── スマートシティの実現に向けた課題について伺います。豊田さんは「コモングラウンド」の実装の必要性を提唱されていますね。
豊田 街や居住空間での主体はこれまで「人」でしたが、今後はロボットやAR(拡張現実)アバターといった「人以外」のエージェントとの共存が不可欠です。そこで、人とロボットが共通の空間認識を持つことのできるプラットフォーム「コモングラウンド(共通基盤)」が必要なのです。ロボットが人と同じようにオフィス内を移動できるよう、空間に存在する机やエレベーターといった様々なモノを、あらかじめ汎用(はんよう)性のあるデジタル情報として記述しておく、と言うとイメージしやすいでしょうか。
── コモングラウンド化が進むと、ビジネスのあり方はどう変わるのでしょう。
豊田 現状では自律走行やARは各社各様の仕様で開発されています。建物やあらゆるモノのデジタル記述が進めば、そのデータを用いたサービスを多様な主体が提供できるうえ、実空間に紐(ひも)づいたシミュレーションや予測もできる。そうした汎用性のあるデータを標準として提供できる企業や組織が生き残っていくはずです。
曽我 建物ありきで人やロボットが動くのではなく、人やモノが主体となって動ける環境づくりや、将来の可変性にも対応できるハードづくりは必要ですね。コロナ禍で色々なことが一気にDX(デジタルトランスフォーメーション)で変わり、ライフスタイル自体が変わっています。陳腐化しない街づくりのためには、今までのありようを変えなければいけませんね。我々としても、地域特性をベースに、そこに住む人に対してどういうデジタル技術を用いて新しい空間やチャンス、体験を提供できるか、ということを念頭に考えて開発していきます。
── リモートワークやワーケーションが進み、人がいる場所と、そこで活動した内容をアウトプットする場所は必ずしも一致しない、ということが当たり前になってきました。そのなかで、スマートシティが持つ意味とは何でしょうか。
豊田 物理世界と情報世界をつなげるというスマートシティのあり方は、時間や場所への所属からのさらなる解放をもたらすでしょう。例えば、「1年の半分は東京で暮らし、半分は自然豊かな地方に住む」とか、リモートなら勤務中は100%会社に所属しなくてもいい、となってきた。ライフスタイルの選択肢の広がりは、結果として社会全体の流動性を上げることになるでしょう。スマート「シティ」というと都会ばかりと誤解されがちですが、都会や地方が対等になれる可能性だって生まれてくるんです。
── インドネシアの「BSD City」プロジェクトをはじめ、スマートシティ開発にかける思いをあらためてお聞かせください。
荒木 「スマートシティ」と一言でいっても、解決すべき社会課題やニーズは、東南アジアと日本、あるいは大都市と地方では異なりますし、時間の経過とともに変わっていきます。日々、スマートシティの決まった枠組みや最終形というものは存在しないのだなと実感しています。私たちはまず、三菱商事が長年培ってきた不動産事業にデジタルを実装し、多様な事業領域を融合させることで新たな価値を創出していくことを目指して取り組んでいきます。そして今後も、街に暮らす人や訪れる人、さらにはロボットなども含めた利用者のことを第一に考える「ユーザーファースト」の視点を何より大切に、挑戦を続けていきたいと思っています。
宮﨑 スマートシティ開発を通して、人口の増減やエネルギー問題といったさまざまな社会課題の解決に寄与できることに、大きなやりがいを感じます。また、日本のものづくり企業が持つ知見やノウハウは、スマートシティ開発においては非常に大きな強みとなります。高度経済成長期のように、底力のある日本の企業が再びグローバルなフィールドで存分にその技術力を発揮できるよう、我々も力を尽くしていきたいと考えています。
曽我 未来の話や机上の空論ではなく、住民の方々がいま実際に生活していること、そしてリアルな反応をいただけることは、「BSD Cityプロジェクト」特有の迫力であり、同時に大きな原動力につながっています。それから、スマートシティという未だ成功モデルの見えない事業を真ん中にして、いま組織や業種の垣根を越えて色々な人が議論し、実現に向け動いています。この試行錯誤を通して生まれたものが、また新たな事業に伝播(でんぱ)したり、次の世代のビジネスの種を生み出したりするはず。皆でもがきながら、そして楽しみながら、スマートシティ開発に今後もとことん注力していくつもりです。
【座談会 ダイジェスト動画】