ホンオとはエイの一種のガンギエイ。それを発酵させたものがホンオフェだ。口に放り込んだが、ぜんぜん臭くない。普通にうまい。「これは1カ月熟成もの。3カ月ものだと、もっと臭い。でも最近は地元の人もあまり臭くないのを好むんです」。ホンオ卸売商のイ・ジョンヒは言った。
韓国に詳しい同僚が「ホンオの本場は栄山江(ヨンサンガン)という川の上流」と話していたのを思い出し、川を40キロ余りさかのぼり、羅州(ナジュ)に着いた。
ホンオは海のもの。なのに、なぜここが有名なのだろう? 地元のガイド、チョン・フンファンが説明してくれた。「14世紀ごろ、木浦の沖にある島の住民が倭寇を逃れ、船に食料を積んで川の上流へ移り住んできた。移動の途中、大半の食べ物は腐ったけど、ホンオだけは熟成し、おいしく食べられたのです」
舌がしびれ、涙もこみ上げ
川の南岸に、ホンオの店が並ぶ「ホンオ通り」を見つけ、その一つに入った。箸で一切れつまみ、顔に10センチまで近づけたところで突然、「それ」は来た。
強烈なアンモニア臭。「ふわりと広がる香り」などという、グルメ記事の表現は似合わない。直線的で、鋭い。失礼を承知で率直に書くと、何日も掃除していないトイレのような臭気が、鼻の奥まで真っすぐ突き刺さる。
覚悟を決め、厚さ5ミリくらいの一切れを、息を止めて口に放り込んだ。身がしっかり詰まり、ねっちりとした食感。かむと、白身魚をうんと濃くしたようなうまみがにじみ出てきた。これはおいしいかも……。
次の瞬間、強烈な臭いが口の中に充満した。舌がピリピリとしびれ、涙までこみ上げてくる。慌てて、マッコリ(濁り酒)で飲み下した。
店のアジュンマ(おばさん)が「こうすると食べやすいよ」と実演してくれたのは、よく発酵したキムチと蒸した豚肉を重ねて、のりで巻いて食べる方法。確かに臭いがマシになり、濃厚なうまみを味わえる。
ただ、2人で食べるような大皿に1人で挑戦したのは失敗だった。
宿に戻って眠ろうとしても、胃の奥底から、あの強烈なアンモニア臭がこみ上げてくるような気がした。