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『ジュピターズ・ムーン』 ファンタスティックに映画で描く難民問題

Cinema Critiques 映画クロスレビュー 更新日: 公開日:
2017©PROTON CINEMA-MATCH FACTORY PRODUCTIONS-KNM

ムンドルッツォ監督 Photo: Semba Satoru
2017©PROTON CINEMA-MATCH FACTORY PRODUCTIONS-KNM

Review01 一青窈 評価:★★★★(満点は星4つ)

「謎の生命体」とともに

初詣で夫の厄よけ祈願をして頂いた。浄土宗のお寺で、釈迦如来像の足元で、南無阿弥陀仏を10遍唱えて終わりとなった。ふと天井を仰ぐと天女が私を見下ろしている。

胎内記憶を語る子どもたちは、天使のいる上空からやってきたと言う。私たちはどこから生まれ、どこに帰るのか。

出産を経験した私にとって、赤ちゃんは「異界」からやってきた謎の生命体。2人目というのに、まこと新鮮で、言葉の通じない相手に発見と気付きの繰り返しだ。日々直面する困難(夜泣き、寝ぐずり、授乳による睡眠不足)と、それを一切帳消しにする幸せ(寝顔、笑顔、存在そのもの)に翻弄されつつ、私たち母子は四六時中ただ向き合い、同じ時を過ごすことでしか得られない理解を深め、信頼と愛情を強固に結んでいる。

ハンガリーが抱える難民問題を実に美しいアプローチで浮き彫りにしているこの映画を見て、私には、監督が「難民を我が子のように受け入れて欲しい」と語りかけているように思えた。異界からやってきた謎の生命体が何者なのか分からなくても、まずは己が出来ることをやれ、と。全てを引き受けることから物事は始まるのだ、と。

かつては私自身が、母にとっては「謎の生命体」であり、難しい者=地球難民だったのだ。共に助け合い、互いに成長することを喜びと言わずになんと呼ぶのだろうか。映画はこうしたファンタスティックで詩的な技法で社会問題を取り上げるべきなんだ! と感心せずにはいられない作品である。

 

Review02 クロード・ルブラン 評価:★★★▲(満点は星4つ、は半分)

ジャンルを超えた濃密な体験

視覚的にも感情的にも濃密な体験になる、ジャンルを超えた作品だ。

前作では、重い「犬税」のために捨てられた飼い犬と人間との闘争を描いたムンドルッツォ監督。その作品は、実際に「犬税」を課すハンガリーの政治的な寓話(ぐう・わ)に仕上がっていた。

今作で監督が探っているのは、センシティブで大きなテーマだ。贖罪(しょく・ざい)や信仰の力、友情、印象操作やメディアの力、移民やテロ。ジャンルを織り交ぜた作品には力強さと同時に脆(あやう)さもある。いらだちや拒絶を感じることがあるかもしれない。

それにしてもワンシーン・ワンショットのカメラワークなど見事な演出がいくつもある。やり過ぎだと言う人もいるだろう。でも、好きでも嫌いでも無関心ではいられない。いま求められているのは、そんな映画だと思う。