公益財団法人オイスカ(本部・東京都杉並区)は、日本発祥の国際NGOとして、アジア・太平洋地域を中心に人と自然が調和して生きる社会を目指して活動している。その一つが、ミャンマー内陸農村部での人材育成・地域開発だ。1960年代から周辺諸国で活動を続けてきたオイスカは1997年、現地にミャンマー政府と共同で農村開発研修センターを立ち上げ、農村のリーダーを担う人材の育成と地域の農村開発協力に取り組んできた。2017年8月には2カ所目となる農業指導者研修センターも立ち上がっている。
現地で7年半にわたって活動した経験を持つオイスカ海外事業部の藤井啓介・海外開発協力担当課長はこう語る。
「ミャンマーの中央乾燥地域は雨が少ない上に、土壌がやせ、灌漑設備などのインフラも整備されていません。『雨が降ったら種をまく』というような天候次第の農業をしているところが今でも多く、降り方も不規則でなかなか安定した生産ができません。現地の産業は主食の米づくりや油脂作物の栽培が中心ですが、センターでは米ができないような厳しい環境でも生活ができるよう、補完的な技術の指導を行っています。たとえば、家畜の飼い方や野菜・果樹の育て方、食品加工の技術などです」
現地は暑季には45度を超える日もあるという厳しい暑さに加え、年間降水量は日本の年平均の3分の1以下の500ミリほど。一方で、雨を想定したインフラ作りがなされていないため急な大雨の際は水害に見舞われることもあるという。厳しい環境の中、研修センターに派遣された日本人指導員は、ミャンマーの人々とともに試行錯誤を重ねながら、現地に合った農業技術を組み入れてきた。
たとえば、ダムから水を引いてくる灌漑。日本ならばコンクリートで固めた農業用水路が思い浮かぶが、研修センターでは軽くて耐久性もある塩化ビニル樹脂製のパイプを地下に埋める方法をとった。
「樹脂製のパイプは安価で扱いやすく、現地でも手に入ります。日本から機械や物資を持っていって立派な設備をつくっても、壊れたときに現地の人が直せなければ意味がない。日本人が一方的に指導するのではなく、お互いにアイデアを出し合い意見交換しながら、現地にとってベストな方法を考えるようにしています」(藤井課長)
各研修センターではミャンマー全国の農家から毎年男女10人ずつ計20人の若者を受け入れ、約1年かけて農村での生活に役立つ様々な技術を教え込む。
同時に研修生は宿舎で共同生活をしながら、リーダーとしての姿勢や考え方も学んでいく。
「朝は決まった時間に起きて点呼や体操をするなど、生活の規律を身につけることも重視しています。また、南北に長いミャンマーは国内でも様々な気候条件や社会の違いがあり、単に学んだ技術を実践するのではうまくいかないことが多い。地域に合わせて自ら工夫し、社会課題を乗り越えられる人材が育っていくことを目指しています」
研修生の中で特に優秀な若者は日本の研修センターに派遣され、約1年間、農業、畜産、食品加工技術などの研修を通じ、将来地域の発展に貢献できるリーダーの資質やスキルを磨く。同じように他のアジア諸国の研修センターから招かれた若者と共同生活で切磋琢磨することで、各国の若者同士の連帯も生まれていく。
こうして、試行錯誤を続けながら多くのことを学んだ若者たちは、やがて各地に散って、地域の発展を担っていく。
「現地の若者たちは親や地域を非常に大事にし、『ふるさとを良くしたい』と真剣に思っているんです。日本人が忘れているような純粋さがあって、ハッとさせられることも多いです」(藤井課長)
研修センター設立当初の指導員は日本人のみだったが、年を重ねるうちに卒業生の一部も指導員となってセンターに残り、今ではミャンマー人の指導員を中心に活動している。オイスカが育てた人材が、民主化したばかりの新しい国づくりにどんな貢献をしていくのか。挑戦はまだまだ続いていく。
INTERVIEW
公益財団法人オイスカ/1961年に設立された国際協力NGO「オイスカインターナショナル」の理念を元に、具体的な活動の推進機関として1969年に設立。主にアジア・太平洋地域で農村開発や、環境保全活動、人材育成などに取り組んでいる。日本国内でも農林業体験やセミナー開催などの活動を行っている。http://www.oisca.org
提供:三菱商事