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変わる消費の形 (1) テクノロジーが可能にする「共有社会」

ITが創る未来のカタチ 更新日: 公開日:
米国ではこの10年ほどで、カーシェアリングが一気に普及した=2006年10月、ワシントン郊外

インターネット普及以前、僕らは必要なものをすべて自分たちで購入していました。レンタルで済ませるものといえば、結婚式で着るタキシードやウェディングドレス、あるいは旅行先で借りるレンタカーくらいだったのです。


そんな価値観を信じて疑わなかった僕の家は、モノで溢れています。乗用車2台にバイク1台、1年に1回も使わない工具各種、キャンプ用品、20年以上着ていないスーツなどなど……。自分でも何がどこにあるのかよくわかっていません。

所有は古い?

日本ではタクシー業界の反発が大きいUBERだが、地方で住民の足として利用する例が出てきた=2016年12月、京都府京丹後市


ところがそんな僕の生活も、ここ数年で大きく様変わりしつつあります。最初のキッカケはライドシェアサービス、ウーバー(UBER)の利用でした。当初僕は、赤の他人の車に乗ることに対する漠然とした不安感と、頻繁に目にするネガティブな報道とが相まって、利用をためらっていました。しかし、一度試してみたところ、タクシーとは比べ物にならないほど快適だったのです。


日本では考えられないかもしれませんが、海外でタクシーといえば汚く、運転は荒く、運転手の態度が悪いのが普通です。国によっては、ボッタクリさえ日常茶飯事です。一方ウーバーは運転手の愛想が良く、車は清潔で運転は丁寧、現金の受け渡しも必要ない上に、アプリで呼ぶと5分程度で家の前まで迎えに来てくれると、至れり尽くせりなのです。


そんなわけで今では頻繁にライドシェアサービスを利用しています。駐車場が激混みするとわかっているショッピング・モールに出かける時、お酒を飲む集まりに参加するときなど、利用する機会はふんだんにあります。あまりに便利なので、車も1台だけ残してあとは手放すことを画策中です。


一家に車1台は日本ならば驚くに値しないかもしれませんが、ここは車なしでは移動が成立しないアメリカです。それでも車を手放すことを本気で検討するくらい便利なのです。


共有されるのは移動手段に止まらない

東南アジアでは、通勤時などに渋滞をすり抜けるバイクのライドシェアが人気だ=2017年2月、ジャカルタ市内



今アメリカやアジアでは、各種のシェアリング・サービスが爆発的に普及しつつあります。シェアリング・サービスというのは、個人(または企業)が保有する遊休資産の共有を促す、仲介サービスの総称です。共有される遊休資産には、空間やモノ、あるいは時間やスキルなど様々なものが含まれます。いくつか例を挙げてみましょう。



料理配送サービス 〜 デリバリーを提供していないレストランからでも料理を注文し、自宅に届けてもらうことができます。


空間共有サービス 〜 僕は出張の際はホテルではなくAirBnBで部屋を探して宿泊しています。ホテルに比べると自宅っぽいせいか、なんとも言えずくつろげます。また、キッチンが利用可能なところが多いのもありがたいです。


ペット宿泊サービス 〜 今まで旅行の際にはペットホテルに犬を預けていたのですが、今は犬好きの個人が預かってくれるサービスを利用しています。気に入った預け先が何件も見つかり、犬も預け先によく懐いています。


クラウドソーシング 〜 翻訳作業、原稿の文字起こし、アプリのデザインなどといった専門的なスキルの外注に積極的に利用しています。質も高く非常に役立っています。


自動車共有サービス 〜 自動車自体を共有するサービスです。スマホで検索すると近くにある利用可能な乗用車の位置が表示されるので、それを利用します。乗り捨てておけば、また別の利用者が使うので、返却の必要もありません。

米国ではこの10年ほどで、カーシェアリングが一気に普及した=2006年10月、ワシントン郊外



どれもこれも、スマホで簡単に予約できるサービスばかりです。ライドシェアや自動車共有サービスなどは正確な位置情報がリアルタイムで表示できないと成立しませんから、スマホが一種のインフラとして普及したことで、初めて成立可能となったサービスともいえるでしょう。


一方サービスの提供側はどんな人たちが担っているかというと、本当にごく一般の人々ばかりなのです。例えばライドシェアのケースですと、これだけで生計を立てている人は意外なくらい少なく、どこかに勤めつつ空き時間を利用してやっている方が大半です。食事の配送サービスなども同様でした。

また、ペットの宿泊サービスは動物好きの主婦がやっていたりと、まさしく遊休資産(時間)の活用なのです。翻訳やテープ起こしを依頼した方の中には、普段は大学教授をやっている人もいました。


シェアリング・エコノミーの行き先


このシェアリングサービス、現在ハイペースでその市場規模を上げており、アメリカでは2025年までに現在のおよそ20倍の3350億ドルにまで成長するだろうと予想されています。


日本ではウーバーもAirBnBも業界が強く反発したり、法令遵守が問題視されたりで広まっていませんが、遅かれ早かれ一般的なサービスとして認知されていくでしょう。シェアハウスの普及からも伺えるように、昨今の若者はもうすでに他人と空間やモノを共有することに大きな抵抗感を抱いていないからです。


AirBnBなどを使った宿泊サービスには、ホテル業界を中心に反対の声も大きい=2016年6月、東京都新宿区



では、シェアリングエコノミー万々歳かというと、今までになかった問題を引き起こしていくはずです。最大の問題点は、モノが売れなくなることです。私自身も前述の通り車の処分を検討していますが、車に限らず使用頻度の低いものはいずれ売れなくなるでしょう。例えば年に一回くらいしか旅行しない人なら、スーツケースなど買わずに借りればいいわけです。


こうした意識が浸透するにつれ、モノを買う人は加速度的に減っていくはずです。そして個人の所有物が減っていけば、今度は住居のダウンサイズや、住宅を購入せずに他人と共生して生きていくのがごく一般的なライフスタイルとして定着していくでしょう。そしてさらに住宅が余り、駐車場が余り、数多くの小売店やメーカーが淘汰されていくだろうと思われます。

経済はどう回すのか?


これまでの経済は、人々に過剰な消費や所有を強いることで成立してきました。しかし、そうやってモノが売れなくなったら、経済を回す仕組みが根本的に変わっていくはずです。モノに変わって僕らは何を売り、何を消費していくようになるのでしょうか? この回答を探る前に次回はさらなるテクノロジーの発達が僕らの生活をどのように変えていくのか、大胆に予想してみたいと思います。