1. HOME
  2. World Now
  3. 極限スポーツの祭典「Xゲームズ」

極限スポーツの祭典「Xゲームズ」

Insight 世界のスポーツ 更新日: 公開日:



1月中旬、スノーボードでの華麗なジャンプの映像に合わせた日本語のテレビCM1が全米に流れた。英語で字幕が出る。

「不可能を可能にする、たった1人になるために」

コロラド州アスペンで1月23〜26日に開かれた高額賞金大会「Xゲームズ」の宣伝だ。登場していたのは、スノーボードのソチ五輪代表でもある平野歩夢(15)。Xゲームズでも注目選手の一人だった。昨年の大会では14歳ながらスーパーパイプで世界王者ショーン・ホワイト(米)に次ぐ2位に入り、世界中を驚かせた。今大会はけがで欠場したが、その技能は世界で評価されている。
「Xゲームズ」は米国のスポーツ専門局ESPNが主催する。スケートボードなど、五輪種目にはないが若者になじみのあるスポーツを中心に技を競う。1995年から夏季大会、97年からは冬季大会が始まり、現在は夏と冬の年2回開催が基本だ。PRのため米国外で開くこともある。夏は期間中、20万人超の観客が集まり、視聴者が3700万人にのぼることもある。今回の冬季大会の賞金総額は96万1300ドル(約1億円)だった。

最大の売りは、人間業とは思えないほどの、映像に映える華麗さだ。選手は新しいトリック(技)を次々と披露する。かつてはスケートボードのトニー・ホーク(米)、いまはホワイトと、世界的なヒーローを生んでいる。

宙舞う姿、華麗な映像

日本では地上波での放送が少なく知名度は低いが、日本人の活躍も少なくない。昨年4月のブラジル大会では、オートバイのフリースタイルモトクロスで東野貴行(28)が優勝した。18歳でモトクロスレースから転向。「Xゲームズに出る」と覚悟を決め、言葉も分からぬまま21歳で渡米した。ジャンプしながら後方宙返りし、ハンドルから完全に手を離しての技をいとも簡単に決める。

「出来たぞ、という子どものようなうれしさを味わえる。見た目が派手で技が『すごい』ということがわかりやすいから、日本でもこれから絶対に人気が出る」と語る。

急速に人気が高まっている背景には、若者文化との密接な関係も大きい。 大会がターゲットにしているのは購買意欲の高い10代半ばから30代半ばまでの男性だ。視聴者や大会来場者は、選手の華麗な技だけでなく、服装や競技の合間に口にする飲み物なども含めた「ライフスタイル」に注目する。

「ELEMENT」「VOLCOM」「DC」などスケートボード、スノーボードのブランドは、人気選手のスポンサーとなっている。個人競技である特性上、Xゲームズでは、1人の演技に数分間スポットが当てられる。スポンサーからすれば効果的な露出が期待できるのだ。大会で着こなすウエアは、従来のスポーツブランドにはないラフなデザインが多く、普段着としても注目されている。

若者ファッションをリード

最近人気の「エナジードリンク」と呼ばれる栄養飲料のメーカーも大きなスポンサーだ。多くが炭酸入りで、疲労時や気分を盛り上げたい時に飲むものとして定着している。大会では業界トップ「レッドブル」や「モンスター」「ロックスター」のロゴが入ったヘルメットやユニホームを身にまとう選手が目につく。競技終了後、契約しているドリンクをカメラの前で飲み干すパフォーマンスをすることもある。

2011年から大会スポンサーとなっていたレッドブルは、競技との相乗効果で若者に定着。12年の売上高は全世界で約65億ドル(約6700億円)に達した。

もともと五輪種目以外から始まったはずが、冬季五輪では1998年長野大会からスノーボードが、夏季はBMX(自転車モトクロス)が2008年北京大会から採用され、「極限スポーツ」の存在感が増している。

選手にとっても、すでに五輪とセットの位置づけだ。ソチ五輪から種目に入ったフリースタイルスキーのハーフパイプ(HP)女子の小野塚彩那(25)=石打丸山スキークラブ=は「まずはXゲームズで成績を残したい。そこでがんばれれば五輪でも成績がついてくる」。今大会は女子スーパーパイプで4位になった。