『習近平的七年知青歳月』は、そんな彼が1960年代末の文化大革命期、都市の知識青年を強制的に農村に送り込む「下放政策」によって陝西省延川県に送られた際、付き合いのあった人々へのインタビュー集だ。
「一緒に下放された元知識青年たち」「地元の農民たち」「各界の人々」の心に刻まれたのは、読書好きで、常に人々に寄り添う実直な姿。読書は主にマルクス主義関連書、歴史、古典文学だが、後に会うことになるキッシンジャー元米国務長官の著作なども、この時期に読んでいたとの証言もある。
やがて仲間は次々に北京に戻るも、最後まで農村に留まり、7年を過ごす。失脚した元国家幹部・習仲勲の息子であることは周知の事実で、共産党入党は幾度となく阻まれた。そんな境遇で、農作業、土木作業のほか、トイレ修理やメタンガス利用の発電設備の開発などに貢献し、人々に愛された。後々も続く村人たちとの関係にはこまやかな情もにじむ。
友人の雷平生によると、習近平は、太平天国の乱を鎮圧した曽国藩の言葉「耐煩(煩わしさに耐える)」に度々言及し、「大事を成し遂げるには自己コントロールが必要」と語っていたという。「大衆のために具体的なことをするのが彼の一貫した信念」と語る友人の陶海粟が08年に「君について書きたい」と言うと、「蓋棺事定(棺を蓋〈おお〉いて事定まる)にはまだ早い」。
団体購入や義務感による組織票中心でも半年で300万部は驚異的。しかし、本の読後感や批評を人々が自由に披露するSNS「豆瓣」に、本書レビューはゼロ。ベストセラーでも評価の書き込みは不可。当局公認のネット上の書評は参考にならない。黙って読め、ということか。検閲済みの内容に驚くべき発見はない。けれど、読めばもっとこの人を知りたくなる。これだけの証言からも、その心の奥は見えないからだ。
翻訳家の父とピアニストの息子の書簡集
近平青年が当時好んだ外国文学作品にショーロホフの『静かなドン』、ユゴーの『九十三年』などがある。いつの時代にも多くの読者を魅了する外国文学があり、そこに翻訳者の存在がある。
3月初めに東京で開かれたJLPP翻訳コンクール記念シンポジウムで、各国の日日本文学の翻訳家たちと顔をあわせた。言語は異なるが、文学を翻訳する翻訳家たちのことば、翻訳に対する愛情、その悩みや苦しみは共通で、話は尽きない。
同じ翻訳家、というだけでつい親近感を抱いてしまうが、実はそんなふうに考えることさえ恐れ多い偉大な翻訳家の一人である傅雷は、ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』やバルザック作品などの翻訳で知られる。
『傅雷家書』は傅雷とその妻・朱梅馥が1954年から1966年にかけて息子・傅聡(フー・ツォン)及び傅敏と交わした193通の書簡で、1981年初版刊行。その後さまざまな出版社から複数の版が出ている。過去に一部が『君よ弦外の音を聴け――ピアニストの息子に宛てた父の手紙』(樹花舎)として邦訳もされた。アジア人で初めてショパンコンクール入賞を果たしたピアニスト・傅聡の半生を描いた『望郷のマズルカ――激動の中国現代史を生きたピアニスト フー・ツォン』(森岡葉・著)にも一部引用されている。
幼少から非凡な才能を見せ、二十歳でポーランドに留学した傅聡。息子が旅立ったその日から毎日のように長い手紙を書き続けた傅雷。
翻訳家とピアニスト。道は異なれど、その豊富な知識、教養、己の芸術に対する思いを、余すところなく息子に注ぎ込む父。教育熱心すぎて、過去には虐待レベルの激しい折檻も。教養と愛情に満ちてはいても、気迫に押され、畏怖し、委縮せずにいられない父の手紙。今どきの若者には息苦しく思われそうだが、海外留学も身近な今、故郷の両親とメールや電話で気軽に連絡できるからこそ、切々と手紙で思いを伝える言葉が心に染みると中国の若者に好評だ。
偉大な翻訳家、ピアニストの伝記として読むか。芸術論、教育論として読むか。家族愛の物語、文化大革命の悲劇として読むか。あらゆる読み方が可能な、濃厚な愛が凝縮されている。
『半個小時漫画中国史』は「国」を擬人化し、混乱しがちな春秋戦国時代の諸国を紹介。長所もあれば欠点もあり、友達でもあり敵でもある、そんな身近な存在として、三十分でそれぞれの国の個性や複雑な外交関係を理解できるという本だ。
中国のベストセラー(ノンフィクション部門)
2018年2月22日~2月28日『開巻』より
『 』内の書名は邦題(出版社)
1. 傳雷家書
『君よ弦外の音を聴け―ピアニストの息子に宛てた父の手紙』
傳雷、傳敏
『ジャン・クリストフ』の中国語翻訳者の父から国際的ピアニストの息子への書簡集
2. 習近平的七年知青歳月
中央党校采訪実録編輯室
発売後一か月で300万部に達した、若き日の習近平と接した人々へのインタビュー集
3. 傳雷家書(全新修訂版)
傳雷、傳敏
1位の書籍の改訂版。
4. 目送
(『父を見送る 家族、人生、台湾』/白水社)
龍応台
台湾の作家で前文化部長の著者が、移ろいゆく人生と肉親への思いをつづる
5. 天才在左 疯子在右
高銘
メディアプロデューサーが四年間かけて向き合った「国内初の精神病患者取材手記」
6. 人類簡史:从動物到上帝 Sapiens: brief history of humankind
(『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』/河出書房新社)
憂瓦爾・赫拉利 ユヴァル・ノア・ハラリ
ホモ・サピエンスの歴史をマクロ的に見る世界的ベストセラーの中国語訳
7. 我不
大冰
「わたしは違う」と運命に抗う声をあげる人々の小さな物語。
8. 未来簡史:从智人到智神 Homo Deus: A Brief History of Tomorrow
憂瓦爾・赫拉利 ユヴァル・ノア・ハラリ
世界的ベストセラー『サピエンス全史』続編の中国語版
9. 半小时漫画中国史全新修订版
二混子
東周(春秋戦国時代)の諸国をクラスメートに見立ててわかり易く解説
10. 我們仨
(『別れの儀式 楊絳と銭鍾書 ある中国知識人一家の物語』/勉誠出版)
11. 杨绛
当代一流の作家夫婦、最後まで親孝行だった娘。激動の世紀の家族佳話