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『パディントン2』「移民」のクマ、排外主義と闘う

Cinema Critiques 映画クロスレビュー 更新日: 公開日:
©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

みどころ ペルーから「移民」としてロンドンに移り、ヘンリー・ブラウン(ヒュー・ボネヴィル)一家の一員となったパディントン(声:ベン・ウィショー)。排外的な近所の男性に邪険にされつつ楽しく暮らすうち、骨董品店で高価な絵本を見つけ、故郷のルーシーおばさん(声:イメルダ・スタウントン)に贈ろうと働き始める。ある夜、絵本が盗まれるのを目撃し後を追うが、逆に逮捕。陰ではかつての人気俳優ブキャナン(ヒュー・グラント)がうごめいていた。(2017年、英・仏、ポール・キング監督)
東京でインタビューに答えるヒュー・ボネヴィル=仙波理撮影
©2017 STUDIOCANAL S.A.S All Rights Reserved.

Review01 大久保清朗 評価:★★★(満点は★4つ)

不寛容な世界に降りた天使

こんなシーンがある。育ての親であるルーシーおばさんへのプレゼントを買うため、パディントンが窓掃除でお金を稼ごうとする。独り暮らしの大佐のアパートを訪問するパディントン。大佐は冷たくはねつけるが、彼は窓を拭く。窓の汚れが取れて、薄暗い大佐の部屋に光が差し込む。大佐は窓越しに通りを見る。売店の女性が大佐に気づき、ほほえみを送る。パディントンは、周囲の人々を外の世界へと連れ出していく。

また別のシーン。無実の罪で投獄されたパディントンは、洗濯係となるが、赤い靴下を洗濯機に放りこみ、一緒に洗った囚人服を薔薇色に変える。そして刑務所中で恐れられている料理人の大男の怒りを、自家製マーマレードで沈静させる。

どちらのシーンでも、固く心を閉ざしていた人間が、ふとしたきっかけで相手を受け入れる。そこで流れるのはパディントンの出身地ペルーのものとおぼしきラテン音楽バンドによる軽快なメロディー。現代社会の移民問題が暗示され、彼が不寛容な世界に降臨した天使でありながら、窓拭きや料理といった地に足のついた労働によって社会を変える変革者として描かれる。

彼を罠にはめるのが、嫉妬と強欲を象徴するヒュー・グラント扮する落ち目の舞台俳優。不寛容を体現しつつ、嬉々として演じきる。最後、『雨に唄えば』『シェルブールの雨傘』を彷彿とさせるミュージカルシーンを余裕綽々(しゃくしゃく)にこなしてみせる。まことにあっぱれな役者魂というほかない。

Review02 クラウディア・プイグ 評価:★★★(満点は★4つ)

慎み深い「よそ者」を体現

パディントンが暮らすのは人種的に多様な地区。周囲がパディントンに魅了される一方で、人とは違う見た目のパディントンに疑念を抱く偏狭な男が出てくる。今作は、見知らぬ人を受け入れようというメッセージとともに、英国の欧州連合(EU)離脱や不寛容の広がりについて、やんわりと物申している。

とはいえパディントンは親切で礼儀正しく、慎み深く、いわば社会規範を守ったロールモデルだ。いろいろな意味で「よき移民」。「外国人やよそ者は超善良で、感謝の心を絶やさないものだ」という考え方を体現している。

もっとも、刑務所の囚人のような「はずれ者」をパディントンが受け入れ親しくなってゆく過程を通し、パディントンほどの行儀のよさや品のない彼らにだって優しい心はあるのだ、という点を観客にさりげなく気づかせてもくれる。