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「自動で空を飛ぶ」に近づく一歩 アメリカのスタートアップが作った「FlightOS」

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A helicopter in flight during a demonstration of Skyryseユs FlightOS system in Camarillo, Calif., on Sept. 15, 2021. The new technology, meant to simplify and automate the operation of passenger aircraft, provides a glimpse into the future of flight. (Ryan Young/The New York Times)
Skyryse社の自動操縦システムFlightOSを装備してデモンストレーション飛行をするヘリコプター=2021年9月15日、米カリフォルニア州カマリロ、Ryan Young/©2021 The New York Times

ロサンゼルスのすぐ北、米カリフォルニア州ベンチュラ郡の上空を私(訳注=この記事の筆者)がヘリコプターで飛んだのは、最近のある水曜日のことだった。

小さな空港を出発。高度1万フィートほど(約3千メートル)で急旋回し、郡内のカマリロ市の東にある丘陵が描く地平線に向かった。

オレンジの果樹園を蛇行して流れる用水路に沿って、私は速度を上げながら谷を横切り、大きな円を描くようにしてもとの空港に戻った。高度を下げ、いったんホバリングをしてから、コンクリートの滑走路の端に機を静かに着陸させた。

短いけれど、特筆すべき飛行だった。なにしろ、私にはパイロットの資格がないのだから。

このヘリは、人を乗せる航空機の操縦を簡素化し、自動化する最新の技術を備えていた。

ヘリの操縦席には、2台のiPadと操縦桿(かん)が一つ。これを使いながら、私は飛んだ。離陸と方向転換、旋回、加速、上昇、下降、ホバリング、そして着陸。すべて、iPadの画面をタップするか、操縦桿を動かせばよかった。まるで、ビデオゲームのバーチャル空間を飛ぶような感じだった。

「FlightOS」と呼ばれるこのシステムには、「未来の飛行」の一端が垣間見える。

A still image from video provided by Skyryse shows New York Times reporter Cade Metz at the controls of a helicopter over Camarillo, Calif., on Sept. 15, 2021. Skyryseユs Flight OS system is meant to simplify and automate the operation of passenger aircraft. (Skyryse via The New York Times) -- NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SLUGGED AUTOMATED HELICOPTER BY CADE METZ FOR OCT. 25, 2021. ALL OTHER USE PROHIBITED. –
ヘリを操縦してカマリロ上空を飛ぶ筆者=2021年9月15日、Skyryse via The New York Times/©2021 The New York Times

開発元は、カリフォルニア州南部にあるスタートアップ企業「Skyryse」だ。大手の航空機製造会社とも提携。ヘリだけでなく、小型ジェット機までの大きさのあらゆる機種に、このシステムを装備できるようにすることを目指している。

ライバル社もある。その一つは、米ロッキード・マーチン社傘下のシコルスキー。よく知られたヘリコプター製造企業で、同じようなシステムを考案している。

パイロットの姿を、最終的には操縦席からなくそうとしている企業もいくつかある。自動運転車と同じ技術を数多く取り入れ、航空機の完全な自動操縦を実現しようというのだ。

とはいえ、自動運転車が日常の暮らしにとけ込むようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。自動操縦機とて、同じこと。専門家のほとんどは、自動操縦システムが取り付けられても、パイロットの管理に委ねられる歳月が何年も続くことになると見ている。10年で済むだろうか。いや、もっと先までかかるのかもしれない。

Skyryseの社員は、総勢50人。調達した2億5千万ドルの資金が、経営を支えている。何年もの間、自動操縦化を目標にシステムを開発し、テストを繰り返してきた。カメラやレーダー、各種のセンサーを使用。飛行環境を追跡、確認し、これにきちんと対応できるよう工夫を重ねてきた。

自動運転車よりも、自動操縦機の方が完成させやすいとの見方もある。空の方が交通量も、他に動くものも少ないからだ。

しかし、現実は違う。自動操縦の認可が、すぐに下りるようになるとはとても思えない――そんな規制当局の壁を、Skyryseはこの間に認識するようになった。

そこで関係各社も含めて、妥協点を見つけ出すことにした。

「自動操縦機を製造し、飛ばしもする」とSkyryseのCEOマーク・グローデンはいう。「でも、操縦の最終判断は、人間がすることにしている」

Mark Groden, chief executive of Skyryse, in Camarillo, Calif., on Sept. 15, 2021. The companyユs FlightOS is meant to simplify and automate the operation of passenger aircraft, provides a glimpse into the future of flight. (Ryan Young/The New York Times)
Skyryse社のCEOマーク・グローデン=2021年9月15日、カマリロ、Ryan Young/©2021 The New York Times

多くのスタートアップ企業は、よく「空飛ぶ車」と呼ばれるものの開発に取り組んでいる。何十億ドルもの資金が、こちらには流れ込んでいる。

ヘリ同様にこの乗り物も、滑走路なしで発着できる。現在の航空機と違って、もう完全に電動化されている。だから、都市部の通勤手段としては、より速く、安く、環境に優しくなると信じられている。

しかし、問題もある。パイロットを大幅に増やさねばならないことだ。空飛ぶ車のような新しいタイプの航空機が米国の諸都市に開放されると、パイロットが不足するようになる。今の36万人を、向こう10年間で59万人にせねばならない――米大手コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告書は、こうはじいている。

