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中国に激震が走った、大胆な教育改革 背景にある、子育てをめぐる深刻な声

アグネスの子育てレシピ
厳しい受験競争が続く中国では、幼児教育の教室も盛況だ=2019年7月9日、北京、延与光貞撮影

■中国の「塾禁止令」

最近中国は教育改革に大胆な政策を打ち出しました。
まずは教育産業の規制に乗り出しました。
近年は教育市場が過熱して、1歳前から子供をいろんな塾やレッスンに通わせる親が増えています。
「早く訓練しないと負ける」という社会的なあおりに焦って、子供達は過酷な競争を強いられています。
親は「子供のため」と思って、高い授業料を払って、家計が圧迫するほどにお金を注ぎ込む風潮に巻き込まれていました。
また学校の先生が課外レッスンを行い、そこに行かないと学校の点数に響くなど、エスカレートしていました。
政府はこの状況を改善するために、この夏に有料の塾や家庭教師を基本的に禁止し、子供を教える場合は非営利の形でなければいけないと指導を出ました。

これにより教育市場に大きな衝撃が走り、上場している大手の塾の株は下落、倒産するところや事業を閉める塾が出てきました。
親はレッスンや塾に頼り切っているので、反対する声が上がりました。
「誰が勉強を教えてくれるの?」
「空いた時間をどうすればいいの?」
親たちは子供たちが学校についていけない、成績が下がる、いい大学にいけなくなると慌てています。

賛否両論の政策ですが、私はこの方向性は間違っていないと思います。
これらの政策はいずれ調整が必要だと思いますが、異常な商業化を止めたのは子供たちのためには正解だと思います。
一度過熱した市場をクールダウンさせ、冷静に教育について考える機会になったと思います。
教育の責任をもう一度学校と家庭に戻し、本当の教育は何なのかを改めてみんなで検討することにつながると思います。
学校が終わっても、子供たちは残ることが許されるようになり、宿題を全て終わって、親は仕事が終わってから迎えに来ることになりました。
夜の8時まで預かることができるシステムを構築して、共働きの家族のサポートをします。

■一部の大学に人気集中

少人数授業をうたう中国の補習塾。「夏休みに勉強しなければ、新学期に泣きをみる」などと書かれたチラシが並んでいた=2019年7月9日、北京、延与光貞撮影

ところで、元々、なぜ塾が必要かと考えると、それは親が良い大学に子供たちを入れたい願望から来るものです。
中国にはたくさんの大学があります。しかし国際レベルで良い大学はいくつかしかないのです。
大学に行くためには難しい統一試験を受けないといけません。
いい成績を収められないといい大学には入れません。
限られているいい大学に入るために、試験に向けて、学校は知識を詰め込む教育を行なっているのです。
過激な競争をなくすためには、多くの大学の質をよくして、学生たちの選択肢を増やすのが根本的な課題だと思います。
受験生が5つくらいの大学に集中している今の状況をなくさないと、塾に通いたい気持ちは消えないと思います。

さらに、統一の入学試験ではなく、高校の成績や、論文により入学を決めることにすれば、学生たちは試験だけに集中しなくてもいいようになります。
それにより教育に自由が増えると思います。
根本的な問題を解決しないで、塾を禁止するだけでは、プレッシャーは解消できるどころか、「塾も家庭教師もないと、うちの子は負け組になってしまう」「勉強できない私はどうすれば子供を助けるの?」
とさらにプレッシャーが増してしまっているようです。
中国は大学の多様化を進めていて、特徴のある大学を多く育てて、学生の選択肢を広げる政策も同時に進めているので、時間はかかっても、いずれ進学の問題は解決できるかもしれません。

