The Canada experiment: is this the world's first 'postnational' country?
(1月4日付ガーディアン紙)
私が教えるセミナーでは、データを用いて世界各国の文化的特徴を比較しているが、参加者から「なぜカナダについての数字がないのか」と質問をいただくことがある。残念ながらカナダを米国と同じくくりにして個別のデータをとらない研究者は確かに多い。移民によって誕生した多様性に富む社会ゆえ、カナダ固有の文化とは何か明確にしにくいことも痛感する。この記事は、そんなカナダのあいまいさの良い側面を伝えている。
2015年、ジャスティン・トルドー首相は米誌のインタビューに、core identity(核となる国民意識)がないカナダは世界初のpostnational state(ポスト民族主義国家)になりうると発言した。国民国家をsacrosanct(批判を許さぬ神聖な)存在とする欧州の指導者からすればかなり過激な発言だが、記事によると、カナダ国民の間ではunexceptional(普通)に受け取られ、ripple(さざ波)も起きなかった。
nativism(移民排斥)やnationalism(民族主義)が欧米諸国で台頭した昨年、カナダは4万8000人の難民を含む30万人の移民を受け入れた。少子高齢化で先細る労働人口を補いたいとの計算もあるが、inclusion(自分と違った人を受け入れる)を大切にする価値観を国民が共有しているからだろう。
これには、カナダの歴史も関係していると筆者は指摘する。1867年に自治権を得たものの、その後は英連邦に加盟し、自国の国旗と国歌を持つようになったのは1960年代になってからのこと。multiculturalism(多文化主義)を国策とし、北米先住民の「すべてのものはみんなのもの」という考え方も意識のどこかに根付いているという。
背景に、behemoth(巨大な)隣人、米国の存在があるのはいうまでもない。国防のため軍事力の強化に励む必要はなく、経済的な繁栄は貿易の75%をしめる米国によってもたらされているからだ。とはいえ、他の国の人から見ればreckless(無鉄砲)にも映るpredisposed to an openness(開放的な傾向)こそ、いま脚光を浴びるのにふさわしいと、この記事は伝えている。