空飛ぶ車を造る何社かは、パイロットなしでも飛べるようにすると反論する。しかし、規制当局が完全な自動操縦を認可するのは、最も早くて2020年代の終わりと専門家のほとんどは見ている。

「自動操縦機の実現に必要なブロックは、かなりの数をすでに手にしている」とイアン・ビラは話す。騒音のない、静かな空の交通を目指す電動航空機メーカー「Whisper Aero」の最高製品責任者で、以前は配車サービス大手の米社ウーバーで電動航空機造りの戦略担当をしていた。

「むしろ、問題の本質は、規制にめげずに市場にきちんと入っていけるかどうかということだ」と指摘する。

The joystick and two Apple iPads used with Skyryseユs FlightOS system are mounted in the cockpit of a helicopter before reporter Cade Metzユs flight in Camarillo, Calif., on Sept. 15, 2021. The new technology, meant to simplify and automate the operation of passenger aircraft, provides a glimpse into the future of flight. (Ryan Young/The New York Times)
ヘリの操縦席にある操縦桿(左手前)と2台のiPad=2021年9月15日、カマリロ、Ryan Young/©2021 The New York Times。これを使うことで、パイロットでなくても操縦が可能になる

技術開発の目標と規制のギャップ。Skyryseのグローデンは、FlightOSでこれを埋めようとしている。ヘリ、ジェット機、空飛ぶ車のどれにでも適用できる幅広いシステムの開発には、何万ドルもかかる。しかし、それが何百万ドルもする航空機に組み込まれるようにすることで、市場に入っていくつもりだ。

自社が対象とする機種に自動化技術を備え付けることで、グローデンはパイロットのやりくりにも余力を生み出そうとしている。飛ぶのがより簡単に、より安全になれば、新人の腕前を向上させる時間をうんと短くできる。経験を積んだパイロットも、FlightOSが広く普及すれば、新たな機種の操縦を素早く習得できるに違いない。

The original prototype for Skyryseユs Flight OS system in Camarillo, Calif., on Sept. 15, 2021. The new technology, meant to simplify and automate the operation of passenger aircraft, provides a glimpse into the future of flight. (Ryan Young/The New York Times)
FlightOSを装備した最初の試作機=2021年9月15日、カマリロ、Ryan Young/©2021 The New York Times

ただし、こうしたことですら、規制当局の認可が必要で、まだ何年もかかるかもしれない。

私は、ビデオゲームの選手ではない。ましてや航空機の操縦となると、もっと疎遠だ。それでも、Skyryseのシステムの基本は、カマリロ空港の格納庫でイスに腰掛けて15分ほどで覚えた。さらに、15分の教習後に、流線形の黒いヘリに乗り込み、操縦席で安全ベルトを締めていた。

重さ2500ポンド(約1134キロ)のヘリをiPadで操るのは、とても愉快で楽しかった。一方で、少しはいらつくこともあった。30分の飛行中、最大の問題は、iPadの向こうに輝く南カリフォルニアの太陽のまぶしさだった。眼鏡の視界がよく利かなくなるときもあった。

いずれにしても、きちんと押さえておかねばならないことがある。飛行中は、資格を持ったパイロットが隣にいたことだ。絶えず細かく説明しながら、私の面倒をよく見てくれた。

向きを東に変えたときだった。操縦桿を動かすのに、私はやや自信過剰になっていたようだ。手が伸びてきて、操縦桿を握ると、機の傾きを修正してくれた。

この新技術を扱えるようになるには、15分以上はかかる。方向を変え、旋回し、高度を上げることは覚えたが、離着陸時の航空管制官との無線通信はできなかった。また、谷を横切るコースの設定も、助けを借りねばならなかった。こうした課題を学ぶことは、最終的には操縦よりも大変な難問なのかもしれない。

「無線通信には、定められた手順などのルールがある。どんな速度でどの高度をとるのか。機のシステムは、どこから安全でなくなるのか。そういったことを誰かに教えてもらわねばならない」。米連邦航空局の委託で研究開発センターを運営する非営利団体Mitreで、人工知能・自律システム部門を率いるジェシカ・ライコウスキーはこう語る。

今回のヘリ飛行は、人工知能が発展途上にあることを改めて思い起こさせてくれた。話の相手をするチャット・ボットからロボット工学まで、最新のテクノロジーは人間とともに使われたときこそ最大の機能を発揮する。人間の代わりとして使われたときではない。

Skyryseは、さらに技術に磨きをかけることにしている。操縦の自動化を進めるにあたっては、航空管制官との通信依存度を引き下げ、パイロット固有の専門領域を減らしていくことが重点になる。

ゴールは、完全な自動操縦という自律性ではない。パイロットをなくすことではなく、万人をパイロットにしてしまうことがゴールとなる。このテクノロジーを取り巻く分厚い規制のおかげでもある。

「今日では、誰もが車を運転できる」といって、シコルスキー社の技術革新担当イゴール・チェレピンスキーはこう続けた。

「誰でも飛行機を操縦できるようになったら、世の中はどうなるだろうか」(抄訳)
(Cade Metz)©2021 The New York Times

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