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「できる社長」に共通する、「妄想」を「構想」にする力

令和の時代 日本の社長
株式会社ボードアドバイザーズの佃秀昭社長=東京都千代田区

■企業のトップ選びをサポート

――佃さんは2019年、社長・CEOの選任や後継者計画の策定に関するアドバイザリー業務を手がける会社ボードアドバイザーズを自ら立ち上げました。日本ではなじみのない分野でもありますが、「社長・CEO」に着目された理由を教えてください。

激動する世の中で、組織が発展し続けるためには、先見性のある優れたリーダーを選任できる仕組みを確立し、そして選んだリーダーを支援することが重要です。「志あるリーダーを支え日本経済の発展に貢献したい」との思いで会社をつくりました。

社長・CEOの選任や後継者計画の策定、次世代経営者の育成、取締役会の実効性評価など、企業統治と経営にかかわるコンサルティングを手がけています。結局「企業の業績や成長は社長・CEO次第」だと、これまでの実務経験から確信しています。

――「企業は社長・CEO次第」の指摘、思いあたるビジネスパーソンは多いかもしれません。

「優れた経営者と聞いて、誰を思い浮かべますか?」と聞かれたときに、一般的に名前があがるのは、ソフトバンクグループの孫正義さん(会長兼社長)や、日本電産の永守重信さん(前社長、現在は会長)、ファーストリテイリングの柳井正さん(会長兼社長)だと思います。

この3人は、創業者または実質的な創業者でもあり、どの方にも「事業を大きくするぞ」という強烈な企業家精神があります。その意欲に依拠するかたちで、会社も成長してきました。

かたやサラリーマン系の社長・CEOをみると、リーマン・ショック後に会長兼社長として日立製作所の経営を立て直した川村隆さん(名誉会長)、同社の社長と会長を務めた中西宏明さん(前経団連会長、故人)が思い浮かびます。さらに、社長として苦境に陥っていたソニーグループを、社長兼CEOとして再建した平井一夫さん(現在はシニアアドバイザー)、そして、現在の会長兼社長である吉田憲一郎さんも名前があがると思います。

この2社の業績回復を疑う人はいないと思います。それを成し遂げることができたのは、「正しい経営トップの人選が行われた」ことが大きい。そうした実例をみても「企業は社長・CEO次第」といえます。

■日本と欧米で違う、社長の位置づけ

――近年、盛んに言われるようになったコーポレートガバナンス(企業統治)改革の議論でも、社長・CEOの選任と解任、後継者計画の策定は、重要テーマに浮上しています。

私は、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」が導入される前から、クライアント企業の社長・CEOの選任や後継者計画を支援してきました。これらは欧米では一般的な業務として認知されていましたが、日本では実務事例がほとんどなかったのです。

コーポレートガバナンス・コードは、社長・CEOの選任・解任と後継者計画が、企業統治における「1丁目1番地」であり、日本企業がガバナンスの高度化をはかるうえで、積極的に取り組むテーマであることを明確化したと考えています。

――日本企業と欧米企業の経営のあり方は、どう違うのでしょうか?

日本企業では、社長とは「社内昇進の結果である」とみられています。次期社長の選任は、いまの経営トップの専権事項とされ、外部出身者が就任することはまれで、「純血主義」を前提となっています。取締役会は社長の部下でもある社内出身者で占められています。

一方、欧米企業では、社長・CEOは株主に「受託者責任」を負うものとして位置づけられます。独立した社外取締役が次期社長選びのプロセスに関与し、外部招聘も視野に入れた経営トップ選任がふつうです。取締役会は社外出身者が中心で、経営の監督に徹しています。

――「企業は社長・CEO次第」というほど、社長・CEOの役割は重要であるにもかかわらず、日本の多くの企業のトップ選びは、その多くが現社長の「専権事項」で不透明な印象もぬぐえません。

日本経済が右肩上がりの成長を続けているならば、社長の思いのままに後任社長を選んだり、「社長コース」を歩んできた人を慣例通りに選んだりしても、特段問題はないでしょう。部下の話をよく聞いてボトムアップ型で経営していれば、毎年それなりの水準で成長できたのが、高度成長の時代でした。しかし、いまはそうはいかないでしょう。

「伝統ある○○部門の出身者が社長になるべきだ」「経営企画部門や人事部などの社長コースを歩かせたから、彼はトップにふさわしい」という観点で社長を選ぶのではなく、これからは「いまの時代に最も適合した社長・CEOを選ぶ」ことが求められます。

