Review01 大久保清朗 評価:★★★▲(満点は星4つ、▲は半分)
画面から伝わる体温と鼓動
まぶしい陽射しが子供たちの汗ばんだ肌を輝かせる。つばを飛ばしあったり、空き家を放火したりと蛮行を繰り広げる彼らは、フロリダのモーテルを住みかとする小さな獣たちのようである。豊かさから遠く離れた場所で生きる彼らの鼓動に、映画はそっと手を当てる。画面から体温が伝わってくる。
前作『タンジェリン』で、ショーン・ベイカーは、ロサンゼルスに暮らすトランスジェンダーの娼婦たちの波瀾(はらん)万丈な一日を、結末に向かって一直線に描いた。対して住所不定の母娘を描いた本作で、挿話は緩やかにより合わされ、一見脈絡がない。アイスや、通り雨や、夜の花火などとともに、彼女らのひと夏の幸福感は永遠に終わらないのではないかと錯覚させる。だがそれはあっけなく断ち切られる。
クライマックスで、友だちのもとを訪れる少女を演じるブルックリン・K・プリンスが胸を打つ。彼女の目から流れる大粒の涙。そこには夏の終わりと夢からの目覚めの悲しみが凝縮している。そして映画の始原にあったであろう、映画を撮ることの生々しい息づかいにあふれているのである。
モーテルの管理人を演じるウィレム・デフォーの存在感が、本作に確かな風格を添えている。
Review02 クラウディア・プイグ 評価:★★★★(満点は星4つ)
人間の立ち直る力、美しく
破綻の一歩手前で生きる人たちの日常に焦点を当てた作品だ。6歳の少女ムーニーのことが最初からずっと心配で、目が離せない。少女を演じるブルックリン・K・プリンスの演技はとても自然で表情が豊か。それだけに物語は悲痛。過酷な状況を受け入れる少女を見ると、どうか大きくなってもあふれる熱意をなくさないで欲しいと願う。
ショーン・ベイカー監督が描く世界はパステルカラーのファンタジーのようだが、暗い悲劇の面をまとう。舞台となるモーテルは、ディズニー・ワールドのすぐそばにあり、「地球で最も幸せな場所」とうたっているが、逆だろう。それに気づかないでいるムーニーとその友だちの日々は冒険に満ちている。アレクシス・サベの撮影技法も見事で、美しさはもっともなさそうな場所でよく見つかることを証明している。
ウィレム・デフォー演じるモーテルの管理人ボビーは、並外れた忍耐力や人間味があって、モーテルで暮らす子どもたちにとっては父親的な存在。その演技は驚くほど控えめで、優しさに満ちている。今年のアカデミー助演男優賞は、彼が受賞すべきだった。
舞台は過酷だが、人生を肯定する物語。美しく描かれているのは、貧困と人間の立ち直る力だ。