アマゾンは、何もかもが濃い。
私は旅先ではまず市場をのぞく。人々の息づかいや風土を生のまま感じられるからだ。アマゾンの中心ブラジル・マナウスの市場に足を踏み入れたとたん、世界のどの市場とも違う、生々しいにおいが鼻を突いた。
市場の一角に、「JAPONESA」という文字の入った看板を見つけた。見たことのない野菜やハーブが並ぶ。切り盛りする日系2世のアンジェラ・ヒトミ・タケダ(51)は、サトウキビ農場で働いた末に店を構えた両親から、ここの経営を継いだ。
「ジャンブー」という野菜が主力だ。「これ、かんでみてください」。彼女が差し出した小さいイチゴのようなジャンブーの花をひとかみした瞬間、口の中を経験したことのない感覚が襲う。歯の治療の麻酔で舌がまひした時のような、不思議なしびれだ。「このジャンブーでつくるタカカという料理が最高においしい。日本のみそ汁のようですよ」
思わず、「酸っぱ!」
オススメだという屋台「POINT DO TACACA」に向かった。タカカのために人が集う場所、というほどの意味だ。店名の通り客足が絶えない。タカカはフルーツの殻でできた、ひょうたんのような器に注がれる。一杯17レアル(約600円)。早速いただいた。
濃い。何もかもが濃い。
最初に感じるのは強烈な酸っぱさ。マンジョッカイモの液を煮詰めて発酵させて作ったスープによるものだ。思わず「酸っぱ!」と声が出た。干しエビから出た塩分のせいだろう、すさまじくしょっぱくもある。そこへジャンブーのしびれが舌に追い打ちをかける。
正直に告白しよう。まずい、と思った。しかし、店の人たちがずっとこちらの反応をうかがっている。ギブアップするわけにもいかず、うまそうに食べるふりを続けた。するとどうだろう。あれ? 結構いける。酸味と塩味、しびれの協奏曲。だんだん、どれかひとつ欠けても物足りない気がして、10分ほどで完食した。客のパウロ・チアゴ・ヴァスカス(36)は40キロ離れた家から週に1度は来る。「禁断症状ですね」
店主のイヴェチ・リマ・ジョージ(58)は30年前、この店でタカカを作り始めた。なじみ客は3000人以上。「最初に味見してもらう。エビもジャンブーもケチらない。誠実に商売をしてきたので、お客さんが来てくれるんだと思う」(江渕崇)