私が助言する企業に対しては、「次期社長には、有力候補のAさんがよいかBさんの方がよいか」という個別の名前を議論する前に、「自社を取り巻くビジネス環境などをふまえると、次の社長には、どんな適性が求められるのか」という「そもそも論」から話し合ったうえで条件にいちばん近い人物を選びましょうと話しています。

■「及第でも落第でもない」社長たち

――グローバルな企業間の競争が厳しく、そもそも日本経済が大きく成長しない時代に経営のカジをとる社長・CEOは、非常に難しい仕事でもあります。

私が関わっている企業で、ある社外取締役に、その社長・CEOの評価を聞きました。すると、「及第点でもないが、かといって落第点とも言えない」との回答を得ました。なるほどと思いました。このゾーンに入っている日本企業の社長・CEOは多いのではないでしょうか。合格点は与えられないけど、かといってクビにするほど仕事ぶりがひどいわけではない、という社長です。

仮に、その社長・CEOをクビにしたところで、かわりに見違えるような経営ができる後継者は、社内のどこを見渡しても見つからない。これが、多くの日本企業が抱える悩みだと思います。むしろ悲劇と言ってよいかもしれません。

――多くのトップと間近で接してきた佃さんから見て、「できる社長・CEO」に共通する特徴はありますか?

まずは、当然のことですが、事業の構想力、戦略をつくる能力があるということです。

ある社長は以前、「妄想を構想化することが社長の仕事だ」と私に語ってくれました。印象に残る言葉でした。すごいといわれる社長はみな、「自社の事業を、こんな風にできたらよい」という大きな妄想を抱いています。それをどうやって実現可能な「構想」にしていくのか、これが大事です。

妄想を構想にするのは、経営トップの社長・CEOにしかできません。富士山のてっぺんに立って、会社全体を見渡しているのは社長・CEOしかいませんから。いくら優秀な経営企画部門の課長や部長でも、その人たちが立っているのは5合目や7合目ですから、全体を見ることはできません。

――ほかに「できる社長・CEO」の要素として挙げるとすれば?

「胆力がある」ことです。「腹が据わっている」と言い換えてもよいでしょう。自分が好かれるか嫌われるか、そんなことを気にせず邁進できる人が望ましい。あとは、社長・CEOという肩書を得て満足するのではなく、社長というイスに座ったことで、何が実現できるのかということを意識できる「健全なる野心」を持っていることも重要です。「私心がない」ことも加えたいです。

■「いいチームをつくる」力

――社長への期待が高まる一方、社長ひとりの力で成し遂げられることも限られるように思います。

私が社長に求めたいのは、社内に「いい経営チームをつくる能力」ですね。経営を担う役員どうしの仲が良く、本当に協力し合っている会社はそう多くないです。そう思っているビジネスパーソンは多いのではないですか。「よき経営チーム」をつくることは、社長の大事な能力です。経営チームが機能すれば、そこにいる人材から「次の社長・CEO」が育って、うまくバトンタッチができます。

――コーポレートガバナンス改革では、社外取締役の役割も重要になってきました。

ガバナンス改革においては、社外取締役の活用が必須となりました。その社外取締役の人選をつぶさに見ると、その企業の社長・CEOの資質や度量が分かってくると思います。

日本企業では社外取締役をだれにするか、その人選は実質的に現職の社長や会長に委ねられていると思います。「監督する人」を「監督される人」が選んでよいのかという議論はいったん脇に置くことにして、社長にモノが言える独立心旺盛な社外取締役を選んで配置できているのか、それとも「この社外取締役だったら御しやすいだろう」と思う社外の人材を招くにとどまっているのか。そこは、社長・CEOを見極める大きなポイントです。

社長に対してしっかり意見を言える社外取締役を据えている企業であれば、社長・CEOには「胆力」が備わっていると判断できるでしょう。
また、社外取締役の選任において大事なのは、「監督される」立場である社長が、「監督する」立場の社外取締役を尊敬できるかどうかだと思うのです。主に社外取締役メンバーでつくる「指名委員会」は、社長の解任も大きな仕事の一つです。

仮に業績が振るわなかったり、経営の暴走があったりして、「社長交代」を検討せざるをえなくなったときに、その社長自身が「あの社外取締役に自分の首を切られるのであれば、それは仕方がない」と思えるような人物に社外取締役を依頼するのがベストです。