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経済成長の陰にひそむ外国人労働者たちに目を

World Outlook いまを読む 更新日: 公開日:

シンガポールには、労災によるけがや低賃金に苦しむ多くの外国人労働者がいる。彼らの苦しみのうえに成り立つ経済成長とは何なのか。日本も含め、外国人労働者を受け入れる国々は、立ち止まって考えてほしい。

シンガポールは、その急速な発展を外国人労働者に頼ってきた。外国人労働者は今年6月時点で134万人と、人口の4分の1を占める。この5年間では、30万人近く増えた。

このうち98万人は、Work Permit(WP)という滞在資格で入国した肉体労働者や家事労働者だ。内訳をみると、建設業32万人、家事労働22万人、残りは製造業や港湾、飲食店などで働いている。

私が働いているNGOのTWC2は2004年の設立時、女性の家事労働者の支援をしていた。男性労働者にも支援が必要だと考え、08年に外国人が多く集まるインド人街で給食事業を始めた。このプロジェクトでは、朝と夕、週11回の食事を提供する。利用者は、夕食だと毎回約300人。ほとんどは建設現場や工場などで仕事中に事故にあい、働けなくなったバングラデシュ人やインド人たちだ

低賃金と深刻な住宅問題

プロジェクトを通じてわかった問題点がいくつかある。まず、彼らの賃金が非常に低いことだ。昨年の調査では、大部分がシンガポールでの貧困ライン以下の月収平均800シンガポールドル(約6万8000円)台だった。シンガポールには最低賃金制度がないが、そのなかでも同じ職種のシンガポール人よりはるかに賃金は低い。

外国人労働者は入国時に、母国やシンガポールにいる仲介人に平均5000シンガポールドル(約40万円)超の、彼らにとって高額な仲介料を払っている。いくらも働かないうちに事故にあい、母国への仕送りどころか、仲介料のための借金が返せない人もいる。

住宅は大きな問題だ。多くの労働者は会社が用意した郊外の宿泊施設で暮らす。施設は整っているが、都心の建設現場までの移動も含めて1日に拘束16時間、睡眠5時間もめずらしくない。事故で働けなくなり、宿舎を追い出されるなどした人は、インド人街周辺の宿で狭い空間に30〜40人がすし詰めで暮らしている。

労災にあうと保険金が支払われるが、それまでに数カ月、時には何年もかかることがある。その間、労働者たちは無収入で放っておかれる。

実は、外国人労働者を守るシンガポールの法制度自体は、それなりに整っている。問題は法律を実際に適用しているかどうかだ。

不法行為に、政府の監視の目は行き届いていない。給料の不払いを労働者が証明しようとしても、現金払いなので証明しにくい。私たちは、給与明細書の交付の義務づけなどを政府に提案し続けているが、現時点では実現していない。政府は経営者寄りとみられてもしかたない。

「見えない存在」ではなく



外国人が働く職場は、3D(危険、汚い、きつい)と呼ばれ、シンガポール人がしたがらない仕事ばかりだ。多くはパネルに囲われた建設現場や港の倉庫などで働いている。宿舎は郊外にあるので、シンガポール人が外国人労働者の姿を見ることは、実はあまりない。

シンガポール人にとって、彼らは「見えない存在」なのだ。だから、彼らを取り巻く問題に関心を持つ人も少ない。

経営者が外国人を使うのはコストが安いからだ。けがをして働けなくなっても、労働者は入れ替えればいいと考えている。米国の私の地元では、少ない人数で時間がかかっても、主に米国人がビルを建てている。日本もそうでしょう?

多くの外国人に3D労働を担わせ、彼らの弱みにつけ込んで低賃金、短期間でビルを建てようとするのは、人間性に反することではないだろうか。シンガポール政府自身、さらに高付加価値の経済をめざそうと、外国人労働者の数を抑制しはじめた。低賃金の外国人労働者に頼るのはもう限界だと、政府も気づいているのだ。

私は、ネオンサインを輝かせるファッショナブルな商業施設や高層ビルを見るたび、これらの建物が何人の外国人に苦しみを与え、人生を台無しにし、家庭を壊したかを考えてしまう。

日本が今後、人手不足などを理由に外国人労働者を増やそうとするなら、こういった問題をあらかじめよく考え、対策をとることを強くのぞみたい。