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私の手料理を食べた後、夫は別の女と夜を過ごした 100年続く女たちの苦しみ

Bestsellers 世界の書店から
相場郁朗撮影

秋風が吹き始めたとたん、文学部門のベストセラーリストに韓国作家の小説が並んだ。読書の秋の到来に、心弾む思いだ。10位圏内に入った6冊は、いずれも女性作家の作品だ。

『明るい夜』は曾祖母、祖母、母、そして主人公ジヨンへとつながる女たちの物語。殴らず、博打をせず、浮気しない男なら、それでいいじゃないかと娘をさとす母。男になんの期待も抱けない母にいら立つジヨン。その母の母は、かわいいとか好きだとか、幸せという言葉を言えずに育った。そんなことを口にしたら、悪鬼が嫉妬してたたられると、曾祖母が教えたから。そんな祖母に育てられた母も、自分の母親を嫌っていた。

植民地の時代も、朝鮮戦争の混乱期も、高度経済成長期も、心から望んだわけではない男と暮らす女たちの、自責といら立ちと忍耐の日々。結婚したジヨンは親元を離れ、手作り料理を夫と食べる幸せを手に入れた。しかし、「彼がその後で外出し、女と夜を過ごしたことを知り、私は料理するのが嫌になった。食材をそろえて洗ったり和えたり焼いたり煮たり……すべての過程に没頭した自分が、おかしかった」。

離婚してソウルを離れ、地方の天文台に勤務するジヨンを、「それくらいのことで」と責める母。精神安定剤を飲みながら苦しむジヨン。満たされない愛の中で、母娘の葛藤は繰り返される。

どんな時代にも、女同士の友情はあった。姉妹のような情で結ばれ、助け合った貧しい暮らし。しかし男たちの都合で、離ればなれになるしかない現実の痛み。

祖母の昔語りを通じて、100年にわたる家族の歴史をたどるジヨン。

「宇宙の時間、もっと短い地球の年齢に比べたら、私たちの命はあまりにも短い。刹那にすぎないこの生が、なんでこんなにも長くて苦しいのか」

作家チェ・ウニョンは大学卒業後に短編小説でデビューした。『ショウコの微笑』『わたしに無害なひと』の邦訳もある。これが初めての長編で、「書き終えるまでの2年間が、成人してから最も苦しい時期だった」と、あとがきにある。連綿と続く家族の葛藤を描いていて、ずっしりとくる読みごたえだ。

■夢を売るデパート ベストセラー第二弾

待ってました、と飛びついた読者が多かった。発売と同時に1位になった『タロクート夢百貨店2』。この1年間、売れ続けている小説の第2弾。前作に続き、夢を売るデパートで働くペニーと同僚たち、夢を作る人々、そして夢を買いに来る客たちの物語だ。

来店しなくなった常連客を案じるペニーは、一人一人の事情を理解しながら、その人に合う夢はなにかと頭を悩ませる。

視力を失った少年は、突然、夢を見るのが怖くなった。ある日、夢の中でまで風景が見えなくなったのだ。現実の世界で奪われた視力を、夢の中でまで奪われたくないと苦しんでいる。

更年期を経て無気力感にさいなまれる女性は、何もしたくないし、誰にも会いたくない。ひたすら暗いところで横になるが、夢を見るのは怖い。どんなすてきな夢を見たって、現実は変わらないではないか。

受験や就職のたびにつまずいて、やる気を失った青年は、早く夢から覚めて元の元気を取り戻したいのに、体が言うことをきいてくれない。作っても作ってもさっぱり売れない、夢作り作家の葛藤もある。人はいったい、どんな夢を見たがるのだろう。

洞窟の奥で、かすかな光の中でじっと過ごしているかつての常連客を見つけたペニー。「私たちのもうけは、お客様の大切な感情と引き換えにいただくものだから、その重みを忘れないように」と教えるタロクート社長。待つことの大切さに気づいたペニー。急がせてはいけない。休む場所が必要な人がいるのだ。

タロクート社長が企画した、町をあげての大パジャマパーティーの楽しいこと。道路に並んだベッドの上でおやつを食べたり、まくら投げに興じたりする人々は、誰もが幸せいっぱいだ。そして売り上げを伸ばした夢とは……。

「いつだって人生は、99.9%の変わらぬ日常と、0.1%の初めての瞬間でできている。季節のうつろいも、帰宅する道のりも、毎日食べるご飯や見慣れた顔も。目新しいものは何もないと悲しむには、99.9%の日常があまりにももったいない」

代わり映えのない日常こそ、かけがえのない日々。その中にある幸せに気づかされ、思わずほろりとする。

がたごと走る路面電車の音。商店街を行き交う人々のざわめき。罪悪感入りクッキーの甘さ。アナログチックな温かみあふれる夢の町。音や色や匂いまで漂ってくるようなファンタジーの世界に、どっぷりと魅了された。第3弾につながりそうな結末に、またしても期待がつのる。