■教育の意味、考え直す機会に

もう一つ、子供へのプレッシャーを下げるための政策は、小学校の宿題を半減させるという指導でした。
宿題が多くて子供たちは全く遊ぶ時間がないという現実を、政府が止めに入りました。
しかも小学校1年生と2年生は宿題とペーパーテストが禁止になりました。
喜ぶ親もいれば、
「現実的じゃない。勉強ができない子供になってしまう」
と心配する親も多くいます。
「うちの子は馬鹿になってしまうよ」
と大反対の親もいるほどです。
これは親よりも、教師の皆さんにとってのチャレンジです。
どうやって子供たちの能力を判断するのかが課題になりました。
教える側の見直しにつながる政策は前向きだと私は思います。
宿題を出し、テストをするのは簡単です。
この二つのツールをなくしたら、もっと子供たち一人ひとりに関心を持って指導することになると思います。
教師の負担は増えますが、子供たちにとってはプレッシャーが減ります。
こういった政策により、子供たちが家に戻ったときには宿題は終わっている状態になり、家庭での親子の楽しい時間が増えるという想定だそうです。
これらの大胆な政策は、親も教育産業も教師も、教育の本当の意味を考え直す良い機会になると思います。
試験に強い子供を育てるのか、それとも、未来にふさわしい想像力があって、臨機応変に対応ができて、逆境に強い子供たちを育てるのか。
本当の意味で教育の分岐点になると思います。

■オンラインゲームは「週3日」

親たちのもう一つの心配は、子供たちがオンラインゲームに多くの時間を使っていることです。
「うちの子はゲームに夢中で、他に何もやらない」
「どうすれば止められるの?」
と私のところにもたくさんの相談が寄せられています。
オンラインゲームの人気は日に日に増し、大きいなビジネスになっています。
「まるでゲームの中毒です」と教育の専門家は指摘しています。
その状況を改善するためにも、政府はやはり大胆な政策を打ち出しました。
18歳以下の未成年者はオンラインゲームができるのは週に3時間だけ、金曜日、土曜日と日曜日、それぞれ1時間だけと決めたのです。
子供たちは大ブーイング。親は喜びましたが、「余った時間をどうしましょう」とゲームに子育てを任せている親はわめきました。
私はこの政策には賛成です。
長時間画面に向けるのは子供たちに肉体的も、精神的にも悪影響を与えます。
健全な脳、筋肉、骨の成長を邪魔します。
子供たちができるだけゲームをする時間を減らすのはとってもいいことです。
業界は大きいな打撃を受けていますが、完全の禁止ではないことに「幸い」と思っているようです。
「こんなことが打ち出せるのも中国だから」と日本の友達はいいます。
「日本で提案したら、まず国会で大反対されるでしょう」と。
確かに極端な政策だと思いますが、これから微調整するとして、私は、概ね、子供たちのためにはいい政策だと思いました。

アグネス・チャンさん=山本倫子撮影

さらに学校の改革の一連で打ち出した試みは「教師のローテーション」です。
今まで、教師は一つの学校に止まることが多く、他の学校に移動することは滅多になかったそうです。
それによって、いい教師がいる学校は評判がよく、競争の的になっていたそうです。
「その学校の評判がいいので、子供を通わせるために、引越しをしました」という親が多くいます。
そういう学校の周りの不動産が値上がりするほど、いい学校に子供を入れるために、親はあらゆる手段を使っていたそうです。
公立学校の質の差をなくすために、教師だけでなく、校長も異動させる制度が現在、北京で試されています。
いい校長、いい先生がいれば、レベルの低い学校に移動させて、レベルアップをさせる方針です。
学校の質が平等化すれば、本来の教育の理念が実現できると信じているのです。
これも教師の間に激震が走りました。
単身赴任の場合も出てくるし、安泰して同じ学校で教えることはなくなる事を恐れる先生がいます。
でも、その反面、「新しい挑戦に立ち向かう、面白そう」という使命感に燃える先生もいます。
この政策が成功して、もっと学校のレベルがアップできたら、どこに住んでいる子供たちも質の良い教育が受けられるようになるので、良いことだと私は賛成です。
先生たちには大きな負担をかけてしまいますが、特に農村地域に住む子供たちにとっては、朗報です。
経済格差がだんだん激しくなってきた中国社会をより平等にするために、子供達みんなにいい教育を受けさせるのは必要条件です。
ところが、お金がある人はよりいい質の教育が受けられて、そうでない子供たちは中々いい教育環境に恵まれないのが現状です。
この改革により、少しでも恵まれていない子供達にチャンスが与えられたら幸いです。

この一連の改革のもう一つの目的は、育児のプレッシャーを下げて、出生率を上げる事です。
「子供は産めない。競争が激しすぎる」
「お金がかかる」
「子育ては楽しくない」
という若い女性の声が特に政府を動かしたようにも思います。
教育改革の成果を見るのは時間がかかるので、少子高齢化の改善につながるかどうかは長い目で見ないとわからないですが、健康的で楽しい子供時代を子供たちに与えられることができれば、この大胆な試みは決して無駄ではないと思います。