現場に響く笑い 「みんなやっぱり、笑いたいんですよ」

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ドイツでは「人間は〝にもかかわらず〟笑う動物である」「ユーモアとは愛と思いやりの現実的な表現である」と言われているそうです。その通りだと思いますね。


人間は生まれたときから、だれに教わることなく笑う動物です。笑えないというのは、なにか笑いをおおうものがあるからです。痛みが笑いを妨げるのなら、その痛みをとればいいのですが、おおいをとりのぞくのにユーモアそのものが非常に大きな役割を果たすと私は思っています。


末期の食道がんで固形物を食べられなくなった40代の患者さんと、こんなやりとりがありました。わたしが「トロだったらトロトロって入るかもしれませんね」と言ってみると、患者さんは笑って「私も一日トロトロ寝てないで、トロに挑戦しますかね」と。それを聞いた患者さんのご主人は、「わたしトロい亭主ですが、トロくらいなら買いに行きますよ」って。そして、実際に2切れほど口にされました。これは「愛と思いやりの現実的な表現」だと思います。「食べさせてあげたい」という愛と思いやりがあるから、ただのダジャレじゃないユーモアとなる。


患者のユーモアに助けられることもあります。あるとき、「先生、おかげさまで順調に弱っています」と言われました。私は「いたわられた」と思いましたね。患者さんにしてみれば、自分もつらいし、まわりもつらい。そういう重たい空気をなんとかしたい、という気持ちが伝わってきました。


イギリスの末期がんのおばあさんが「あと2、3日だと思います」って、ご自分で言われて。医師は「天国にいかれるのですね」といったら、「天国でも地獄でもどっちでもいいんです。どちらにいってもきっとたくさん友達がいると思うんです」って。これもすごいですよね。


患者さんにもよりますが、愛と思いやりのあるユーモアを提供できると、患者さんのユーモア心が触発されるんです。


こんな例もありました。末期の肝臓がんを患っている中年の女性が「あっさりしたものしか食べられなくなりました」と。「それはつらいですね。お元気なころはなにが好きだったんですか」と聞いたら「お金」というんですよ。そこでみんな爆笑したんです。後日、その患者は「家族も看護師つらそうにしているから、みんなで笑いたいと思ったんです」とおっしゃっていました。


みんな、やっぱり笑いたいんですよ。ホスピスの現場にたずさわる人たちも。いや、むしろそういう現場にいる人間だから、ユーモアのセンスは大事したいと思うのです。


かしわぎ・てつお

1965年、大阪大学医学部卒業。大阪大学人間科学部教授や金城学院大学学長を経て、現職。著書に『ベッドサイドのユーモア学』(メディカ出版)など。