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行き場がなくなったマネー、金に流れ込む中国 需要は10年で倍の予想も

World Now 更新日: 公開日:
宮地ゆう撮影

「来月生まれる初孫に、金をプレゼントしようと思ってね」上海の物流会社で働く50代の女性は、化粧気のない顔から白い歯を見せた。2月上旬、勤務中に抜け出して近くの中国工商銀行の支店で買ったのは50グラムの小さな金の延べ棒。約1万8200元(約22万円)だった。窓口での簡単なやりとりがすむと、金色の箱に入った純度99.99%の延べ棒が差し出された。

「金はいい。価値の上がる余地がまだまだあるからね」。現金だと使われればおしまい。金なら孫が物心ついたとき、おばあちゃんが記念にくれたと分かってくれるのでうれしい。将来お金が必要になったときには、買った値段より高く売れるはずだ――そう信じている。

支店の担当者、張万経(27)は「金は贈り物として喜ばれてきたが、今は投資として買う人が増えている。行き場がなくなった資金が、金に流れ込んでいるんです」と説明した。

上海の総合株価指数は07年の3分の1程度の水準をうろうろ。バブル気味だった不動産市場も政府が2戸目以上を買えないようにするといった抑制策を強め、投資しにくくなった。しかも、昨年の消費者物価指数の伸び率は前年比5.4%と3年ぶりの高水準。ゼロ金利に近い銀行の普通預金に入れておくだけでは財産が目減りしてしまう。

そこで、人民元建ての価格が10年で約4倍になった金の人気に火がついたというわけだ。毎月一定額を金に投資する工商銀の「金積み立て」は、全国ですでに200万口座を超えた。20グラム(約9万円)分に達したら、現物と交換できる。

窓口の行員のいすの横に、無造作に置かれた約50センチ四方のアタッシェケース。その中に20グラムから1キロの金がビニールに詰められ、錠剤のパックのように連なっている。注文が入ると切り離し、箱に入れてお客に渡す。あっさりした扱いだ。

上海の建築士、沈楊盛(27)は昨年1月、ボーナスの3分の1をつぎ込み、老舗の貴金属店で金50グラムを1万6000元余りで買った。今売ると利益は約1500元。年利にすると9%強なので、4%程度の国債よりずっと割がよかった。「今年結婚する予定なので、新居のリフォーム代にあてたい」と売るタイミングを見計らっている。

中国で金が自由に取引されるようになったのは最近のことだ。上海黄金取引所ができたのは2002年。それが11年には7438トン、2兆4700億元(約29兆6400億円)の取引が成立。同取引所総合部の責任者、顧分碩は「現物の場内取引額では世界一」と自慢する。午前2時半までの夜間取引も始まり、60数人の従業員を年内に100人近くに増やす予定だ。

国際的な商品でドル建てでの値動きが基本の金を人民元建てで買うには「為替リスク」もある。人民元がドルに対して値上がりすれば、ドル建てでの金の値上がり益が、人民元建てでは目減りする。ただ、上海の老舗貴金属店、老鳳祥の女性販売員は「そこまで理解して買っている人は少ない」という。

ある国営銀行の行員は、こういう。「価格が下がれば、新しもの好きの中国人は数年後、金ではなく翡翠(ひすい)など別の物に投資し始めているかもしれない」(文中敬称略)(奥寺淳)