受給開始年齢(1966年4月以降生まれは63歳)前に亡くなり、扶養家族もいなかった場合には、公的年金の保険料はまったくの「払い損」になるが、長寿の人にとっては心強い生活の支えとなる。「公的年金の本質は『長生きリスク』を避けるための支え合い、保険だ」。厚生労働省で公的年金の制度設計や数理計算を担当した坂本純一(現JSアクチュアリー事務所代表)はそう話す。
いったい自分自身は将来、いくら年金を受け取れるのか。50歳以上の人は、年に一度郵送される「ねんきん定期便」に、受給開始年齢時点の年金見込み額が明記してある。50歳未満の人でも、日本年金機構が運営する「ねんきんネット」に加入すれば、見込み額の試算ができる。現時点での平均的な額は、年収約510万円の会社員が40年加入した場合で月額15.4万円だ。
問題は、少子高齢化が進行する中で、将来の年金額が大幅にカットされないのか、ということだろう。
「今後出生率は回復せず、平均寿命は伸びる」という厳しい前提で2014年に行った財政見通しでは、「今後の経済がある程度順調であれば、平均的収入の会社員・専業主婦世帯では、手取り賃金の5割程度の年金額を維持できる」との結果が出た。
現役世代の収入と比べての年金水準は、現状に比べ約2割の目減りとなる。しかし、マイナス成長が続き、制度面でも何の対策も講じなければ、4割以上目減りしてしまうという試算もある。公的年金の将来像は、今後の日本経済のふんばりに大きく左右されるのだ。
一方で、高齢者の就労を促進し、現在の「20~60歳」という保険料納付期間を、「20~65歳」に延長すれば、年金水準の目減りは約1割~2割5分程度に抑えられる。
さらに働く期間を延ばし、年金を受け取る年齢を遅らせれば、1年ごとに年金額は8.4%増え、その分「長生きリスク」に備える機能は高まっていく。
「人生100年」に経済面で備えるには「年を取っても働き続けて得る収入と公的年金の二本柱」というやり方が、最も現実味がありそうだ。(文中敬称略)