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テクノロジーで人の感覚が拡張する、それって「超人」づくり? 不安の声にどう答える

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サイバスロンの2020年の大会で、義手部門に出場したイタリアのチーム
サイバスロンの2020年の大会で、義手部門に出場したイタリアのチーム=2020年11月12日、Erzelli氏撮影、サイバスロン提供

【2枚目】「サイバスロン」のアンネグレット・ケルン副代表
「サイバスロン」のアンネグレット・ケルン副代表=本人提供


――スイス連邦工科大チューリヒ校が主催するサイバスロンは、2016年以来、4年に一度、ロボット工学などを応用した技術で競っていますね。

大会では、各チームの「パイロット」と呼ばれる身体障害者が機器を操作し、階段の上り下りやはさみで紙を切るなど、日常生活に必要な動作を競います。日本からも、和歌山大や慶応大などのチームが参加してきました。

第3回となる24年の大会では、これまでの電動車いすや義肢、脳コンピューターインターフェイスなどの6部門に加えて、視覚支援部門と支援ロボット部門が新設されます。視覚支援部門では、機器の支援を受けて視覚障害者がタッチパネルを操作したり、色を選んだりする技術などが披露される見通しです。

サイバスロンの2020年の大会で、脳コンピューターインターフェイス部門に出場したスイスのチーム
サイバスロンの2020年の大会で、脳コンピューターインターフェイス部門に出場したスイスのチーム=2020年11月11日、ALESSANDRO DELLA BELLA氏撮影、サイバスロン提供

――技術の進歩には、「技術はどこまで進むのだろうか」という不安も、常に一緒にあるように思います。サイバスロンでは、こうした課題についてどう考えていますか。

技術が常に人間のコントロール下にあることや、他人を傷つけないものであることが、研究の大前提にあります。

私たちはアイアンマンを作っているのではありません。常に、身体障害者の日常生活を支援する技術であるべきだという視点を持っています

――というと?

大会に参加するチームには、開発の段階から障害の当事者が参加しています。日常生活の中にある障害を乗り越えるにはどんな技術が必要か、当事者の意見を聞き、時間をかけて、機器を開発します。

これは、大会の主催側も同じです。「義手で瓶のふたを開ける」「電動車いすで階段を上り下りする」といった、各部門の競技の課題についても、当事者から日常生活の中でのニーズを聞き取り、時間をかけて練り上げています。

サイバスロンの2020年の大会で、電動車いす部門に出場した千葉工業大のチーム
サイバスロンの2020年の大会で、電動車いす部門に出場した千葉工業大のチーム=2020年11月13日、TAKAO OCHI氏撮影、サイバスロン提供

――大会に出場するための規則などはあるのでしょうか。

機器を操作する「パイロット」の出場資格や、機器に用いることができる技術については細かく規定を定め、厳しい安全基準も設けています。日常生活の障害を乗り越えるための技術を競うのですから、安全は最優先事項です。

これまでの大会の結果からも言えることは、パイロットのニーズを尊重しないチームが勝つことは難しいということです。大会そのものが、ユーザー中心的につくられています。

――倫理的な視点についてはどう考えますか?

明確な倫理基準は設けていませんが、支援技術を必要とする当事者を含めたチームで課題に取り組み、大会で出会った人と対話することが、どんな技術が『適切』であるかを判断していく、自然のフィルターのような役割を果たしていると考えています。

サイバスロンの2020年の大会で、義足部門に出場したスイスのチーム
サイバスロンの2020年の大会で、義足部門に出場したスイスのチーム=2020年11月11日、ALESSANDRO DELLA BELLA氏撮影、サイバスロン提供

テクノロジーのどこまでが「補う」で、どこからが「超える」なのか。全身まひの人が外骨格ロボットに支えられて、立ち上がって歩けるようになったら、これは支援技術でしょうか。それとも超人的な技術……? それを誰が決めるのでしょうか。

今日は「超人的」に見える技術も、明日には「普通」になるかもしれない。それが科学技術の発展です。より多くの能力を得たいということは、人類の自然な願望でもあります。

サイバスロンでは、技術の可能性と限界を示して、研究開発についてより多くの人々に伝えることで、議論の場をつくりたいと考えています。