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「村上迷」と「村上狂」 台湾にいる2種類の村上春樹ファン

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王聰威編集長=太田啓之撮影

「聯合文学」では、2009年10月号の「村上春樹 1Q84の後 ノーベル賞の前」、10年12月号の「ノルウェイの森・映画化完全保存版」など、これまで何度も村上春樹特集を組んできました。理由はもちろん、人気があって安定した売り上げを見込めるからです。最近も「ノルウェイの森」のヒロインの一人、緑をイメージした少女を表紙にして、村上春樹や太宰治、台湾の作家の作品を紹介する文学入門の特集を行いました。

日本では、村上春樹ファンのことを「ハルキスト」と呼ぶそうですが、台湾には「村上迷」、「村上狂」という言葉があります。「ノルウェイの森」を読んで好きになったという一般のファンが「村上迷」、それ以前の作品から村上を体系的に読んでいるマニアックなファンが「村上狂」という使い分けです。

私自身はもちろん、「村上狂」です。「ノルウェイの森」がブームになる以前から、「風の歌を聴け」や「羊をめぐる冒険」などの初期作品を読み込み、友人たちにも紹介していました。一般のファンと同列に扱われるのは、プライドが許しません(笑)。

文芸雑誌「聯合文学」の表紙

日本の有名な文芸評論家に、村上作品が「結婚詐欺の文学」などと批判されていることは承知しています。実は台湾でも、一部の評論家からは似たような声があります。私が大学院で文学を学んでいた時にも、「村上の文学は大衆小説のようなもので、純文学として評価するにはあたらない」と指摘する教官がいました。ただ、最近は、台湾でも「何が文学か」ということを広く捉えるようになりました。村上作品への批判の声は、他の作家と比べてもかなり少ない方だと思います。

村上は今でも、台湾で最も人気のある作家の一人ですが、ブームのピークは、1990年~2000年にかけてだったと思います。それは、村上作品が当時の台湾の若者たちにとって、単なる文学ではなく、生活スタイルのモデルとして受け止められた、ということと大きく関わっています。

私自身を含め、今の40~50歳代の人々が若かった頃には、村上作品は海外の進んだライフスタイルを知るための数少ない情報源でした。ジャズ、ロック、イタリア料理、ウィスキーの生産地への旅行記、さらにはジョギングやマラソンについての本など、当時の台湾の人々がほとんど知らなかった生活情報にあふれていた。村上作品の雰囲気がもともと日本的、アジア的ではなかった、ということも、人々のあこがれをかき立てたのだと思います。

王聰威編集長=太田啓之撮影

一方、より若い世代はインターネットを通じて、自分の好みにあった情報を簡単に得ることができる。わざわざ村上作品に頼る必要はありません。10代、20代の村上ファンは今でもいますし、私たちもそういう世代を意識した雑誌づくりを心がけています。だけど、「村上狂」と呼べるほどの人は明らかに減っている。

私は文芸雑誌の編集長として、時々、村上作品について講演したりスピーチをしたりする機会があります。最近の聴衆の中には、村上作品を一冊しか読んでいないか、あるいは全然読んでいない人も珍しくありません。以前は何冊も読んでいる人が大半でした。

村上自身、すでに60歳代の後半です。若い世代の感性とのずれが出てくることは、ある程度やむを得ないのではないでしょうか。