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安定失う世界金融市場、アジア諸国の備えは? 中国、ベトナム、インドネシア

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北京の証券会社で2月6日、株価急落を示すボードを見つめる男性。米株式市場の急落は、たちどころにアジアへも波及した=AFP時事

「適温経済」ともてはやされていた金融市場が変調を来し始めた。経済基盤の弱い新興国が思わぬ打撃を受ける懸念も出ている。求められる備えは何か。世界銀行で、東アジア・大洋州地域への融資に責任を持つビクトリア・クワクワ副総裁に聞いた。

ビクトリア・クワクワ・世界銀行副総裁に聞く

――世界の金融市場が安定感を失っています。米国を起点に金利上昇のテンポが速まれば、新興国で資金流出が起きたり、銀行経営が打撃を受けたりすることも考えられます。この状況をどうみていますか。

インタビューに答える世界銀行のビクトリア・クワクワ副総裁=東京都内、青山直篤撮影

この地域の成長は底堅く、過度に恐れる必要はありません。米国には利上げの影響をそのつどそのつど慎重に見極めながら金融政策を進めてもらう必要がありますが、その点は大丈夫でしょう。まだ警報ベルを鳴らす段階ではないということです。ただ、リスクを認識し、各国が改革を進める必要があるのは確かです。

中国には通常の銀行システムの外側で貸し出しを行い、規制を受けにくい「影の銀行」があります。ベトナムなどは財政も悪化傾向で、このままではいざというとき、財政出動でショックを和らげる力が弱まります。各国とも財政や金融システムの改革を通じ、金利上昇であれ何であれ、ショックへの耐性を高めておく必要があります。

――トランプ政権の政策の影響はどう考えますか。

米国は保護主義の傾向を強めており、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したことも痛手でした。TPPの参加国は、巨大な米国市場を何よりの成果と見ていたからです。東アジア・太平洋地域の新興国は貿易に頼る面が大きく、成長を加速させられるかどうかは自由な市場統合が進むか否かにかかっています。米国不在で影響力は落ちますが、米国を除く参加11カ国によるTPP発効も重要になるでしょう。

2017年1月、環太平洋経済連携協定(TPP)からの正式離脱に関する大統領令に署名したトランプ大統領=ロイター

――トランプ政権の法人減税による新興国からの資金流出や、北朝鮮情勢のリスクはどうでしょうか。

企業がアジアに投資する理由はさまざまで、税制による誘因は一つの要素に過ぎず、大きな資金流出にはつながらないとみています。北朝鮮情勢で地域の不安定さが増し、各国の政策決定に当たって国家主義的な要素が影響力を高めるようになるとすれば、問題になり得ます。ただ、いまのところは世界の貿易に縮小傾向はなく、その点は心強いです。

――この地域の「貯蓄過剰」が世界経済の成長を足踏みさせてきたと指摘する論者もいます。

「貯蓄過剰」は、裏返してみると、本来あるべき水準に比べて投資が少ないということです。結果的に、筋のよくない投資案件にお金が回って不良債権化する危険を抑えてきたというプラスの面もありました。

ただ、やはり、力強い成長のためには質の良い投資が増えなければならない。この地域には十分なお金があるのに活用されず、だぶついているのも確かです。過剰な貯蓄を有望な投資へと振り向けていく必要があり、世銀もそのための仕組みづくりに注力してきました。

インタビューに答える世界銀行のビクトリア・クワクワ副総裁=東京都内、青山直篤撮影

――具体的にはどのようなことですか。

過剰な貯蓄が投資に回るのを妨げてきたのは、投資計画の甘さや、ビジネス環境が未成熟なことが原因でした。政府による財政出動だけでは不十分で、民間の資金をより積極的に活用できるようにすることが大切です。世銀は投資計画にどのようなリスクがあるのかについての診断を助け、政府などの制度改革を促してきました。

最近の好例がインドネシアでの地熱発電の開発です。事業のリスクが大きく、民間企業の参入が難しかったのですが、公的資金を呼び水として使い、お金が回る制度を整えています。探査が成功し、ビジネスとして成り立つことがわかった段階で返済すればいい。企業が政府とリスクを分かち合う仕組みです。

――民主主義が確立していない国もあり、経済成長に伴う格差の拡大などの課題の解決が難しくなりませんか。

確かにこの地域には、金利上昇や気候変動といったショックが起こると貧困に転げ落ちてしまう人がいます。それでも、経済的成長で多くの人が力を得たということは間違いありません。市民の政治的な力の獲得はそれに追いついていないかもしれませんが、政府などに説明責任を求める声は強まっています。その声にきちんと応え、民主的な改革を進めていけるよう、支える必要があります。

(聞き手・国際報道部 青山直篤)

ビクトリア・クワクワ

Victoria Kwakwa(世界銀行東アジア・大洋州地域総局担当副総裁)

1989年、世界銀行入行。ルワンダ担当マネジャーやベトナム担当局長を経て、2016年4月より現職。紛争や貧困の分析にも積極的に取り組んできた。カナダのクイーンズ大学で経済学博士号を取得。ガーナ国籍。