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日銀の政策委員会は金融の専門家が就くべき 竹中平蔵氏に聞く

World Now 更新日: 公開日:
日本銀行提供

竹中平蔵・慶応大名誉教授は、黒田日銀総裁の続投を支持し、次の5年間も日銀は2%の物価目標を掲げ続けるべきだと訴える。一方で、物価目標の達成に向けて、政府には構造改革や規制改革を加速させるよう注文もつけた。

異次元緩和は成功、消費税の引き上げが物価目標の妨げに

―黒田総裁の5年近くの金融政策をどう評価していますか。
「異次元緩和はかなり成功した。物価目標の2%とは、物価上昇率が1~3%の間に達する状態を目指すという意味だ。14年4月に1%台に達したので、成功と言えるのではないか。だが、14年に消費税を引き上げたことで家計に負担をもたらし、結果的に物価上昇率はゼロをやや上回る程度まで下がってしまった」

―消費税の引き上げが物価目標の妨げになったという考えですか。
「そうだ。話題になったシムズ理論は真っ当な政策だと思う。その主張は『物価目標が達成されるまでは増税してはいけない』『日本の財政赤字はそれほど大きくはない』という2点に集約されるだろう。つまり、財政再建はしなければならないが、性急に増税してやらなければならないわけではないということだ」

―黒田総裁は、消費税引き上げや財政再建に肯定的と伝えられています。
「この点については黒田総裁に賛成できない。一方で、私はリアリストだから、財政支出はすでに十分膨らんでいて、これ以上増やせば財政規律のたがは緩むと思っている。現実的な政策としては、財政面から物価を押し上げる政策はとらないにしても、増税などで物価が下がる圧力はかけないことだと思う」「いま以上の歳出拡大は現実的にはできないし、やらなくてよい」

政府の規制改革のスピードは極めて遅かった

―昨年12月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比0.9%の上昇でしたが、今後2%に向けて物価は上昇していくのでしょうか。
「金融緩和だけでは無理だ。政府が構造改革を進めて、生産性を上げたり実物の投資を増やしたりしていくことが必要だ。日銀は政府が構造改革を進めるまでの間、辛抱強く今の異次元緩和を続けていくしかない」

―異次元緩和によって財政規律が緩んだとの批判もあります。
「いま金融緩和をやめたら経済は大変なことになる。異次元緩和は当初は短期決戦の予定で、人々の期待に働きかけて一気にデフレを克服するという道筋だった。それに失敗したのは認めるべきだ。ただ、私は黒田総裁に同情的だ。政府がやるべき規制改革のスピードが極めて遅かった」

―2%の目標目標は今後も掲げ続けるべきですか。
「2%の物価目標は変えない方がいい。しかし、日銀はいつまでも年80兆円も国債を買い続けることはできないから、実際は国債の購入量を少しずつ減らしている。その間に政府に構造改革を進めてもらうのが、物価目標達成の唯一の道筋ではないか」

―次の日銀総裁がとれる政策は、限られています。
「大きく今の金融政策の枠組みを変えるのは難しい。私は黒田総裁は続投したら良いと思う。短期決戦には失敗したが、それは黒田総裁だけの責任ではない」

―異次元緩和で円安・株高が進んだことで、必要な構造改革が先送りになっているという見方はできませんか。
「『株価が上がっているのだから良いではないか』という雰囲気は確かにある。政権に頑張ってもらうしかない」

―景気が良い今のうちに金融政策を正常化しないと、不況時に景気刺激策がとれなくなるとの見方があります。
「デフレを克服するために他にどんな選択肢があるのか。現実的に、いま金融を引き締めたら経済への影響はとても大きい。デフレ克服は永遠に遠のく」

政策委員会は金融の専門家が就くべきだ

―金融政策を決める日銀の政策委員会のメンバーが、リフレ派に近い考え方で占められているとの批判についてはどう考えますか。
「デフレこそが経済停滞の元凶で、その最も大きな要因は貨幣的な現象だというリフレ派の立場に私は賛成だ。しかし、議論が同質的になっているのは問題だと思う。日銀の金融政策が政府から独立しているのは専門性が必要なためだ。審議委員は本来、金融政策の専門家が就くべきだが、実態は名誉職の位置づけになっている。専門家同士が賛否両論ある意見をたたかわせる場にすべきだ」

―制度面の問題でしょうか。
「長く日銀総裁は、旧大蔵省と日銀のたすき掛け人事で決まるなど、歴史的にその存在が確立されてこなかった面がある。(小泉政権時代に)私は大臣職に就いたが、政府内での日銀総裁の位置づけの低さに驚かされた。位置づけは会議で座る席に表れるが、経済財政諮問会議や月例経済報告の際、日銀総裁の席は一番端だった。国会答弁に呼ばれた際も、日銀総裁は閣僚席ではなく事務方と同じ席だ。米国では『経済大統領』と呼ばれている米連邦準備制度(FRB)議長の位置づけとはかなり対照的だ」


竹中 平蔵(たけなか・へいぞう)1951年生まれ。慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授。博士(経済学)。一橋大学卒業。ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て01年、小泉内閣の経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。現在、公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、パソナグループ取締役会長、オリックス社外取締役、SBIホールディングス社外取締役などを兼職。