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ワインスタインが浮き彫りにしたハリウッドの偽善

シネマニア・リポート

米国の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(65)に端を発し、とどまるところを知らない性的暴行・強姦の大量告発の輪。女性の地位向上も唱えてきた人たちが目立つハリウッドが「震源」だけに、「リベラルの偽善」との批判もわき立つ。この状況、どう考えればよいのか。ハリウッドで長年仕事をしてきた東京在住のプロデューサー、ブルース・ナックバー(55)にインタビューした。

まず、ワインスタイン問題についておさらいしよう。

最初に報じたのは現地時間10月5日の米紙ニューヨーク・タイムズ (NYT)と、同10日の米誌ニューヨーカーの電子版。NYTはワインスタインが少なくとも8人の女性と金銭的和解に至ったことなどを報じ、ニューヨーカーは被害を詳報。過去数十年の手口としてほぼ共通するのは、無名時代の女優や、女優志望またはスタッフの若い女性を、仕事と称してワインスタイン社の事務所やホテルの部屋に、複数人の会合やパーティーだと思わせて招き入れる点。ところが室内にはワインスタイン一人で、彼が裸になって性行為やマッサージを強要。巨体で知られるワインスタイン、女性が抵抗しても叶わなかったケースが目立つ。訴えればキャリアを台なしにされる恐れから沈黙していた、とする場合も多い。

ワインスタインは当初こそ、報じたNYTを提訴するとしていたが、アンジェリーナ・ジョリー(42)にグウィネス・パルトロウ(45)らも続々とかつての被害を公表し、アカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーが除名を決定。ロサンゼルス市警なども捜査に乗り出す中、ワインスタインは自身が創業したワインスタイン社の共同会長の職を解かれた。11月には米誌ニューヨーカーの続報で、ワインスタインが女性たちの告発を抑えるためイスラエルの民間スパイを送り込んでいたことも明るみに。女性たちは被害リストをグーグルドキュメントで公開、その数は100以上に達している。

触発されたかのように、俳優のケヴィン・スペイシー(58)にベン・アフレック(45)、ダスティン・ホフマン(80)、オリバー・ストーン監督(71)、ブレット・ラトナー監督(48)、アマゾン・スタジオのトップだったロイ・プライス(50)、『トイ・ストーリー』監督などで知られるピクサー・アニメーション・スタジオ共同創業者のジョン・ラセター(60)への告発も続く。ジャーナリストや著名アンカー、政治家と他の業界にも広がっている。

今回インタビューしたナックバーは、ピクサーでヒット映画『モンスターズ・インク』(2001年)の製作に携わったほか、米テレビシリーズの『Dr.HOUSE』(2004~12年)なども製作、マシュー・マコノヒー主演(48)の『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年)では製作総指揮を務めた。今は東京在住だが、ハリウッドに長く身を置いてきた。その目に、今の状況はどう映るのだろう。

「最近のワインスタインは、『有名にしてやる』『オスカーをとらせてやる』と言える力も、『言うことを聞かなければスターになれなくしてやるぞ』とおびやかす効果もなくなってきた。それでも女性たちは、声をあげたら業界からどんな反応が返ってくるか当初はわからなかっただろうし、とても勇気が要ることだっただろうけれども」。ナックバーは語った。

ワインスタイン社は今や破綻の危機が囁かれるが、実はすでにここ数年、売却話は米メディアで飛び交っていた。「彼らの映画事業はとても落ち込んでいる。テレビ事業はまだいいが、それだけではオスカーほどの名声にはつながりにくいからね」とナックバーは言う。

ワインスタインの力が陰りを見せてきた背景の一つに、ネットフリックスやアマゾンなどの動画配信サービスの躍進がある。定額の有料会員向けに幅広い品揃えをめざす彼らはこのところ、商業映画が敬遠するような冒険的なテーマのオリジナル作品を大予算で製作、会員数を急速に増やしている。彼らと仕事をした監督や俳優が口をそろえるように言うのは、「プロデューサーの意向に左右されず、自由に撮れる」。言い換えれば、ワインスタインのような人物の言いなりにならなくても、「出口」が多様になっているということだ。