■「大仏ホテル」に出る幽霊

『大仏ホテルの幽霊』は古い港町、仁川(インチョン)に実在したホテルが舞台だ。長崎から渡った堀久太郎が、1888年に建てた。「大仏さん」と呼ばれた福耳の堀が命名した、朝鮮半島初の西洋式ホテルだ。しかし仁川から京城(ソウル)までの鉄道が開通すると経営難に陥り、1918年に中国人に売却された。中華楼というレストランになった後も、上の階はホテルとして機能したという。

小説家である主人公は、母の親友に誘われて仁川チャイナタウンに出かけた。老朽化し壊された中華楼の跡地。立ち入り禁止の看板の内側にたたずむ、緑色のコートの女は誰なのか。

小説家の頭からは、幼いときに抱いた恐ろしいイメージが離れない。殺された姉妹の怨念の伝説と、李王朝の末裔(まつえい)だと主張して敵産家屋(日本式住宅)に住む老婆の姿だ。

「おまえはダメだ」「おまえには書けない」という悪意に満ちた声に悩まされ、小説が書けずに苦しむ主人公はある日、ボーイフレンドの祖母から、中華楼の怪談話を聞かされた。

日本の敗戦直後に共産主義者が押し寄せた町は、法も秩序もない混乱に陥った。右翼か左翼か、隣近所同士で不信感が募り、憎しみ合いと殺し合いが始まった。仁川上陸作戦の爆撃で失われた、たくさんの命もあった。

戦火の中で生き残った少女は、友人の誘いで中華楼の上階に住み始めた。そこにはアメリカから来た女性作家が長逗留していて、ミステリー小説を書いている。少女の友人は得意な英語を駆使して、作家の世話をしている。中華楼で働く華僑は、アメリカへの移住を準備している。
少女の友人に付きまとう、いくつもの謎の死。華僑の存在を憎む韓国人は、中華楼の窓に向かって石を投げつける。生き残った少女は、実は死んだ同級生になりすまして周囲を欺いている。渦巻く欲望と怨恨の数々。この建物は呪われているのか。

主人公の抱く恐怖のイメージの伏線が、終盤に向かって現実の世界とつながってゆく心地よさ。良質のエンターテインメントに、胸が躍る。
仁川には、過ぎ去った人々の思いが宿った建物が数多く残っている。数え切れないほどの物語が染みついた町に、私は今、暮らしているのだ。

大仏ホテルは再建され、展示館となった。この小説を読んだ私は、仁川を訪ねてくる人たちを案内して、「ここには、幽霊が出るのです」と、怪しい笑みを浮かべて言ってみたくなった。

韓国のベストセラー(文学)
8月第5週 インターネット書店「アラジン」より
『 』内の書名は邦題(出版社)

1 달러구트 꿈 백화점2  タロクート夢百貨店2

이미예   イ・ミイェ

夢を売るデパートから遠ざかった客の望みは何か。胸熱くなる幻想小説。

2 지구 끝의 온실  地球の果ての温室

김초엽   キム・チョヨプ

深刻な大気汚染に苦しむ地球を覆い尽くした謎のつる性植物に挑む人々。

3 달러구트 꿈 백화점1  タロクート夢百貨店1

이미예   イ・ミイェ

この1年間、売れ続けている。夜になるのが待ち遠しくなるファンタジー。

4 밝은 밤  明るい夜

최은영   チェ・ウニョン

曾祖母、祖母、母、私。満たされない愛の中で繰り返される母娘の葛藤。

5 완전한 행복  完全な幸せ

정유정   チョン・ユジョン

読者を恐怖の沼に引きずり込む。 韓国を代表する女性ミステリー作家。

6 백조와 박쥐  『白鳥とコウモリ』 (幻冬舎)

히가시노 게이고   東野圭吾

ミステリーなら東野。韓国にも待ちわびている読者がどれほど多いことか。

7 오늘 밤, 세계에서 이 사랑이 사라진다 해도
 『今夜、世界からこの恋が消えても』 (メディアワークス文庫)
이치조 미사키   一条岬

講談社野間文芸翻訳賞を受賞したクォン・ヨンジュが韓国語訳をつとめた。

8 미드나잇 라이브러리   真夜中の図書館

매트 헤이그   マット・ヘイグ

英人気小説家の新作。映画化も決まっており、42の言語で翻訳されている。

9 아처  アーチャー

파울로 코엘료   パウロ・コエーリョ

伝説の弓道家が説く人生の真理。作家自身も長年、弓を習っているという。

10 대불호텔의 유령  大仏ホテルの幽霊

강화길   カン・ファギル

この世に満ちる怨念と悪意。誰かを傷つけたいと願う人々が、そこにいる。