オイスカはアジア・太平洋地域を中心に活動する日本発祥のNGO。1991年にフィリピンから始まった「『子供の森』計画」は、27年目を迎える現在までに、36の国と地域で累計5000の学校が活動に加わってきた。
子どもたちを中心とした活動を始めたのはなぜだったのか。オイスカ海外事業部の諸江葉月さんはこう語る。
「オイスカは80年代からアジア・太平洋を中心とした各地で地域住民による植林活動に取り組んでいます。しかし、森林保全のプロジェクトは、地域の方々の理解を得るのが難しく、なかなか活動が定着しないという問題がありました。苗木はお金になるので、植えたそばから盗まれてしまうこともあったそうです。ところが、自分の子どもたちが苦労して植え、大切にしている苗木となると、大人たちも一緒に守っていく意識が芽生えてくる。草刈りの作業の日にお母さんたちが炊き出しに来てくれるなど、少しずつ、地域をあげて応援するムードが生まれてきています」
活動は学校単位で、中心となって参加するのは日本でいうところの小学校高学年から中学生くらいの子どもたち。子どもたちが学校に入学する際に1人1本ずつ苗木を植えて、その木を卒業するまで責任を持って育てていくなどの活動がある。
苗木が小さい時期には、乾期には水をあげないと枯れてしまったり、家畜が入ってきて食べられてしまったりする。子どもたちが交代で近くの川からバケツで水をくんできて水やりをし、家畜が入らないように竹の囲いを地域の大人たちと一緒につくるなど、様々なケアが必要だ。そうやって手塩にかけて育てた木々が、卒業後は後輩たちに受け継がれ、やがて森になっていく。
森が育ってくるにしたがって、地域全体にも「変化」が起きてくる。
木が育つと落ち葉がたまり、微生物がそれを分解して土が栄養豊かになり、下草も生えてくる。そうした循環によって生態系が豊かになった森では、地域の人々が巣箱を置いて養蜂を始めたり、樹間にコーヒーの苗木を植えたりと、自然の恵みを実際に受けられるようになるという。
また、森が育つと土地の保水力が上がり、土砂崩れなどの自然災害の被害をやわらげる効果もある。
「1年に1回しかお米がとれなかった田んぼが、近くに森が戻ってくることで水源が豊かになり、年に2回とれるようになった、という例も報告されています。活動開始から年月が経った今、多くの地域で大人たちもこうした森づくりの恩恵に気づき、活動に積極的になっていくなど、次第によい循環が生まれてきています」(諸江さん)
近年は「持続可能な社会づくり」に向けた環境教育のニーズも高まっているという。雨期の間に植林を行い、乾期には苗木の管理に加えて教育活動を行う機会も増えている。テーマは有機農業、ゴミの分別、リサイクル、生物多様性セミナーなど。教室での授業にとどまらず、実践しながら子どもたちに学んでもらっている。
こうした活動は、日本を中心とした個人支援者や企業などから集まった寄付金によって支えられている。オイスカが力を入れているのは、オイスカによる支援期間が終わった後も、地域の人々が自主的に森の管理を継続していけるよう地域に根差したサステナブルな活動へとつなげることだ。
「樹木から種を採取してそこから苗木をつくる方法を教えるなど、新たに苗木を買わなくても自分たちで森を広げていけるように工夫しています。学校の先生たちに対する指導者養成セミナーにも力を入れています。活動を通して、先生や地域の人たちの中にも、ふるさとを自分たちで守っていこうという気持ちがはぐくまれ、各地で地域に根差した取り組みが広がっていくことが私たちの願いです」(諸江さん)
森を育てるだけでなく、人を育てる。地道な活動が、豊かな実りを生み出しつつある。
INTERVIEW
公益財団法人オイスカ/1961年に設立された国際協力NGO「オイスカインターナショナル」の理念を元に、具体的な活動の推進機関として1969年に設立。主にアジア・太平洋地域で農村開発や、環境保全活動、人材育成などに取り組んでいる。日本国内でも農林業体験やセミナー開催などの活動を行っている。http://www.oisca.org
提供:三菱商事