被害公表が相次ぐ背景にはトランプ効果もある、とナックバーはみる。「女性蔑視発言をしたトランプが大統領になったことで、女性へのハラスメントに立ち向かう人たちが怒り、大きな力を得た。その力がトランプ以外に対しても強くなり、『こうしたことはもう認められない。戦うべし』となった」

米国では2016年、FOXニュースの最高経営責任者(CEO)だった故ロジャー・エイルズが、女性キャスターに性的関係を迫り、断られた末に解雇していたことが発覚、エイルズはCEOを辞任。今年4月には、FOXの人気司会者ビル・オライリー(68)もセクハラで番組降板となった。「これも女性たちにとって力になった。社会が訴えを真剣に取り上げて耳を傾けるようになったと感じ、恐れず名乗り出られる希望が出てきたのではないか。これを機に一般の人も、この問題を意識するようになるだろう」とナックバーはみる。

今回の問題がより深刻なのは、加害者とされる人たちの多くが、日頃は「少数者の権利」を唱えるリベラル派だった点だ。

ワインスタインはオバマ前大統領(56)やクリントン夫妻ら民主党政治家らを資金面で長年支えてきた。AP通信によると、ワインスタインや一族による民主党や同党政治家らへの寄付総額は1992年以降で140万ドル以上。今年1月には、反トランプの流れで全米で起きたウィメンズマーチにワインスタインも参加した。女性監督の育成のための奨学金として、南カリフォルニア大学に500万ドルを寄付する予定にもなっていた。

これって矛盾しているのでは――。そう言うと、ナックバーは語った。「ワインスタインはきっと、自分自身はあくまでリベラルだと信じていることだろう。ウィメンズマーチへの参加と、彼が女性たちに性的な被害を及ぼしたことが矛盾するとは思っていないんだと思う」

ワインスタインはニューヨーク・クイーンズの共同住宅で育ったユダヤ系。母方の祖父母はポーランドからの移民で、父はダイヤ職人だった。ニューヨーク州立大学バッファロー校を卒業後、弟ボブ・ワインスタイン(63)と手がけたロックコンサートのプロデュース事業で得た資金を元手に、映画会社ミラマックスをボブと設立。労働者階級出身のユダヤ系として、リベラルに傾いていった。

ナックバーは言う。「ワインスタインは映画界で何としても勝ち上がろうとした。金持ちの子のようにチャンスに恵まれていたわけではないだけに、競争が厳しい世界で追い立てられるように成功をめざし、他の人がやらない形で既存のやり方を打ち破ろうとした。『間違っていようが構わない!』と言ってやってのけるトランプと似ているね」

『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督(38)が電話インタビューで「ワインスタインとトランプは、同じコインの表裏。とても肥大なコインのね」と言っていたのを思い出す。確かに、ワインスタインとトランプは表向き、政治信条などは違うものの、相通じるものがあるということだろう。

「思うに自分も含めて男性は、自分自身の中に実は存在する性差別の気持ちや女性嫌いの要素を認めてこなかった。そして何か言っては、『悪気はない、冗談だよ!』と言う。それは間違っているということだ」とナックバーは語った。

この問題を先駆けて報じた一人が、ニューヨーカー誌に書いたローナン・ファロー (29)だ。女優ミア・ファロー(72)とウッディ・アレン監督(81)を両親にもち、米NBCで活動してきた若手ジャーナリストだが、米メディアによると、ファローはNBCでの報道を断念させられた結果、ニューヨーカーに持ち込んだ。NBCは「取材が放送に足るものではないと判断したため」と説明しているが、今年4月、脚本家でもあるNBCのニュース部門のトップ、ノア・オッペンハイムがニューヨークのパーティーでワインスタインと同じ小テーブルに着いていたことが明らかに。「ワインスタインと何か話し合ったのではないか」とオッペンハイムの辞任を求める声も上がっている。

ナックバーは言う。「今回の件はNBCの汚点だ。報じなかったのは、判断の誤りか、それとももっとひどい何かがあるということなのか?」

ナックバー自身は、「ワインスタインが多くの人にいばり散らしたり脅したり、周囲にハラスメントをしてきたことは耳にしてきた」が、性的暴行については知らなかったそうだ。裏返せば、ワインスタインに近しい人たちや、女性たちから相談を受けた一部の間で共有されながらも、なかなか表沙汰にならなかったということだろう。ワインスタインのもとでメジャーになったクエンティン・タランティーノ監督(54)も、胸の内にしまっていた一人。タランティーノ監督は1995年、当時恋人だった女優ミラ・ソルヴィノ(50)から、ワインスタインの被害に遭ったことを打ち明けられたが、強い態度に出ることなくワインスタインと仕事し続けたことを後悔している、とNYTに10月に語った。タランティーノ監督は同じ1995年、長編2作目『パルプ・フィクション』(1994年)で初のアカデミー脚本賞を受賞したが、この作品はワインスタイン創業のミラマックス社の出資・配給だ。

「ハリウッドは金もうけの世界。監督は芸術性を追い求め、俳優は役を求めるが、これらのバランスをとって稼げるプロデューサーが大きな力を持つ。嫌なら映画を公開しないよ、と監督をコントロールすることもできる。女性だけでなく男性に対しても、精神的に追い詰めたり、物を投げたりといったハラスメントがまかり通ってきた。『俺と寝ろ。さもなくば業界で生きていけなくしてやる、使えない要注意人物だと業界で触れ回ってやる』 と脅すようなことも、何十年も続いてきた」とナックバーは語る。

「ワインスタインは意地悪で不快な人物だが、作り手からすれば、映画を高値で買ってくれる。ギャンブルだけど、嫌な思いと引き換えに作品が当たれば大きいし、次のタランティーノ監督になって人生が変わるかもしれない。ワインスタインも、嫌な目に合わせて周りが自分を恐れる状態を隠そうとするどころか、気に入っていた。そうすれば部屋に入っていくだけでみんな怖がるし、多くを語る必要もないからね」

何よりワインスタインは、とにかくアカデミー賞に強かった。

米誌フォーブスによると、彼自身またはミラマックス社やワインスタイン社が製作・配給した映画のうち、アカデミー賞を受賞したのは作品賞を含め81本。ノミネートを含めると341本に上る。多くは地味めなアートハウス系のインディペンデント映画ながら、1990年から2000年代にかけて集中的に賞レースを席巻、商業ベースにも乗せた。多額の資金をつぎ込んで「オスカー・キャンペーン」を激しく展開、賞シーズンには投票権を持つ米映画芸術科学アカデミー会員向けにイベントや上映会をこまめに開催。電話攻勢も欠かさず、時にライバル作品について密かに悪く触れ回るネガティブキャンペーンも展開したと言われる。

1999年には、スティーブン・スピルバーグ監督(70)のもとトム・ハンクス(61)が主演した『プライベート・ライアン』(1998年)が最有力との下馬評を覆し、ワインスタインら製作の『恋に落ちたシェイクスピア』(1998年)が作品賞をはじめアカデミー賞7冠に。主演女優賞に輝いたのは、今回ワインスタインからの被害を公表したグウィネスだ。この前年には、当時無名だったマット・デイモン(47)とベン・アフレックが『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)でアカデミー脚本賞を受賞。これもワインスタインがOKを出して製作が決まった作品だ。タランティーノ監督は『パルプ・フィクション』のほか『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)でもアカデミー脚本賞をとっているが、これもワインスタイン社の配給だ。

ハリウッドはどうなっていくのだろうか。「ここ数年、ハリウッドの既得権益層は、『文化的なバブルを謳歌しているだけで、米国が直面する痛みや恐れについてわかっていない』と言われ、トランプは当選した。今回のことで、ハリウッドはしょせん背徳的な世界だ、彼らの唱える社会正義になぜ耳を傾ける必要があるのか、業界はもう何も言う権利はない、と言う人も出てくるだろう。ハリウッドの人たちもしばらくちょっとおとなしくしているかもしれない」。ナックバーはそう言いつつ、つけ加えた。「でもそれでもハリウッドにも、この手の問題には無縁で、倫理的で、日頃の主張と矛盾をきたさない人たちもいるからね」

実際、時間はかかったにせよ、訴えに社会が耳を傾ける形ができた。東京に住むナックバーは言う。「日本の女性たちを見ていると、何かに声を上げることを恐れ、その力もないと感じているように思う。ハラスメントに限らず、過重労働や、仕事の機会についてもそうだ。ただ、米国も数十年前は日本と似たような状況にあった。だから、変わることはできる。被害に遭った人が『声を上げてもいい』と感じられるようにしていく必要がある」